大学に入りこむ「キャンセル・カルチャー」、「ウォークイズム」を警戒する教育団体

(2021年7月9日)

In this March 1, 2021, photo, protesters and counter-protesters gather at the Dixie State University campus to express opinions on the potential name change of the university in St. George, Utah. (Chris Caldwell /The Spectrum via AP)

By James Varney – The Washington Times – Thursday, July 1, 2021

 「キャンセル・カルチャー」が各地の大学に広まるにつれ、他は申し分ない教員たちが長年の教育慣行に従ったり、まったく悪気なしに「反則的な」用語を使ってしまい、突然、厄介者として追われる羽目になっている。

 「高等教育に関わり10年ほどなので、今の状況が最悪なのか断定できませんが、提出された苦情事案の数は昨年、記録更新しました」-大学構内の言論の自由を擁護する非営利団体「教育現場の人権財団(FIRE)」のダニエル・バーネット氏はこう指摘した。

 同氏によれば、「FIRE」は事案増加を一つの理由に特定できないものの、この現象は2020年5月ころから顕著になった。その月はジョージ・フロイド氏がミネアポリス警察に拘束・殺害されて、抗議の波が巻き起こった時期に当たる。

 「我々が処理した苦情件数は、2020年5月の60件が、翌月282件になり、昨年夏以来、目に見えて増加してきた」、バーネット氏は説明した。 「以来、ひと月を除き毎月の苦情件数は三ケタ台を続けており、そんなことは2007年から通算9回しか起きていない。2021年の苦情の3分の1は教職員から出されている。」

 ジェイ・バーグマン教授は、セントラル・コネチカット州立大学の終身歴史教授で、ニューヨーク・タイムズ紙の「1619年プロジェクト」は歴史的に見て正確性に欠けると指摘した。問題の「1619年プロジェクト」の主要記事はピューリッツァー賞を受賞したが、奴隷制度を米国史の目玉に据えようとして、いくつか誤りを犯していることが複数の歴史学者から批判されてきた。

 しかしバーグマン教授は一歩進め、この1月、コネチカット州一帯の教育監督官に親書を送って、「1619年プロジェクト」は米国独立戦争や他の歴史事件の原因記述が不正確なので、これを幼稚園から高校までのカリキュラムには採用しないよう督促した。

 同教授の書簡では教育関係者に対し、自らの専門はロシア史だから、自分の言葉を額面通りに受け取らないよう断っている。その代わり同教授は、アイビーリーグの学者でピューリッツァー賞を受賞したゴードン・ウッド教授や、ジェームズ・マクファーソン教授が書いた反論を引用したり、「1619年プロジェクト」の起案者ニコール・ハンナ・ジョーンズ氏の論考に触れている。

 そのジョーンズ氏はニューヨーク・タイムズの特集について、「誤りだ、大半が誤りだ、そうでなくても誤解を招くものだ!」と切り捨て、ノースカロライナ大学のジャーナリズム学科で終身教員に任じられたばかりのハンナ・ジョーンズ女史のことを、「偏屈なアンチ・ホワイトだ!」と呼んだ。

 「私がここに提起するのは非常に重要なことだ」、バーグマン教授は書いている。 「今日アメリカの学生は、我が国が保有してきた美しい徳性や、勝ち取ってきたもの、達成してきた成果とともに、我が国が挫折したことや不十分だったことについても教わっている。それは学生たちが、政治指導者や彼らの政策について、詳しい情報に基づき合理的に判断できる次代の市民社会を創るのに不可欠なものだ。」

 おそらく想定していただろうが、バーグマン教授の書簡は受取人の一人によって公開され、同教授は途方もない反発を受けることになった。

 「私と同僚は正に背水の陣だ」、バーグマン教授はワシントンタイムズに語った。 「私は学部会で面と向かって人種差別主義者と呼ばれた。だが私へのあらゆる批判に、私の主張を挫くような経験的証拠は一つもない。私の指摘の誤りを暴いたり、疑問を投げかける断片もない!」

 今のところセントラル・コネチカット州立大学の本部は、バーグマン教授を解任または非難せよ、との学部からの要求を拒否し、教授の知的自由を擁護しているが、同教授の見解には「強く反対する」と明らかにした。

 保守的なことで知られる全米学識者協会(NAS)のピーター・ウッド会長は、同州立大学本部の勇気ある対応は称賛に値すると評した。バーグマン教授は同協会の理事の一人であり、協会も右翼過激グループだ、とセントラルコネチカット州立大学の教職員からは攻撃されている。

 バーグマン教授のこうした遍歴は、同氏やウッド教授が全体主義を示唆するように、知識人が学者としての見識に従うよりも、支配的な政党の方針に従わざるを得ない知的状況で起きている。

 「それはボルシェビキ政策下のソ連の類だ」、バーグマン教授は指摘する。 「彼らが求めるのは、政治の本流に従属させることだ。」ウッド教授もその見方に共鳴した。

 「学部の教職員は攻撃するよう教え込まれているだけでなく、ささいな苦情なのに誰もそのことを指摘せず、その苦情で叩けば学者の職歴を吹っ飛ばす力を保有した学生連中と、一緒に薄氷を踏む日々を送らなければならない」、ウッド教授はタイムズ紙にこう述懐した。

 スタンフォード大学ビジネススクールで数十年教鞭をとった企業幹部のジョシュ・ピーターソン氏も、そうした苦情や学内の雰囲気に共感を示す。ピーターソン氏は雇用に当たって人種を無視するよう主張し、星条旗に共感を持つと認めたことで、同氏が「社会正義ゲリラ」と呼ぶ連中と衝突したことを、先週の「デザレット・ニュース」に書いている。

 「人々の(人種などの)アイデンティティを度外視してリーダーを探す私の決意について、気分を悪くしたジェンダー研究専攻の女子学生は、「わめき出すか、吐き気をもよおす気分だった、と書いた。」

 ピーターソン氏は自らへの告発がうわべだけだと見なし、また教育畑と社会的に獲得してきた長年の実績を堅固な保険と考えて、「直面しているリスクの大きさを誤認してしまった」と述懐している。

 同氏はまた、「このウォークな新世界では、出生時にあてがわれた人種と性別のせいで、私の専門的経験はもはや重要でなかった」と書いた。 「数万人分の雇用を創出し、女性やマイノリティを昇進させ、多数の起業家を指導したにもかかわらず、私は「ウォーキズム」の教理問答では「抑圧者」の烙印を押されてしまったのだ。」

「人種差別に反対する修辞学と教育学」

 見さかいのない非寛容な知的態度、と二人が表現する状況を、バーグマン教授は生き延びたが、ピーターソン氏は犠牲になった。バーネット氏とウッド氏に言わせれば、どちらも孤立した事件ではない。

 ウッド氏によれば、こうした攻撃の甚だしさはソーシャルメディアおよびハイテクによる連結性によって増幅された。「 例えば、ある人物の10年、20年または30年も前の発言をほじくり出す、標的の人物を圧倒すべくソーシャルメディアを迅速展開する、大学本部が告発された人物に公正な弁明の機会を与えようとしない、証拠の有無にまったく配慮しない、道義的にパニックに陥って苦情や告発が煽られる、さらに傍観者は被告発者を擁護すれば、次は自分に禍が降りかかるとマヒ状態になる、などだ」。「これらの要素が加味されて新しい状況、すなわち教育界に射撃効果をもたらしている。」

 また先週、前述の「FIRE」が発表したオクラホマ大学についての報告によれば、大学は教育現場を多様な意見が出しにくい空間にしようとしている。

 そうした例として「FIRE」が公開したビデオと録音によると、大学院生と新進の教員を対象にした「人種差別に反対する修辞学と教育学」ワークショップで、指導員たちは特定の観点から議論を進めることをわざわざ禁止していた。

 「問題のワークショップの中で、憲法上は保護されているが教室内では不人気な言語表現を排除する方法について指導員を訓練し、研究課題や討論を好ましい範囲に誘導する。これらはみな、明らかにイデオロギーと、一定の観点に根差した理由によるものだ」、「FIRE」は報告している。

 バーネット氏は、オクラホマ大学を学内の言論の自由保護という面で「悪い実例」と見なし、「FIRE」が批判した昨年の別の多様性に関する必修ワークショップについて触れている。

 そのワークショップで発表者の一人、ケッリ・パイロン・アルバレズ氏は、おそらく半信半疑だった教員の卵たちに、検閲を怖がらないよう次のように語った。

 「恐れているのは、それによって問題を起こすことですね?!」、彼女は出席者に言う、「私達は学生たちに、授業中に何かを発言してはいけないと言えない。しかし、できるんです、その方法をお話ししましょう。」

 大学本部は同ワークショップの参加が義務ではなく、英語学科が提供した複数のワークショップであって、如何なる立場や見解に水を差したことはない、と主張した。

 「オクラホマ大学は自由な表現と多様な観点を明白に重視しています」、そう語ったのは同大学で多様・公平・包括を指導するベリンダ・ヒッグス・ヒッポライト副学長(多様性に関する最高責任者)だ。

 「本学で学生に対する検閲を支持・容認することは断固ありません」、同副学長は言う、 「ワークショップの題材は、教育上やりがいのある面を考慮したものです。ワークショップのカリキュラムは、指導員が教育現場で人種差別的な発言にどう対処するか考案されました。」

 しかし「FIRE」の報告を読みビデオを見たオクラホマ州議会議員の数人によると、大学当局は押し付け教化の気味がある内容を、和らげているだけだという。

 同大学卒業生の一人で共和党のロブ・スタンドリッジ上院議員は、「強制的な要素があり、こうした討論に決して入り込ませるべきでないイデオロギー的な信念を受け入れるよう強いられている」と感想を述べた。 「授業の主旨が、『私が願うとおりに信じるか、さもなければ本校から出ていきなさい』というのなら、私たちは高等教育という事業を何のためにしているのだろうか?」

 しかし、「今では状況が違う」、バートマン教授はセントラル・コネチカット州立大学をはじめ、同教授が身近な他大学の雰囲気について語った。 「今や大学関係者は本物の信者を願っています。大学の信念に基づき行動してくれる真の信者を望んでいます。」

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