ベネズエラ・マドゥロ政権崩壊で変容する世界の石油市場

(2026年1月20日)

2026年1月14日(水)、ベネズエラ・プンタカルドン沖のベネズエラ湾で、漁師たちが石油タンカーのそばを通過する。(AP通信/マティアス・デラクロワ撮影)

By Joseph Hammond – Special to The Washington Times – Wednesday,January 14, 2026

 【ロンドン】米国は1月3日、ベネズエラを攻撃し、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束、連行した。米国にとって1989年のパナマ侵攻以降で最も重大な外国への介入となった。カナダのパイプラインを巡る駆け引きや中国の投資戦略など、世界のエネルギー情勢に大きな影響を及ぼすのは必至だ。

 ベネズエラに巨額の投資を行ってきた中国などの国々は、トランプ政権と、米石油会社が次にどのような動きに出るのかを注視している。トランプ大統領は、破綻したベネズエラ石油産業を立て直すよう米石油企業に呼びかけている。

 一部推計によると、中国は、社会主義者ウゴ・チャベス大統領(当時)の下でベネズエラが2007年に石油産業を国有化して以降、同国に少なくとも1000億ドルを投じ、最大200億ドルの債権を有している。だが、ベネズエラ政府をホワイトハウスが支配する現状では、中国がその債権を回収できる可能性は低い。

 中国石油天然気集団(CNPC)と中国石油化工集団(シノペック)の2社は、ベネズエラの石油産業に巨額投資を行ってきた。拘束前日、マドゥロ氏は中国外交官の代表団と会談していた。トランプ氏が承認した今回の急襲によって、ベネズエラだけでなく南米全体の中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に、大きな影響が及ぶことになる。

 ジョージア大学教授で中南米エネルギーの専門家ティム・サンプルズ氏は「ベネズエラは中国にとって金食い虫だった。程度は小さいがロシアにとっても同様だった。中国はベネズエラに過剰に投資した。これほど投資しなくても石油と影響力は確保できたはずだ」と指摘した。

 中国も米国も、手つかずのベネズエラ資源の魅力に抗うことはできなかった。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、ベネズエラの原油埋蔵量は3030億バレルで、世界全体の約17%に相当する。ただし、同国の石油はタール状の重質油で、生産コストが高い。

 ベネズエラ国営石油・ガス会社ペトロレオス・デ・ベネズエラ(PDVSA)の元アナリスト、ホセ・チャルフーブ氏は、「安定した投資を2、3年、例えば800億ドル行えば、日量160万バレルを生産できる可能性はある」と語った。

 同氏はワシントン・タイムズに「2004年にPDVSAに入社した際、日量340万バレルを生産しているとする内部文書を見た。10年以上後に退社した時には、生産量は3分の1以下に落ち込んでいた」と明かした。

 世界最大の石油埋蔵量を誇るというベネズエラだが、現実は厳しい。首都カラカス在住のベテランアナリスト、チャルフーブ氏は現在、各国政府やフォーチュン500企業に世界の石油市場について助言を行っているホセ・パレホ・アンド・アソシエーツに所属する。同氏は、オリノコ川流域のオリノコベルトの石油は重質油で、量は多いが海岸線から遠く、採掘が困難との見方を示した。

 「現在、オリノコベルトで1バレルを生産するのに35~40ドルかかる。原油価格は低水準で推移すると予測され、投資してもすべてを回収するのは不可能だ」

 こうした現状は少なくとも当面は、カナダ西部に有利に働く。米国の精製業者が引き続き、北からの安定したパイプライン供給に依存しているためだ。将来、カナダからの輸入に関税が課されたり、他の誘因が設けられたりすれば、ベネズエラ産原油が米精製業者にとって魅力的になる可能性がある。全国世論調査では、カナダ国民の大多数が太平洋岸に新たな石油パイプラインを建設することを望んでいる。

 カナダの保守党党首ピエール・ポワリエーブル氏は今月、米国の介入がカナダに与える影響に関するSNS投稿で「石油資源が豊富なベネズエラの状況が変わったことで、カナダは太平洋岸へのパイプライン承認を急ぎ、カナダ産原油を日量数百万バレル海外に送り、単一の顧客への依存を断ち切る必要が出てきた」と述べた。

 チャルフーブ氏は1月3日、米軍が「絶対的決意」作戦の一環として、カラカスの自宅付近の国防省本拠地フォートティウナ周辺を攻撃したため、避難した。作戦中、米特殊部隊はマドゥロ氏の護衛に当たっていたキューバの精鋭兵32人と交戦し、殺害した。

 キューバ部隊は、キューバとベネズエラの間の「バリオ・アデントロ」協定に基づきベネズエラに駐留している。この協定の下、キューバは兵士や情報員1万5000人と、多数の医療関係者を派遣し、低所得地域でサービスを提供してきた。

 チャルフーブ氏は「キューバはそれらの原油を事実上ただ同然で受け取っており、その多くは転売されていた。メキシコやロシアが過去にキューバへ原油を供給したことはあるが、今後も続く可能性は低い」と述べた。

 ベネズエラの石油支援の多くは転売され、キューバ政府にとって、貴重な現金収入となっていた。キューバは、トランプ政権から腐敗した麻薬国家と非難されている。

 ベネズエラでの米国の行動によって、メキシコの左派政権がキューバへの関与を見直す可能性が高い。中国は近年、キューバのエネルギー部門への関与を強め、各地で太陽光発電所の整備を支援している。

 ベネズエラで投資しやすい体制が成立した場合、特に大きな恩恵を受けるとみられるカリブ海国家がある。トリニダード・トバゴだ。

 同国の首相は、米国のベネズエラ介入を歓迎した。島国である同国は昨年11月、米海兵隊のAN/TPS80地上航空任務指向レーダー(G/ATOR)の配備を受け入れ、他の米軍装備も受け入れてきた。

 マドゥロ氏は、トリニダード・トバゴのカムラ・ペルサド・ビセッサー首相が米国によるベネズエラ孤立化に協力したと非難、わずか7マイル(約11キロ)しか離れていないにもかかわらず、12月に両国間のすべてのエネルギー・商業関係を断絶した。

 地域の地政学的変化を受けて、英エネルギー大手シェルはベネズエラとトリニダード・トバゴの海上国境に位置するドラゴン・ガス田開発計画を再開する可能性がある。同社は、ベネズエラを刺激することを恐れ、以前の計画を棚上げしていた。

 ベネズエラに安定した政権が成立すれば、ガイアナの石油産業を巡る政治リスクも大幅に低下する。2024年3月、ベネズエラは長年の国境紛争を理由に、ガイアナの大部分が自国領だと主張する法律を制定した。ガイアナは1人当たり石油生産量で世界3位で、さらなる投資誘致に意欲的だ。

 市場の動きはミサイルより遅く、西半球の中長期的なエネルギー情勢は不透明だ。

 チャルフーブ氏は「今、ベネズエラ国民は衝撃を受けている。わが国が外国から空爆を受けたのは初めてだ。まず、今後の政治状況をはっきりさせる必要がある。エネルギー分野で本格的な新政策や投資に踏み出すのはその後だ」と語った。

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