北朝鮮の憲法改正に揺れる韓国 南北統一は非現実的なのか

(2026年5月11日)

北朝鮮政府が提供したこの写真には、2026年3月23日(月)、北朝鮮の平壌にある国会で行われた最高人民会議の会議で演説を行う同国の指導者、金正恩氏の姿が写っている。北朝鮮政府が配信したこの画像に写っているイベントについて、独立系ジャーナリストは取材を許可されなかった。この画像の内容は提供されたままのものであり、独自に検証することはできない。(朝鮮中央通信/韓国ニュースサービス via AP)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Thursday, May 7, 2026

 【ソウル(韓国)】北朝鮮が今年に入り憲法を改正し、民主主義体制の韓国との統一をもはや優先課題と見なさないとする文言を盛り込んだ。これに対して韓国では、一部で楽観的な見方が出ているものの、懐疑的な見方が大勢を占めている。

 改正は公表されていなかったが、韓国国家情報院(国情院)が今週報告したことで注目を集めた。

 一部の韓国国民の間では南北関係改善への期待が高まっているが、懐疑派は今回の改正は「計算ずく」とみている。北朝鮮が韓国の繁栄に対抗できなかったこと、そして北主導の統一が不可能であることをようやく認めたとも受け取ることができる。また、独裁支配をさらに強固にするのが狙いとの見方もある。

 最も注目される変更点は、北朝鮮が長年掲げてきた「統一」の概念を放棄したことだ。この方針自体は新しいものではなく、金正恩朝鮮労働党総書記が2023年12月の党中央委員会総会で既に打ち出していた。ただ、憲法に明記されたのは今年3月だ。

 金氏の統治体制を考えれば、この変更が韓国のような政治的論争や国民投票を経て決定された可能性はほぼない。

 南北統一は、1948年に朝鮮半島に2つの国家が誕生して以来、北朝鮮の基本目標だった。北朝鮮は1950年に韓国へ侵攻し、3年間の戦争で数百万人が死亡した。その後も朝鮮半島は分断されたままだ。

 統一放棄と2国家体制の正式承認は、北朝鮮に一定の「道義的優位」を与える可能性もある。韓国憲法は今も朝鮮半島全域を自国領と主張しているためだ。

 韓国憲法第3条は「大韓民国の領土は朝鮮半島と付属する島嶼(とうしょ)とする」と定めている。

 第4条では「(韓国は)統一を模索し、自由で民主的な基本秩序に立脚した平和的統一政策を樹立し、これを推進しなければならない」と規定している。

 しかし「自由で民主的な秩序」という表現自体が、国民にほとんど権利や自由を認めない北朝鮮にとって受け入れられるものではない。

 今年の「ワールド・ポピュレーション・レビュー」は、北朝鮮をアフガニスタンに次ぐ世界第2位の全体主義国家と位置付けた。

 北朝鮮は大量破壊兵器に巨額投資を行い、ロシアのウクライナ侵攻を後方支援し、2024年には何千人もの兵士をロシアへ派遣してウクライナ軍との戦闘に参加させた。

 それでも国情院が4日、国会で示した分析は、肯定的だった。

 聯合ニュースによると、国情院は議員らに「韓国に対する敵対的発言は全くなかった」「2国家路線を明確にしながらも、対韓敵視姿勢を大幅に弱めた」と説明された。

 また北朝鮮の新憲法は、南側領土の範囲を韓国との国境までと認めている。

■北朝鮮の狙いは

 韓国情報機関に近い関係者は、北朝鮮の憲法改正を普通の国の常識で判断すべきではないと警告する。

 匿名を条件に取材に応じたこの関係者は「北朝鮮憲法は韓国ほどの重みを持っていない。形式的なものに近い」と指摘。「最終決定権は金正恩氏にあり、それは北朝鮮国民自身も理解している」と語った。

 それでも、今回の変更は前向きな兆候だという。

 「南北関係はまだ生きているというシグナルを送っているのだと思う。北朝鮮チームがサッカー大会に参加するのも偶然ではないだろう」

 5月20日には、平壌を本拠とする女子サッカーチームが、アジア・サッカー連盟女子チャンピオンズリーグ準決勝で韓国チームと対戦する。

 北朝鮮選手団が非武装地帯を越えて韓国入りするのは、2018年の平昌冬季五輪以来初めてとなる。当時は複数の北朝鮮代表団が韓国を訪れた。

 北朝鮮側は、南北関係改善を掲げる李在明大統領から歓迎される可能性が高い。李氏は保守系の尹錫悦前大統領による対北ドローン侵入問題を巡っても調査を進めている。

 海外の朝鮮半島問題専門家は、韓国側も北朝鮮の方針転換に応じるべきだと主張する。

 韓国系米国人の平和活動家チャールズ・パク氏は「本当に前向きなのは、北朝鮮が朝鮮戦争継続の最大理由だった『統一』を取り下げたことだ」と指摘。「和平への重大な提案であり、韓国が本当に平和と関係正常化を望むなら応じるべきだ」と語った。

 朝鮮戦争は1953年の休戦協定で終結したものの、その後もスパイ工作や海上での衝突など流血事件が繰り返されてきた。南北は現在も緊張状態にあり、防衛費が双方の経済を圧迫している。

 前出の情報関係者も、北朝鮮の動きが理念より現実的な計算に基づくものである可能性があることを認めている。

 「これは保険だ。北朝鮮は韓国を飛び越えて米国のトランプ大統領と直接交渉したかった。しかし、トランプ氏の任期は、自国の核保有国としての地位を米国に認めさせるほど長くはないと判断している」

 一方で「韓国は依然そこに存在し、現在は非常に友好的に見える」と述べた。

 また、ウクライナ和平が実現し、ロシアが国際社会復帰を目指した場合、北朝鮮がロシアに見捨てられることへの警戒感も北朝鮮にはあるとの見方を示した。

 別の専門家は、今回の改正は北朝鮮自身の国家的失敗を認めざるを得なくなった結果だと分析する。

 韓国は米国主導の世界貿易体制の中で繁栄し、民主化と国際化にも成功した。一方、北朝鮮は孤立し、被害妄想にとらわれ、貧しく、軍事力以外で世界での存在感を持てなくなっている。

 ソウルの国民大学で朝鮮半島問題を研究するアンドレイ・ランコフ教授は「金氏の発言は、何十年も前から現実だったことを認めただけだ。南北は別々の国家であり、平和交渉による統一は現実的ではなかった」と語った。

 「統一が可能なのは暴力的シナリオだけだ。北による南の征服か、北の革命・政権崩壊後に南が北を吸収する場合に限られる」と指摘した。

 また金氏の新路線は、情報を手に入れた北朝鮮国民が抱いている不安を和らげる側面もあると分析した。

 ランコフ氏は「外国である豊かな隣国の繁栄は、その国が自国の一部でなければ受け入れやすい。もし自国の一部なら、その成功は自国政府への疑問につながる」と指摘した。

 過去に同様の例がある。東ドイツは、西ドイツの急速な経済成長に取り残された結果、1974年に両国を「一つの国家」と呼ぶのをやめた。

 武力統一が困難なのも同じ理由だという。北朝鮮兵士が韓国の豊かさを知り、活気があり、民主的な韓国国民を抑え込むことが困難であることを理解すれば、北朝鮮にとって韓国を「取り込むことは不可能」になるとランコフ氏は語った。

 ただし、北朝鮮の新方針は、憲法上「平和統一」を掲げ続ける韓国を難しい立場にも置く。

 ランコフ氏は「韓国は現実を否定し、平和統一を目指すと言い続けることはできる。しかし、ダンスは2人で踊るものだ。どこか滑稽に映る」と語った。

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