「現実よりもリアル」―フェイクAI政治広告にだまされやすい高齢有権者

(2026年5月27日)

AIによるフェイク広告(ワシントンタイムズ動画より)

By Seth McLaughlin – The Washington Times – Monday, May 18, 2026

 トマス・マシー下院議員(共和党、ケンタッキー州)が民主党のリベラル派有力議員2人と恋愛関係にあるかのように描かれた人工知能(AI)生成の中傷広告について警鐘を鳴らし、高齢有権者が誤解し、動揺する恐れがあると訴えた。

 この広告では、マシー氏がアレクサンドリア・オカシオコルテス、イルハン・オマル両下院議員と手をつなぎ、ホテルにチェックインする様子が映し出され、「トーマス・マシーのスロプル、2人と関係!」との字幕が添えられている。

 トランプ大統領が支援する予備選候補者エド・ガルレイン氏と19日に対決するマシー氏は、「必死さがにじみ出ている。しかし、彼らは高齢世代がこれがAI生成の虚偽だと気づかないことを期待している」と語った。

 加齢と欺瞞(ぎまん)の研究者らによれば、マシー氏の指摘には一理あるという。

 フロリダ大学のナタリー・エブナー氏とディデム・ペフリバノール氏は、高齢者は極めて本物らしく見えるAI生成の写真、動画、音声への対応が難しいと指摘する。トランプ大統領を支持するスーパーPAC(政治活動委員会)「MAGA・KY」が資金提供したこの広告は、その典型例だという。

 広告ではナレーターが「これは不倫よりひどい。トランプ大統領とケンタッキー州の保守派への完全な裏切りだ」と語る。

 小さくAIによる制作と明記されているものの、視覚映像が強い印象を与えている。

 エブナー氏とペフリバノール氏は、それこそが危険なのだと語る。

 AIによるディープフェイクは、滑らかで洗練された「ハイパーリアリズム(超写実主義)」であることが多く、高齢者の脳はそれを本物と誤認しやすい。脳にとって処理しやすくなるためで、その処理しやすさが誤解を招く可能性があるという。

 エブナー氏は「実物以上に本物らしく見える。情報が単純であるほど、高齢者の脳は処理しやすくなる」と語った。

 そこに「真実バイアス」―目にしたものを本物だと思い込む本能―が加わると、危険性はさらに増す。このバイアスは年齢とともに強まり、繰り返し接触することで一段と強固になる。ペフリバノール氏は「繰り返されることで脳が『ああ、これは本物だ』と確信する」と説明した。

 政治の世界は、この新たな状況への対応を迫られている。ケンタッキー州予備選もその一例だ。トランプ大統領の不興を買ったマシー氏を引き続き支持するかどうかの有権者の判断にも影響が及ぶ。

 広告技術企業「アドウェーブ」の共同創業者デービッド・マーティン氏は、AIの台頭によってテレビ広告の従来のコスト障壁が崩壊したと語った。

 かつては広告代理店、制作スタジオ、(広告枠を買い付け、運用する)メディアバイヤーを必要とし、1万~1万5000ドルかかっていた工程が、今では50ドル程度で済み、一晩で放送可能な広告が完成するという。

 この変化により、大規模な選挙陣営だけでなく、これまでテレビ広告を打つ余裕のなかった市長候補や保安官候補にも道が開かれた。

 テレビは依然としてSNSにはない信頼感を持つため、見慣れたテレビ局で虚偽のAI生成広告を目にした高齢視聴者は、その内容を疑わない可能性がさらに高い。

 マーティン氏は「特に新技術や新興技術の登場時には、まるで西部開拓時代のような時期がある。私たちは今まさに、AIに関してその時期にある。技術の進歩は法整備よりはるかに速く、率直に言って規制はほとんどない」と述べた。

 「ほとんど無法状態で、かなり恐ろしい」

■ディープフェイク広告の急増

 AI広告による制作費急落、高齢有権者特有の脆弱(ぜいじゃく)性、怒りをあおる党派的動機が重なり、この種のコンテンツの拡散に理想的な環境が生まれている。

 その変化は既に目に見えている。

 リアリティー番組の元スターで、ロサンゼルス市長選に出馬しているスペンサー・プラット氏は、一連のAI生成広告で市長選を揺さぶっている。再選を目指すカレン・バス市長をジョーカー風の悪役に見立て、自身を街を救うバットマン風ヒーローとして描いた広告もそのうちの1つだ。

 カリフォルニア州だけではない。テキサス州ではケン・パクストン司法長官が、AI広告で対抗馬のジョン・コーニン上院議員を攻撃した。この広告では、コーニン氏が、共和党支持層の反感を買っているリベラル派のジャスミン・クロケット下院議員と踊る様子が描かれている。これに対しコーニン陣営は、ニューウェーブバンド「B52’s」風の広告で、パクストン氏が「ラブシャック(愛の小屋という意味、B52’sの代表曲)」で愛人疑惑の女性らとパーティーをする様子を描き反撃した。

 全米レベルの共和党も参戦している。上院共和党の選挙対策機関、全米共和党上院委員会は、民主党候補ジェームズ・タラリコ氏が自身の過去のSNS投稿を読み上げるAI生成広告を放映した。その中には2021年の「過激化した白人男性は国内最大のテロ脅威だ」とする投稿も含まれている。

 メーン州では、民主党候補指名が確実視されるグラハム・プラトナー氏が、上半身裸でパソコンの前に座る愚か者として描かれている。

 大半の米国民にとって、これはまったく新しい領域だ。

 2023年のピュー・リサーチ・センターの調査では、米国人の約6割がディープフェイクとは何かさえ分からないと回答した。プリンストン大学とニューヨーク大学の「ソーシャルメディア・政治参加研究所」の研究では、2016年大統領選期間中、「フェイクニュース」サイトへのリンクをフェイスブックで共有した米国人は9%未満だったが、その行動は65歳以上で著しく多かった。

 虚偽情報をフェイスブックで共有していた65歳以上の有権者は、18~29歳の有権者の約7倍に上った。

 ただし研究者らは、高齢者の脆弱性は一律ではないと強調する。分析力が高い、あるいは技術に詳しい高齢者は、改変されたコンテンツを見抜くことができるという。

■党派性も影響

 一方で、高齢有権者が偽のコンテンツを信じ拡散しやすい理由は、認知機能低下だけではないとの指摘もある。

 ロチェスター工科大学のギリェルメ・ラモス助教は、コロラド大学ボルダー校との共同研究で、55歳以上の成人が偽情報を共有する傾向が強いのは、党派性が強いためだと結論付けた。

 この研究は文字化されたニュース報道を対象に行ったもので、ギリェルメ氏は「誰でも自分の属する集団に有利な情報を信じ、共有しがちだ。高齢者はそうした党派的傾向が強い」と説明した。

 「スロプル」広告についての質問には、「危険なのは、高齢有権者がAIの存在を知らないことだけではない。AIはこうした虚偽の物語を、より鮮明で感情に訴えるものにしてしまう点だ」と答えた。

 「それによって信じやすくなり、その内容が本人の党派的物語に合致する場合、共有される可能性も高まる」

 これらの研究を総合すると、高齢有権者は二重の危険にさらされている可能性がある。高度なディープフェイクにだまされやすく、一度信じればさらに他人へ広めやすいということだ。

 ラモス氏は、まさにその点こそがAI生成コンテンツを強力なものにしていると指摘した。

 「この技術が登場する以前から、人々はこれと同じように、だまし、拡散させるという二重の目的のため、虚偽の物語や文脈を欠いた画像を共有していた。新しいのは、こうしたAI生成動画があまりに鮮明で、信じやすく、魅力的であるため、人々がさらに共有しやすくなっている点だ」

 「こうしたAI広告は、この二重の目的を達成していると思う。そして、共有する傾向が高まることで、より効果的かつ効率的に機能しているのだろう。なぜなら、AIコンテンツは従来より簡単かつ安価に制作できるからだ」

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