サプライチェーンの混乱、中国のコスト上昇で製造業の仕事が米国に「リショアリング」される
By Dave Boyer – The Washington Times – Friday, December 24, 2021
サプライチェーン(供給網)危機と新型コロンウイルスの感染拡大によって、イリノイ州ノースブルックにあるメーカー、アクメ・アライアンスの幹部が20年来強調してきた経済的な根本原理が裏付けられた。この原理とは、顧客の近くに事業と雇用を維持することだ。
自動車、大型トラック、農業機械用のアルミダイキャスト部品のカスタム仕上げメーカーであるアクメは、過去5年間の米国での売上高の20%が米国に戻ってきたと推定している。
アクメのマウリ・ザッカレリ・メンデス社長はインタビューで、「私たちは顧客に、地元で調達することが最善の戦略だと言い続けている。在庫を減らし、品質を向上させ、移動にかかるコストを大幅に削減できる。新型コロナの問題や、世界中で起きている物流の問題を経て、ようやく、それが非常に理にかなっていることに気づいた」と述べた。
他の企業もアクメの例に倣うようになってきている。アナリストによれば、中国でのビジネスコストの上昇は、米国に雇用を戻すことをより魅力的にしている。
米国にどれだけ雇用が戻っているかを追跡調査しているリショアリング・イニシアチブのハリー・モーサー社長によると、海外から米国への「リショアリング」は今年、20万人以上に達し、トランプ政権の規制緩和や法人減税の効果が出始めたばかりの2017年の18万人というこれまでのピークを上回ると予想されている。
モーサー氏は「パンデミックとそれに伴うサプライチェーンの混乱により、企業は、地球の裏側から来るもの、海を隔てた二つの港を経由しなければならないもの、潜在的敵対国(この場合は中国)から来るものに依存することは、想像以上にリスクが高いことを認識するようになった」と述べた。
このような事態は、「オープンで安全なサプライチェーンの拠点」としてマーケティングを行っているオハイオ州などの州に利益をもたらしている。少なくとも37社が今年、合計1万2000人以上の雇用の再移転を発表しており、オハイオ州では企業移転を奨励するさまざまな助成金が提供されている。
全米製造業協会(NAM)によると、米国の製造業への海外直接投資は2020年に1兆8800億ドルと新記録を達成した。2005年は4999億ドルの水準だった。NAMは、{現在の混乱の中でサプライチェーンを見直す企業が増えている」こともあり、この分野での継続的な成長が期待されると指摘した。
過去10年間に米国の雇用を回復させた大企業には、ゼネラル・モーターズ、ボーイング、トヨタ、マヒンドラ、フォルクスワーゲン、ボルボ、キャタピラー、インテル社などがある。
半導体チップの不足は、国外からの米国への直接投資の増加に顕著な役割を果たしている。
サムスン電子は先月、テキサス州テイラーに170億ドルのチップ製造工場を建設する計画を発表した。これにより約1800人の雇用が創出されると予想される。テイラーはこの韓国の巨大企業に対し、大規模な固定資産税減税を実施した。
台湾積体電路製造(TSMC)社は、今後3年間で1000億ドルを投じて新しいチップ工場を建設する計画で、インテル社も米国と欧州に新しい工場の建設を提案している。
バイデン政権は、半導体と電気自動車用バッテリーの米国での生産拡大を奨励しており、議員らは半導体製造工場の新設に520億ドルの産業補助金を出すよう働きかけている。
ミシガン、イリノイ、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ケンタッキー、ペンシルベバニア、カンザス、カリフォルニアの各州知事は先月、上院で承認されたCHIPS法の成立を下院指導者に強く要請した。
半導体産業協会によると、2020年の世界の半導体生産能力に占める米国の割合は12%に過ぎず、1990年の37%から低下している。
米国では歴史的に賃金や福利厚生コストが相対的に高いため、企業は雇用を海外に移してきたが、中国の賃金は過去20年間、年率10%から15%上昇し続けているとモーサー氏は指摘する。近年では、貿易紛争や米国の競争力強化、中国の賃金上昇などを考慮した「総所有コスト(TCO)」モデルを検討する企業が増えているという。
モーサー氏は「ドル建てで表示される代表的な部品の製造にかかる中国の人件費は、20年前に比べて5倍になっており、米国はほぼ横ばい」と述べている。
パイプ接合システムのメーカー、ビクトーリックは2017年、ペンシルベニア州リーハイバレーの工場を数千万ドルをかけて拡張する計画を発表した。同社関係者は、中国からの部品が米国に到着するまでに6週間かかる可能性があるが、米国内の事業所に発注すれば数日でできる、これが考慮した点の一つだと述べた。
アクメは、中国とブラジルにも工場を持つが、顧客に最も近い生産拠点から供給することに重点を置いている。
アクメのバリューストリーム開発部長であるマット・テイビス氏は、「世界中に張り巡らされたサプライチェーンを見ていると、何らかの干渉を受けた際に何が問題なのかが見えてくる。私たちのモデルは、グローバル企業であるということだ。域内で調達することが非常に重要と考えている。中国製の部品は、ここ(米国)には一切保管していない」と述べた。
アクメの成功にもかかわらず、メンデス氏は、「製品を完成させるのに十分な部品を持っていない」供給業者とのサプライチェーンの問題から、注文の遅れに悩まされることもあるという。また、米国の労働力不足により、いくつかのポジションを埋めることができないでいるという。
「まだ、人を増やせていない。かなり大変だ。平均賃金を少し上回る程度では、人を集めることができない」
テイビス氏は、アクメの決定は、連邦政府からの奨励金やその他の政策に基づいていないと述べた。
「私たちは、政治に頼ったビジネスはしていない。ただ、私たちモデルは理にかなっていると考えている。ある地域で商品を組み立てて販売するのであれば、その地域内で部品を調達するのが理にかなっているということだ」
米国に雇用が戻ってきているとはいえ、数十年来のオフショア化の流れを完全に覆したわけではない。上海の米商業会議所が最近行った調査によると、米国の製造業者の71%が中国から生産を移す計画はなく、一部を米国に移すと答えたのはわずか4%だった、と投資金融紙バロンズ紙は昨年報じた。
また、ロディウム・グループの分析によると、米企業は1990年代初頭から中国での事業に約2600億ドルを直接投資している。
それでも、モーザー氏は「企業の意思決定には目に見える変化が起きている」と言う。同氏は、2020年のパンデミック開始時に米国で個人防護具(PPE)が不足したことが、すでに始まっていたリショアリングプロセスを加速させたと述べた。
「それによって今、企業がこれら他のすべての関連する混乱の問題にいっそう敏感になっている」