中国、米・ASEAN首脳会議に警戒

(2022年5月14日)

2022年5月11日(水)、イリノイ州カンカキーにあるオコナー農場を訪問し、話すジョー・バイデン大統領。 バイデン氏は、プーチンのウクライナ侵攻による食糧供給と価格について話し合うためにこの農場を訪れた。(AP写真/Andrew Harnik)

By Guy Taylor – The Washington Times – Wednesday, May 11, 2022

 バイデン米国大統領と東南アジアの指導者たちとの首脳会議が木曜日にスタートした。その参加国に対して中国は、彼らの地域に米国が影響力を行使しようとして、対立を煽りかねないと警告した。

 米政府当局者はバイデン大統領が、ホワイトハウスに集まってくる東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳達に、中国関連では注意深い物言いをするだろうと語った。長年アジア外交に携わってきた外交関係者は、ワシントンと北京の覇権競争に引き込まれてきた。外交政策の中心に民主主義の推進を据えてきたバイデン大統領だが、人権や市民的自由の面ではあまり芳しくない国の指導者たちも迎えることになる。

 ASEAN加盟国の大半のリーダーが、2日間の首脳会議のためにワシントンに向かっているとき、ホワイトハウスのインド太平洋コーディネータを務めるカート・キャンベル氏は、大統領が「東南アジアやアジアを新たな冷戦に巻き込むことを望んでいない」と言明した。サミット会議は木曜日夜、ホワイトハウス夕食会から始まる。東南アジア諸国連合の公式メンバーは、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムだ。

 今週、中国の王毅外相は、アジア諸国が「冷戦の意識構造を煽り、この地域の対立を煽ろうとする外部勢力の試みを阻止するべきだ」と発言した。キャンベル氏のコメントは、米国平和研究所が主催したオンラインイベントで語ったものだが、中国外相に反応したように見えた。

 「サウスチャイナ・モーニングポスト」によると王外相のコメントは、現在ASEANの交代議長を務めるカンボジアのプラックソコン外相とオンライン対面会談をした際に発言した。なお中国、米国ともにASEANの正式加盟国ではない。

 王氏はバイデン大統領や米国を名指しこそしなかったが、カンボジアその他のASEAN加盟国は、ワシントンや東南アジアで開かれる主要な外交イベントで、「アジアの時の訪れ」を手に入れるべきだと強調した。

 双方の比較的に慎重な物言いは、今回のサミットの重要さを物語っている。あるアナリストによれば、ワシントンの外交努力がウクライナでのロシアの戦争に忙殺されているこの時期に、バイデン大統領がASEAN指導者たちを迎え入れたことは、大統領がより広範なインド太平洋戦略にとって、米・ASEAN関係が不可欠だと認識していることを示しているという。

 なおバイデン大統領は今月、韓国と日本をふくむアジア歴訪の予定だ。

 前トランプ大統領は、アジア政策を米中の二国間関係に重点を置いて、任期終わりに近い3度のASEAN年次首脳会議には出席しなかった。また2020年にラスベガスで予定された米・ASEAN首脳会議は、COVID-19大感染のせいで中止された。

  今週のASEANとのサミット会議の議題は貿易と安全保障だ。特に東南アジア海域で中国が軍事面でますます攻撃的姿勢を強めているからだ。ウクライナ危機も去らない中で、バイデン大統領が対ロシア制裁を課している国々の連帯の輪を拡大するために、ASEANの協力を求めるかは不明だ。

 あるアナリストによれば、ウクライナ情勢次第では米国大統領が、ASEANと中国の関係を変更させるチャンスが訪れるだろう。中国はASEANの全メンバーと莫大な貿易取引をしているが、今回のロシアの行動を中国が明らかに支持していることへの批判が広まっている。

 中国にとってASEANは最大の貿易相手ブロックであり、今年最初の4か月間の対外貿易全体では14.6%を占めるなど、米国や欧州連合を上回っている。

 「中国は3月に、ロシアとの「無制限」の友好協定に署名した後、ロシアのウクライナ侵攻に関して言葉を汚すような態度を続け、ASEANその他の国々にとっては非常に迷惑な状況に自らを置いている」、こう語ったのはイースト・ウェスト・センターのワシントン事務所と、アジア・米国協力イニシアチブを率いるサトゥ・リマイエ氏だ。

 同氏はインタビューで、中国・ロシア関係に由来する錯綜した地域のダイナミクスを説明した。同氏によれば、地政学的リスクがあるにもかかわらず、ほぼ全てのASEAN諸国がロシアのウクライナ侵攻に不満を表明している。

 「カンボジアでさえ、ウクライナでのロシアの行動を批判している」、そうリマイエ氏は指摘した。 「東南アジアでロシアの侵略に、中立という名の日和見を続けた唯一の国はベトナムだった。その理由はインドと同じく、ベトナムが中国の脅威から防衛するためにロシア製兵器に依存しているからだ。」

 ミャンマーの軍事政権は、ロシアの侵略を全面的に支持している唯一のASEAN加盟国だ。しかしミャンマーはASEANと外交面で衝突している。昨年ミャンマーの文民政府に対してクーデターを主導し、同政府関係者の大半を投獄した軍事政権の指導者、ミン・アウン・ラインを、ASEAN加盟国は排除したからだ。

ハイステーク・サミット 

 地域アナリストたちによれば、ASEANは経済面で最もダイナミックな地域の一つであり、それがどの陣営に属するのが妥当かを思案する会合になるから、そのステークの大きさは過大評価しても足りないほどだという。

 「今回の会議は、米国が東南アジアの指導者たちに、ワシントンと協力することの利点を印象付ける重要な機会だ。この会議ではASEANの帯びている中心的な位置を確認し、米国側の最大級の関与を示し、中国の支配に対抗できる積極的な均衡能力を強調するだろう」、ハドソン研究所のアジア太平洋安全保障委員長であるパトリック・クローニン氏は説明した。

 同氏はさらに、バイデン政権が南シナ海での中国の好戦的な動きに対抗し、ASEANが合同で声明を発出できる舞台作りを進めるだろうと指摘した。中国軍は近年、人工島に基地を建設し、係争中の島嶼の主権を主張している。

 「前回カンボジアがASEAN議長を務めたとき、東南アジア諸国は、南シナ海での領海を一方的に変更するべく強制力を使用した中国に対して、叱責するコミュニケを発出できなかった。今回、ワシントンは成り行きに任せる態度はとらないだろう」、クローニン氏は付け加えた。 「今年の夏と秋に開かれる重要なASEAN会合に向け、米国外交がASEAN加盟国に緊密に関与することは、10年前に起きたことを繰り返させない最も確実な方法だ。2012年7月、カンボジアが当該地域の批判から中国を擁護せざるを得なくなり、ASEAN外相たちは45年ぶりにコミュニケを発表できなかったのだ。」

 当時の報道によると、カンボジアは南シナ海で係争中の島々について領有権を主張しておらず、貿易と投資を中国に大きく依存していた。中国はカンボジアに圧力をかけ、ASEAN諸国に影響を与えるよう仕向けたのだった。

 クローニン氏によれば、バイデン大統領はASEAN首脳に対して、彼らが言うべきことを「聞いており、了解している」と語り、「彼らが話す必要があるとき、彼の政府は常に開かれている」ことを示す機会だと語った。

 「要点は、米国が米中競争の一環として取引しようとしているのではなく、むしろ東南アジアに真剣かつ長期的なパートナーを求めていることを強調することだ。」

 ホワイトハウスも同様のメッセージを投げかけている。前出のキャンベル氏は水曜日、バイデン政権がウクライナの連日の展開に深く関与しているものの、大統領と顧問らは「インド太平洋地域で展開されようとしている、もっと大きな戦略的課題を認識している」と述べた。

 「これまでの政権は、東アジアやインド太平洋に焦点を当てて一定のペースでスタートしたが、やがて別の差し迫った課題に直面し、我々が徐々に置いていかれた感があった」、前オバマ政権で高位の補佐官として「アジアへのリバランス政策」を唱え続けて広く知られたキャンベル氏は釈明した。

 「それを繰り返さない、という深い自覚がある」、キャンベル氏は断言した。米・中の競争問題に関するASEAN首脳との話し合いで、「バイデン大統領は極めて率直に語るはずだ」、と述べた。

 「大統領は我々の戦略を語り、競争願望も騙っているが、あくまで平和的で効果的に競争する」、キャンベル氏は語った。そして成功する秘訣は、「基本的に東南アジアの人々のニーズと欲求に基づく必要がある」と指摘した。

 「我々は子供ではない」、とキャンベル氏は続ける。 「東南アジアでの競争の性格を我々は了解している。目指すのは米国だけでなく、パートナーの日本、オーストラリア、ニュージーランド、さらにヨーロッパ諸国といっそう協力することだ。…透明性に則り、グローバルな慣行を推進していくと示すことだ。優れたガバナンスを実現し、さまざまな課題、例えば債務救済、健康と福祉サービスについて金融機関と適切に連携するだろう。」

 ホワイトハウスは昨年、バイデン大統領の「米・ASEAN戦略的パートナーシップ拡大という新たなイニシアチブに、最大で1億200万ドルを提供する意向」を表明した。それがASEAN諸国の外交と安全保障の真の進歩にどうつながるか、まだ分からない。

 「より大きな戦略的競争は中国との競争だ。東南アジアでは政治と安全保障の分野で中国の株は下がり、支持も低下している。従って米国は、ASEAN諸国の中で影響力を維持できるように関与し続けるべきだ」、前記のイースト・ウェスト・センターのリマイエ氏は語った。 「バイデン大統領は実践している。欧州のど真ん中で陸戦が起きている時間に、このサミットを主催している事実が、多くを物語っている。それは些細なことではない。」

 しかしリマイエ氏は付け加えて、米国は「ASEAN諸国との経済的側面で、中国との有効な競争に失敗している」と指摘した。そして「中国はこれら諸国との取引で、我々を上回っている」と語り、バイデン政権は「米国が間違いなく政治・安全保障面でのパートナーであり続けるだけでなく、重要な経済的パートナーでもあるという信頼を、東南アジア諸国全般に提供するために、もっと多くのことができるはずだ」と指摘した。

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