米国、対中衝突を想定した新世代の軍事機材に注目
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Thursday, May 26, 2022
近未来の戦争に備えるために米軍が準備している軍用機材の中には、数マイル先の敵の機関銃巣を検出できる熱感知カメラ、ヘリコプターから降下させられる膨張式ボート、水中から頭上のドローンを操作できる携帯式コントローラーなどがある。
米当局者によると、米・中の緊張が太平洋の軍事衝突になるリスクが高まるにつれ、海洋で利用可能な高度兵器や偵察能力が必要になってきた。
米国のタンパで最近行われた特殊作戦に関する重要な会議には、中国共産党の戦争能力と対峙して最前線に立つオーストラリアなど、同盟国の企業、軍幹部や防衛産業の関係者が集まった。
中国が対米軍事力の構築に数十億ドルを投じるなか、米国の防衛関係者は、将来の如何なる戦いでも米側が優位になるための新機軸を考案し続けている。
最先端の装置には、多様な戦闘用車両に搭載されたカメラ・画像処理システムが統合されたツールがある。「センサーの遠隔画像処理能力のおかげで、橋梁全体を把握できる。熱センサーで感知・ズームインして何かを特定できれば、武器を携帯しているか、機関銃の銃座を配置しているか、などを確認できる」、戦術用ビデオソリューションの企業、アリエス・ディフェンス社のダグラス・ピルスベリ社長は断言した。
同社の製品は、米国のテレダインFLIR社が製造した最先端のデジタル画像処理機器とともに、戦場での使用経験を持つ豪海軍の退役軍人に設計・構築された次世代型軍用ボートが、画期的な水上船舶のための「ウイスキープロジェクト」に出品された。
同プロジェクトでは、出品された船舶が40ノット近い速度でタンパ湾を横断しながら、船上カメラやセンサーが周囲の海や海岸の動画を驚くほど鮮明に捉えていた。「こうした技術のおかげで、戦闘機が突発的な事態に遭遇する可能性が少なくなり、敵の兵器が我々を認知するより早くに交戦相手を認知できる」、ピルズベリー社長は記者団に豪語した。
「我々の狙いは、相手より先に感知し、早く認知して、第一撃を与えることだ」、同社長は将来の海上戦闘に備える軍需業界のアプローチを語った。
ウィスキープロジェクトにふくまれている多目的偵察艇は、すでに配備されているか、開発がかなり進んでいる船舶、武器、機器、カメラなどの新機軸の一例にすぎない。
業界筋によると、対中軍事衝突が発生した場合、米国とインド太平洋の主要な同盟諸国は、中国の人民解放軍(PLA)および発展を続ける軍事能力と戦うため、最先端のハイテク技術に大きく依存せざるを得ないという。
国防総省の戦争立案者たちは、そうした紛争シナリオで歳月を費やしてきた。公にも国防当局者は、中国を「仮想敵国」と総称してきた。この表現は、中国が自国軍隊の増強に費やしてきた膨大な時間・資金・資源を直視したものだ。
国家安全保障のアナリストは、北京が軍増強をしている目標について、米軍と軍事力競争をするのか、それともPLAが台湾への大規模侵攻など、重大な攻撃作戦を展開した際に、ワシントンが軍事介入を留めざるを得ないほど中国軍が強力に見える抑止効果を期待している、と指摘する。
「アンチアクセス/エリア拒否兵器システム(A2/AD)」を軸にした中国の戦略
「アンチアクセス/エリア拒否兵器システム(A2/AD)」とは、防御システム、大砲、レーダー、その他の機材を組み合わせて、敵が陸・空・海の特定の領域を占拠・移動できなくすることを目的としたものだ。
米国の戦争立案者は過去20年間、米軍がアフガニスタン、イラク、アフリカで地上作戦、対テロ作戦、市中特殊作戦などを闘う戦略に焦点を当ててきた。従って中国との戦いを想定することは、大きな変化を意味する。
太平洋での紛争に至るダイナミクスは根本的に異なり、中国側の防衛に対抗するために、米軍は海上を迅速に移動する必要がある。
「戦争になれば内部部隊は、地元の海洋地理を利用して、直ちに中国の軍事作戦に異議を唱え、初期の防御の壁を形成するだろう」、ジョンズ・ホプキンス大学・国際学部のトーマス・G・マーンケン教授は、米国海軍研究所のウェブサイトに掲載された最近の分析で指摘した。
「これら軍隊は、中国側の空軍の優越性、海上の制御力、情報の優位性に対抗する。中国の軍事力行使によって、米国の同盟・友好国の領土を占領するといった目標の達成を遅らせるか妨害して、中国による第一列島線を越えた軍事力の行使を阻止する。そしてA2 / ADネットワークに支障を与えるために、中国の主要システムを劣化させる、とマーンケン教授は書いている。
戦争の道具
過去の大国間の戦争と異なり、米中衝突では二つの大規模軍隊が陸上で戦うことはないだろう。その代わり、海上および空中における米国の特殊作戦能力は非常に重要で、戦闘の勝敗を分ける可能性がある。
近未来の戦争における米軍事戦略の中核要素は通信システムであり、それによって米軍がドメイン間の情報共有まで、リアルタイムで可能にするかもしれない。そうしたシステムのひとつが、米国を拠点とするパーシステント・システム社に構築され、「世界初のスマートラジオ」と謳われたMPU5だ。
「ワイヤーのないインターネットを想像してみよう!」、同社の事業開発担当副社長ジャック・ムーア氏は、今月初めにタンパの広大なコンベンションセンターで開かれた特殊作戦に関する会議の場で、「ワシントンタイムズ」に語った。
「どんなものでも接続させることができる」、ムーア氏は語った。「これはラジオの能力をはるかに超えた。」
ラジオと言えば古風に聴こえるが、世界中の多数の情報源を処理でき、独自のアンドロイド・コンピュータシステムが装備されている。
同社の「頑丈なディスプレイとコントローラー」の装置を組み合わせれば、現場の従業員は基本的にインターネット並みの処理能力を指先に獲得できる。コントローラー自体は今風のゲーム機に似ていて、現世代の戦士たちが容易に操作できる。
例えば潜水士はそれを駆使して、頭上のドローンや小型の飛行物体を制御できる。
「ダイビングも可能で、上空30,000フィートからの降下や、水面下20メートルまで潜水することもできる」、ムーア氏は断言した。「すべてのデータがこれに蓄積されているが、これは複数のロボットやセンサーを制御できる多機能コントローラーなのだ」。「特に若い世代向きに、きわめて標準化されている」と説明した。
図上の海戦演習では、米軍の小グループを迅速かつ安全に海岸に送り届ける必要がある。そこで好評なのが新世代の小型で膨張可能なボートだ。それらを潜水艦で運ぶか、ヘリコプターから吊り下ろして戦場に投入する必要がある。
カリフォルニアに本社があるウィング・インフレータブルズ社の政府販売担当副社長ジェイコブ・ハイムブーフ氏は、同社のハイエンド「戦闘用ゴムボート」が、そうした能力を提供すると主張した。このボートのV字デザインは、戦場任務が必要とするあらゆる機材の輸送に当たって、きわめてスムーズな乗り心地と安全性を提供する、と同副社長。
「衝撃を吸収してくれる底勾配がある。それは通常のボートに平衡を与えるというよりは、水を切り裂くものだ」、ハイムブーフ副社長は言い切った。
「古くからの技術で、8人の男を機材・燃料も積み込んで行ったり来たり出来たボートはない」と同副社長は語る。「この新機軸の技術のおかげで、全員をこのボートに乗せて、行くべき地点にたどり着き、チーム全員が一緒に戻ることができる」。
ウィング・インフレータブル社は最近、5年間に最大900隻のボートを提供する契約を、米海兵隊と締結したと、ハイムブーフ副社長は打ち明けた。
こうした海上での軍事能力を高める高額契約は、今後増加する一方だ。ペンタゴン幹部は、彼らの取り組みがさらに進化を続けるべきだ、と認めた。
「過去20年間で達成してきた軍の近代化だが、率直に言って多少のリフレッシュが必要だ」、米国の特殊作戦司令部のジム・スミス調達部長は、特殊作戦に関する会議の場で聴衆に語ったものだ。