差別撤廃政策の難題に名判決はあるのか

(2023年5月12日)

ハーバード大学の学生Shruthi Kumar(左)とMuskaan Arshadは、2022年10月31日(月)、ワシントンで、大学入試におけるアファーマティブ・アクションの将来を決定する可能性がある2つの裁判について最高裁が口頭弁論を行う中、他の活動家とともに集会に参加した。(AP Photo/J. Scott Applewhite)

By Alex Swoyer and Stephen Dinan – The Washington Times – Monday, May 8, 2023

 最高裁判所は判事の任期を終えるまで、今後二か月足らずに、人種、信仰の自由、投票権、ソーシャルメディアの在り方、同性愛者の権利など、今の合衆国が抱える難題を判断しなければならない。

 同じく二つの事案で、バイデン行政の行方を決定する判断に迫られている。その一つは学生ローンの返済免除方針について、もう一つは不法移民を寛大に処遇する方針についてのものだ。

 リベラルな司法ウォッチャーは、一連のダメージを覚悟し、保守系は共和党が任命した六人の判事が、1970年代に書き換えられた判例を次々に覆してくれることを期待している。

 連邦最高裁の判事たちは10月1日の任期開始以来、これまでに59件の口頭弁論を聴取し、これまで12件に法的見解を発表し、1件を却下した。通常のペースより順調な流れだ。

 しかし今の任期中に最も物議を醸す内容の多くが棚上げされている。

 「裁判所は重要な政策決定につながる判断を、判事任期の終盤までやり残している」、最高裁判所の専門家で、法律関係者による実証的なブログ「SCOTUS」の発信者の一人、アダム・フェルドマン氏は指摘した。「これら案件の共通点は、判事のイデオロギーに沿って判断が分かれやすいことだ。今まで判断が下されてきた案件は、さほど重大なものでなかったので、今期に関して未だ深刻な分裂は現れていない。」

 しかし案件のことの重大性次第では、昨年も最高裁判所の判決が国民的な注目を集めたように、世間の高い関心と強い利害を引き起こすだろう。昨年の例とは、半世紀も前に中絶を認めた「ロー対ウェイド」判決が、最高裁でくつがえされ、憲法修正第2条の権利に改めて陽の目を当てたことだ。

 今一番注目されている事案のひとつは、ハーバード大学とノースカロライナ大学(UNC)チャペルヒル校が、女性・被差別少数民族の雇用・教育の機会をふやす「アファーマティブ・アクション(AA、差別撤廃・積極的優遇措置)」に対して提起したことだろう。

 過去25年間、上級審ではAA政策の適用範囲を徐々に狭めてきたが、その措置を違法または違憲と裁定したことはなかった。しかしハーバード大学とUNCの事案では、判事たちが改めて判断する機会を提供した形だ。

 判事たちは新しいアプローチを出すかもしれない。本件のアジア系原告たちは、AA政策が言葉上の約束とは裏腹に、実は彼らを不利益にしている、と訴えたのだ。

 2003年に最高裁判所はAA政策にタイムリミットを提案したのだが、今の最高裁で共和党から任命された判事たちは、一部の人種的および民族的少数派を後押しする社会的実験は終えるべきだ、と提言してきた。

 「AA政策がいつ終われるのか、どうやって判定するのか?」、エイミー・コニー・バレット最高裁判事は自問した、「終点、とはどのような状態を意味するのか?」

 司法委員会のカート・レヴィー委員長は、AA政策の適用範囲とは、「あなたが見回す限りの広いものだ」と表現した。「6月の後半はいつもそうだが、今年の場合はおそらく通常よりエキサイティングなものになるだろう」、レヴィー氏は指摘した。

 最高裁はアラバマ州の選挙区に関連した案件で、人種問題を取り上げる。同州の人口の27%が黒人だが、下院議員を選出する同州の7選挙区で黒人が過半数を占めているのは一選挙区だけだ。

 識者は、1965年の投票権法に則って、同州が黒人が過半数を占める選挙区の少なくとも二つで、黒人の政治力が最大化できるよう尽力すべきだったと述べている。

 これに対してアラバマ州当局は、選挙区の設定が人種と無関係に行われていて、その設定に人種的要素をごり押しすることは、むしろ憲法の平等保障条項に違反するものだ、と主張した。

大統領の権力

 共和党が任命した判事たちが、学生ローンの返済免除計画に異議を唱えれば、それを推進してきたバイデン大統領と正面から衝突する可能性がある。

 米政府の主張では、連邦政府が支援する学生ローンについて上限2万ドルまで返済免除するという計画は、2003年に制定された「HEROES ACT(英雄支援法)」に則っていて合法だという。同法は、退役軍人が高等教育を受けやすくするのが目的だったが、教育省は緊急時に、より広範なローン放棄・変更の権限を与えた。ミゲル・カルドナ教育長官は、コロナ大感染も緊急事態に該当すると述べている。

 ただ、この免除計画では、納税者に四千億ドル以上の負担をかける可能性がある。

 最高裁は共和党主導の州から出された一件の異議申し立てと、ローン免除資格を持てない二人の原告から出された異議申し立てを聴取した。

 彼らの主張は、バイデン大統領の免除計画の規準が、連邦議会が2003年の法律で意図した内容をはるかに超えているというものだ。この主張は判事の過半数から共感を得ているようだ。

 ジョン・G・ロバーツ・ジュニア・首席判事は口頭弁論で次のように述べた、「ありきたりのオブザーバーなら大概、そんなに多額の返還金をあきらめたり、論議の分かれる問題で多数の米国市民の義務履行を左右するものならば、それは連邦議会が議論すべきだと感じるはずだ」。「にもかかわらず連邦議会が本件の議論を始めていないとすれば、大統領や行政官僚の一存で実施すべきことではないだろう。」

 バイデン大統領の移民政策も、テキサス州が提起した一件で、最高裁の審理の対象になった。同州は国土安全保障省が、不法移民を拘留も強制送還もしないことによって、連邦法規を無視している、と主張したのだ。

 この件でテキサス州は下級裁判所で勝訴したが、その際に判事たちは、犯罪歴を持つ不法移民を強制送還しないのは、政府が移民法に違反していると裁定した。

 裁判官たちはバイデン行政の目玉政策の一つを棚上げにしてきたが、本件を未決簿に載せることで審理の態勢に入った。昨年末の口頭弁論で判事は、大統領が議会から割り当てられた、拘留・強制送還のための予算の範囲で執行するべきだと示唆し、バイデン大統領に若干の余裕を与えたようだ。

宗教的な宿泊施設

 最高裁は宗教的信念を持つ人々にますます理解を示しているようだが、同性婚カップルと、そうした結婚に反対する保守的なキリスト教徒との衝突については、それをもてあそんでいるようだ。しかし今年こそは最高裁判所が確固とした判決を下す年になるかもしれない。

 ウェブデザイン会社「303クリエイティブ」を経営するロリエ・スミスさんは、顧客を差別してはならない、というコロラド州の法律を破棄するように裁判所に求めた。彼女によれば、この法律のせいで、同性婚カップルのためのウェブサイト作成を余儀なくされることになり、それは合衆国憲法・修正第1条の保障する言論の自由権を侵害するものだ、と主張した。

 連邦控訴審はスミスさんへの判決の中で、平等なアクセスを保障する州の立場は、彼女の言論の自由の主張を上回るものだ、と説明した。

 口頭弁論の中で一部の裁判官は、個別の顧客サービスを提供する企業と、一律のサービスを提供する一般企業とを区別することに関心を示していた。

 裁判所はまた、米国郵政公社の元従業員が関与した事案で判断の方向を模索していた。その従業員はユダヤ教の安息日を仕事休みにしたい、と上司と衝突した。1977年の判例によると、職場は最小限の便宜を供与するのであり、安息日を守りたいとする従業員の仕事をする他の人材を確保する費用を考慮すれば、その便宜供与を拒否するに相当な理由がある、と判断された。

 裁判官たちは1977年の判例に問題があることを見つけたが、作業現場に対してどこまで便宜供与を命じられるものか思案したようだ。

 「雇用主の規模や、従業員からの要望の性質、雇用主が採りうる妥当な選択肢の範囲などによって異なる」、ニール・M・ゴーサッチ判事は指摘した。

ソーシャルメディアの責任

 最高裁はまた、一般人が投稿したコンテンツに対し、ビッグテック企業がどこまで法的責任を取るべきなのか、二件の係争を審理した。

 テロ攻撃によって犠牲者を出した家族は、ツイッター、フェイスブック、グーグルなどが、オンラインに投稿される過激な発言を遮断するため、もっと努力する必要があると主張した。ある事案では、ユーチューブのアルゴリズムが暴力的コンテンツを求める人々を後押しするような形になっていたとして、ユーチューブは責任を負うべきだと主張した。

 この事案の成り行きで、テクノロジー企業を30年間も保護してきた政策を覆す可能性もある。しかし判事たちは抜本的な転換には懐疑的に見える。

 ブレット・M・カバノー判事はこうした「訴訟が今後も続くだろう」との感想を述べた。

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