トランプ氏暗殺未遂は「予防可能」だった 下院タスクフォースが詳細発表
By Lindsey McPherson – The Washington Times – Monday, October 21, 2024
ペンシルベニア州バトラーで7月13日に発生したドナルド・トランプ前大統領暗殺未遂は、事件を調査している超党派の下院タスクフォースによれば、「予防可能であり、起きるはずはなかった」。
タスクフォースは10月21日、53ページの中間報告書を発表した。
証拠によれば、7月13日の集会に先立ち、シークレットサービス(大統領警護隊)と警察の間の調整が不十分だったこと、集会当日「連絡網は分断され、指揮系統は不明確だった」ことが暗殺未遂の一因になったという。
報告は、シークレットサービスと連邦捜査局(FBI)からのブリーフィング、数千点の文書、州と地元の警察当局者との23回のインタビューを基に作成された。
報告は、これらの聞き取り調査から得られた警備上の失敗を主に取り上げている。その中には、2人の地元警察の狙撃手ともう1人の警官が、集会が始まる前に、狙撃したトーマス・マシュー・クルックス容疑者の不審な行動を発見していたことも盛り込まれている。
タスクフォースは、警官らはクルックス容疑者と「いくつかの重要な時点」に接触することができたが、「通信が分断されていたため、警察は対応できなかった」としている。
この中間調査結果は、バトラーでの暗殺未遂事件を調査した連邦政府と州警察の元当局者らからなる独立調査委員会が作成した先週の報告書に続くものだ。事件を調査していた上院委員会は先月、シークレットサービスの警備の失敗に焦点を当てた独自の中間報告書を発表している。
下院タスクフォースの調査は今後、シークレットサービスに重点が置かれることになる。タスクフォースによれば、連邦政府当局者から20回以上の聞き取り調査を行っているという。
中間報告書では、警備の失敗を大きく3つのカテゴリーに分類している。事前の計画、見通し線、通信だ。
事前の計画
7月13日の集会の警備計画で、シークレットサービスは「警備区域の外側のエリアの管理について、関係する州や地元の機関に明確な指針を示さなかった」とタスクフォースは述べている。
報告書は、シークレットサービスが複合施設AGRインターナショナルを「幹線道路に近く、ステージへの見通しがよく、高台にあるにもかかわらず」警備区域外にしたことを問題視している。
「散漫な会議、あいまいな指示、不明確な指揮系統」の中で、誰が施設を警備するのかについて混乱が広がったとタスクフォースは述べている。
ペンシルベニア州警察のジョン・ヘロルド警部補は、シークレットサービスからは部署の要員をAGRに配置するよう要請されておらず、バトラー郡「緊急サービスユニット(ESU)」がその地域の安全を確保する責任があると理解していたと証言した。
しかし、シークレットサービスによると、ヘロルド氏はAGRの所有者と話し、「閉鎖し、施錠し、掲示するよう調整した」と調査官に語ったという。
最終的に、AGRの車両の通行は禁止されたが、集会が開かれたバトラー・ファーム・ショーの敷地との間のチェーンのフェンスの外側に群衆が集まることは許可された。ここの人々は、集会場内の人々のように、磁気探知機による検査を受ける必要はなかった。
建物への懸念
バトラー・タウンシップ警察のパトロール隊員で、バトラーESUスナイパーチームのアシスタントチームリーダー、ドリュー・ブラスコ氏は、7月11日にシークレットサービスにAGRについて懸念を提起していた。
ブラスコ氏によると、AGRの建物内に配置されるバトラーESUの狙撃手は、集会会場を監視することはできるが、配置された建物の外側にある倉庫群を含む、より広い複合施設を「見渡すことはできなかった」という。
ブラスコ氏はシークレットサービスに、地元の警察にはAGRの倉庫の外に人を配置する人手がなく、「そこに人を配置するよう要請した」。
これに対しシークレットサービスは「対処する」と答えたという。
バトラーESUの別の警官は、7月11日の現地の検証で、シークレットサービスの職員が「その日は制服警官がそのエリアにいるはずだと説明したが、そうはならなかった」とタスクフォースに語っている。
シークレットサービスと地元警察は、集会当日に別々のブリーフィングを行ったため、「誰がどこに配置されているのか、責任の範囲、日中のコミュニケーションなどに関して、州や地元の警察の中で認識にギャップが生じた可能性がある」とタスクフォースは指摘している。
例えば、バトラー郡保安官事務所の証人が、AGRが警備区域の外にあり、倉庫の近くに警察官が配置されていないことについて同僚に懸念を示していた。
その同僚は、ペンシルベニア州警察が「カバーしている」と答えていた。
AGRの建物からトランプ氏が演説するステージまで見通しが効いていたにもかかわらず、それに対処できなかったのは、調整と明確化の欠如が原因だった。
バトラーESUの指揮官エドワード・レンツ氏は、シークレットサービスからAGRの屋上に狙撃チームを配置するよう要請されたことはなく、AGRの2階にチームを配置して集会会場を監視するという決定にも異議を唱えなかったと証言した。
「バトラーESUの狙撃手は、AGRに狙撃チームを配置するよう求めた理由として、建物が警備区域の外側にあり、脅威に対して『360度』さらされやすいこと、当日の集会が猛暑であったことなどを挙げた」と報告書は述べている。
意思疎通の失敗
統一された指揮系統がなかったため、意思疎通にも問題があった。
シークレットサービスの指揮所には、ペンシルベニア州警察の代表者1人と、バトラー郡救急サービス局(EMS)の担当者1人しかおらず、彼らは集会中の医療に関する連絡に集中していた。
バトラーEMSの関係者によると、シークレットサービスは地元警察の代表を1人だけ指揮所に入れるよう要請し、志願者が1人いたという。指揮所には約30の椅子があったが、固定された位置にいたのは6人だけだったという。
地元警察はシークレットサービスの指揮所と専用の無線でつながっておらず、警察の指揮所にいたため、連絡網から外れてしまった。
バトラーEMSの職員は、AGRに不審者がいることに関する地元警察の通信は聞かなかったと語っている。
シークレットサービスの記録によると、その情報が指揮所に届いたのは午後5時51分頃だったという。報告は「クルックスはその時までに、シークレットサービスと連携する州と地元の警察によって約40分間監視されていた」と指摘している。
発砲の直前、地元警察から、クルックスが銃を持って屋上にいるとの無線が入った。だがタスクフォースによると、トランプ氏の警護隊に情報が伝わった形跡はなかった。
逃したチャンス
タスクフォースは、集会が始まる前にクルックスに気づいた3人の地元警官にインタビューを行った。
ステージ裏の警戒地区内にいたバトラーESU即応部隊の警官は、午後4時半から5時の間に、AGRの敷地の方を見て、クルックスがいることを何度か目撃していた。
この警官によると、クルックスは敷地内に押し寄せた他の人々から離れ、「会場に注意を払わず、周囲の誰にも注意を払っていなかった」という。彼はコンクリート壁の上に座って携帯電話をいじりながら、AGRの建物にいる地元警察の狙撃手を見上げるクルックスの姿も目撃している。
AGRの建物内に配置されていたバトラーESUの狙撃手の1人も、午後5時少し前にクルックスの不審な行動を目撃していた。
この狙撃手は「クルックスはAGRとフェンスの間の草地を歩き回り、上を見上げて建物を見続けていた。私が不審に思ったのは、彼が私がいた窓を直接見ていたことだ」と語っている。
また、クルックスはこの建物に人がいるかどうか考えていたのだと思ったという。「そして、クルックスが建物に近づいて、見えなくなったとき、かなりあやしいと思った」
狙撃手はクルックスを見失った後、AGRの建物内で一緒に待機していたビーバー郡ESUの狙撃手にクルックスの特徴を伝えた。ビーバー郡の狙撃手は、その時点ではクルックスの姿を見ていなかったが、その後、午後5時過ぎにクルックスを発見、「建物のすぐ近くを歩き、見上げたりして、不審に思った」と話している。
ビーバー郡のスナイパーは一度はクルックスを見失ったが、再び見つけて2枚の写真を撮った。その直後、クルックスがレンジファインダー(距離計)を持っていることを発見し、バトラーの狙撃手に伝えた。タスクフォースによると、どちらの狙撃手の行動も確認していない。
バトラーの狙撃手は午後5時15分、バトラーESU即応部隊の警官に、クルックスの人相と距離計を持っていることを伝える一連のテキストメッセージを送った。
その警官は、二十数分後までそのメッセージを見なかったが、双眼鏡を使って会場内の自分の持ち場からAGRを監視しているときに、クルックスがAGRの建物の端近くで見え隠れするのを観察していたという。
即応部隊の警官はメッセージを見た後、バトラーの狙撃手に電話をかけた。2人は同じ人物を監視していることを確認し、警察の上層部に監視結果を報告することにした。
ビーバー郡の狙撃手は午後5時38分、クルックスを撮影した写真を地元の狙撃手らに送信し、クルックスがAGRの建物周辺に潜んでおり、レンジファインダーを使ってステージの方を見ていると警告した。
ビーバー郡の狙撃手は「参考に言っておくと、セキュリティーサービスのスナイパーに注意を促そうと思ったが、クルックスを見失った」と書いている。
最後の瞬間
それから13分間、「クルックスの人相や動きに関する一連の電話やメッセージがシークレットサービスに届いた」と報告書は指摘している。
たとえば、ビーバー郡の狙撃手のメッセージを受け取ったブラスコ氏は、一緒に待機していたシークレットサービスの隊員と情報を共有した。
部下から情報を受け取ったレンツ氏は、ペンシルベニア州警察の担当者に電話をかけ、その担当者がシークレットサービスの指揮所にいる他の者に情報を伝えた。
レンツ氏に電話をかけたバトラー即応部隊の隊員も、クルックスに関する情報をシークレットサービスの対狙撃チームリーダーにテキストメッセージで伝えた。
この情報は複数のチャンネルを経由して流されたにもかかわらず、タスクフォースは、それがトランプ氏の警護隊、集会の警備を担当するシークレットサービスの隊員に伝えられた証拠は発見されなかったと指摘している。
ビーバー郡の狙撃手は、午後6時6分か6時7分に、クルックスから目を離すまいとAGRの建物の2階を動き回っていたところ、クルックスがピクニックテーブルのそばに立ち、リュックを地面に置いているのを発見したという。
「彼はそのリュックをつかんで走りだした。建物の間に入り、姿は見えなくなった。その時点で、私は通信司令部に無線連絡した」
狙撃手の記憶は数分間、ずれているようだ。ビデオの映像によると、クルックスは午後6時5分に空調装置を使ってAGRの倉庫に登り、その後数分間で屋根を横切って射撃位置に移動している。
バトラー・タウンシップ警察の警官が屋根の上のクルックスを発見し、午後6時8分に無線でその情報を伝えた。レンツ氏は、シークレットサービス指揮所のペンシルベニア州警察の代表に電話で知らせた。
同僚の無線通信を聞いた他のバトラー・タウンシップ警察の警官2人がAGRの建物に向かい、1人がもう1人を持ち上げて目視させた。
その警官はクルックスが「ステージの方向に銃を向けている」のを目視し、銃口をクルックスの顔に向けた。その後、バッグと弾薬の入った弾倉を持ったクルックスを見た後、転倒し地面に倒れた。
「銃に手を伸ばしたのか、足を滑らせたのかは分からないが、その時点で分かっていたのは、私は彼を見ていて、全体重が腕や手にかかり、握る力がなかったということだけだ。次の瞬間、私は地面に叩きつけられ、倒れた」
すぐにクルックスが銃を持っていることを無線で知らせ、近くにいた他の警官に叫んだ。レンツ氏は、その無線通信を聞いた後、バトラー即応部隊を出動させたという。
しかし遅すぎた。
クルックスは午後6時11分に8発を撃ち、トランプ氏の耳に命中し、集会参加者1人が死亡、2人が負傷した。クルックスはその後、シークレットサービスの狙撃手に射殺された。