中国、天安門事件への姿勢を転換 「真の英雄は人民解放軍」

(2026年6月6日)
1989年5月17日、中国・北京の天安門広場は、民主化を求める集会で数千人の群衆で埋め尽くされた。(AP通信/Sadayuki Mikami)

1989年5月17日、中国・北京の天安門広場は、民主化を求める集会で数千人の群衆で埋め尽くされた。(AP通信/Sadayuki Mikami)

By Bill Gertz – The Washington Times – Wednesday, June 3, 2026

 1989年6月4日に北京で発生した中国共産党による「天安門事件」から37年を迎えた。この事件で中国人民解放軍(PLA)は非武装の民主化要求デモ参加者らに武力を行使し、多数の死傷者が出た。

 これに合わせて米空軍系シンクタンクの中国航空宇宙研究所(CASI)は新たな報告書を公表、中国共産党が現在、この事件に関する新たな偽情報キャンペーンを展開し、当時の出来事の評価を「逆転させようとしている」と指摘した。

 報告書によると、中国共産党はもはや事件の記憶そのものを消し去ろうとするのでなく、1989年6月4日の武力弾圧をPLA兵士による英雄的行為として描こうとしている。

 報告書は「中国共産党は検閲によって記憶を抑圧するのではなく、出来事そのものを再構築しようとしている」と指摘した。

 2022年以降、中国共産党は「天安門事件の真の英雄は人民解放軍だった」とする宣伝画像の拡散を始めたという。

 報告書によれば、事件の民主化運動参加者は「反革命分子」と呼ばれるだけでなく、「テロリスト」とも位置付けられている。そして国家を守るために犠牲になったのはPLA兵士だったと主張している。

 この新たな宣伝活動は、中国共産党が数十年にわたる検閲と情報操作によって1989年の出来事に関する国民の記憶をほぼ白紙化することに成功し、その空白に新たな物語を書き込めるとの自信を持っていることを示しているという。

 新たな公式見解では、「決して忘れてはならない」と訴え、この新たな歴史認識を宣伝している。報告書はこのような認識を虚偽と指摘している。

 報告書には、戦車の上で敬礼するPLA兵士の宣伝ポスターが掲載されている。そこには「1989年の反革命暴動において犠牲となった人民解放軍兵士に敬意を表する」と記されている。

 また、戦車の上空にはオリーブの枝をくわえた白いハトが飛び交い、その兵士が平和回復に尽力したことを象徴する演出が施されている。

 さらに別のSNS投稿では、天安門広場の中央に建てられた革命英雄記念碑の写真を掲載し、「6・4事件においてテロリズムから国家を守った人民解放軍の英雄たちの犠牲を決して忘れるな」と呼びかけている。

 報告書は、「中国共産党は、約40年にわたり検閲を行い、近年では歴史の改竄を試みている。にもかかわらず、体制への発言権拡大を求めた国民に対して中国共産党が行った残虐な弾圧は、同党と体制の本質、そして権力維持のためには残虐行為も辞さないという姿勢を示すものとして、今後も国際社会の認識に影響を与え続けるだろう」と結論付けている。

 1989年4月から6月にかけて、改革派指導者の死を契機に数万人の学生や労働者、市民らが北京中心部の天安門広場を占拠し、言論の自由や政治改革を要求した。

 参加者らは一時、米国の自由の女神像を模した「民主の女神像」を立てた。

 同年5月20日、李鵬首相(当時)は戒厳令を発令し、PLAは広場のデモ隊排除に向けた準備を開始した。

 しかし戒厳令は逆に抗議活動を活発化させ、さらに多くの市民が集結したため、中国共産党指導部は体制への重大な脅威と判断した。

 6月4日、人民解放軍の装甲兵員輸送車が広場へ進入し、非武装の抗議参加者をひき殺した。その後、兵士らは群衆に向けて自動小銃を発砲した。

 中国政府は死者200人、負傷者7000人としている。

 一方で、後に機密解除された英政府などの外交文書では、死者は最大1万人、負傷者は数千人に上ると推定されている。

 事件後、中国共産党は天安門事件をめぐる長期的な宣伝工作と情報戦を展開した。

 情報操作は一定の成果を上げ、長年にわたる検閲と情報統制によって事件の記憶を社会から徐々に消し去ろうとしている。

 現在も中国国内メディアでは6月4日に関する報道は禁止されており、学校教育や教科書への記載も認められていない。公的な追悼行事も禁止されている。

 こうした情報統制は海外にも及び、中国で運用される人工知能(AI)チャットボットも天安門事件への言及を避けるよう厳しく訓練されているという。

 報告書は、「中国で暮らす外国人からは、『タンクマン』や『民主の女神像』といった象徴的な写真を一度も見たことがなく、1989年の民主化運動についても『何か悪いことが起きたらしい』程度しか知らない中国人が少なくないという話がよく聞かれる」と指摘している。

 「タンクマン」とは、天安門広場へ向かう戦車隊の前に一人で立ちはだかり、その進行を阻止しようとした男性を指す。この男性の身元は今なお明らかになっていない。

 今年も世界各地で、1989年の流血事件を追悼するろうそく集会が開かれる見通しだ。

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