米軍、太平洋地域での多国間演習を増強

(2023年12月20日)

フィリピン沿岸警備隊提供の写真で、2023年12月9日土曜日、係争中の南シナ海のスカボロー浅瀬に近づいたフィリピン漁業水資源局(BFAR)の船に水鉄砲を使用する中国沿岸警備隊船(左)。フィリピンとその同盟国であるアメリカは、南シナ海の係争中の浅瀬からフィリピンの漁船3隻を阻止するため、水鉄砲を繰り返し発射した中国沿岸警備隊と民兵と思われる船による土曜日の海上攻撃を個別に非難した。(フィリピン沿岸警備隊 via AP)

By Bill Gertz – The Washington Times – Friday, December 15, 2023

 米海軍最大の艦隊を指揮する司令官によれば、中国の侵略に対する周辺諸国の懸念が高まっていることを受けて、米軍は太平洋地域での多国間の軍事演習を増やしている。

 米海軍第7艦隊司令官であるカール・トーマス中将はワシントン・タイムズとのインタビューで、ほとんどの演習は、日本に司令部を置く第7艦隊が実施しているが、中国の軍事力強化に対応するため、規模も数も拡大し、参加国も増えていると指摘、これらすべては中国の軍事力増強に対抗するためのものであり、中国は軍事力を使ってこの地域への支配を強化しようとしていると述べた。

 トーマス氏は、「前方に出て、多くの国と協力し合うことは、…大きな抑止効果がある」と考えており、「さらに強化することを目指している」と語った。

 「前方に出て駐留することも、志を同じくする同盟国やパートナー国と演習することも、すべては侵略を抑止するためだ」

 第7艦隊は、50~70隻の艦船と潜水艦、150機の航空機、2万7000人以上の海軍兵と海兵隊員で構成されている。1月以降の訓練を見ると、艦隊は日本北方の千島列島から西はインド洋、南は南極まで、約7500万平方マイル(2億平方㌔)に及ぶ地域で37回以上の軍事演習を行ったことが分かる。

 外国海軍との作戦も増加し、南シナ海や東シナ海などの係争地でのフランスやカナダの軍艦との共同警戒活動も行っている。

 オーストラリア軍は今年初めて、年次軍事演習「ヤマサクラ」に日米とともに参加した。2週間の演習は13日に終了した。

 約200人のオーストラリア兵を含む3カ国6000人の部隊は、宇宙、サイバー、電子戦攻撃を含む戦闘訓練を行った。海軍の声明によれば、演習の目的は、大規模な戦闘作戦の指揮統制能力を向上させ、3カ国の部隊間の相互運用性を高めることだった。

同盟国を安心させる

 演習の増加は、中国に対して懸念を抱く同盟国に対して安全を保障するための米国の新たな取り組みだ。これまで域内の多くの国々は、米中間の対立に巻き込まれないようどちらを支持するかの態度を明確にしてこなかった。しかし今は、中立的な立場を捨て、米海軍との連携を強化する国が増えている。

 つまり、インドネシア、マレーシア、スリランカ、太平洋の島国などの軍隊が、米国による安全保障と支援への依存を強めている。

 国務省の中国政策担当者だったマイルズ・ユー氏は、同盟国との演習や作戦を増やすことは、中国による海洋での不法行為や攻撃的な行動に対抗するために重要であり、中国がしていることは、米国だけでなく、すべての国が従う海洋ルール全体を損なっていると指摘する。

 現在、ハドソン研究所「中国センター」の所長を務めるユー氏は、「南シナ海や台湾海峡のような国際的な共有海域での演習や作戦を継続、強化し、より頻繁に、より大型の艦船を使って、NATO(北大西洋条約機構)の同盟国を含む志を同じくする国々の海軍と合同で、多国間で演習を行うことが非常に重要だ。中でも、域内で中国から嫌がらせや攻撃を受けている国々を参加させることが特に重要だ」と述べた。

 トーマス氏は、この地域のあらゆる紛争地に対応する準備ができていると述べた。

 現在、特に議論の的となっているのは、南シナ海のセカンド・トーマス礁と呼ばれる係争中の岩礁の周辺だ。中国沿岸警備隊はここ数週間、この浅瀬で基地として使用されている座礁船に補給しようとするフィリピン船と衝突している。

 中国船は、補給船を止めようとフィリピンの乗組員に向けて放水したり、軍事用レーザーを照射したり、音響兵器を使用したりした。米国の国務省と国防総省はこの活動を非難している。

 最近では、中国の沿岸警備船がフィリピンの補給船に体当たりするということも起きた。

 トーマス提督は、中国の活動は「グレーゾーン」作戦であり、中国は、フィリピンなどが領有権を主張する南沙(英語名・スプラトリー)諸島の岩礁を違法に支配しようとしていると述べた。

 中国軍は南沙諸島の三つの岩礁にミサイルで武装した基地を建設した。フィリピンへの嫌がらせは、南シナ海全体を支配しようとする取り組みの一部だ。

 トーマス氏は「攻撃的なグレーゾーン作戦は、誤算の可能性を高めていると思う。米国だけでなく、この地域のすべての国が注視している」と述べた。

 フィリピンは、セカンド・トーマス礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあると主張している。国際法廷は、この浅瀬はどの国も領有権を主張できない低潮高地であるとフィリピンに有利な判決を下している。

 トーマス氏は「そのため(中国が)あの海域で領有を主張したり、グレーゾーン活動を行おうとしていることをどの国も懸念していると思う。注意深く見守っていく」と語った。

メッセージを送る

 中国の国営メディアは、米軍と同盟国の軍事演習の拡大を厳しく批判している。米政府当局者は、この批判は中国が演習強化の戦略的メッセージを受け取っていることを示していると言う。

 中国国営メディア「環球時報」は12月4日、「ヤマサクラ」は中国を標的としたものであり、オーストラリア軍の参加は「誇張された中国脅威論という強迫観念にとらわれ、危険」だと報じた。

 太平洋軍司令官のチャールズ・フリン陸軍大将は今月、中国が米国と同盟国の演習に関する情報を集め、有事に備え「ソフトターゲット」を探していることを明らかにした。フリン氏は、12月6日に開催された非正規戦に関する陸軍の会議で、中国の軍事スパイは、特に規模と範囲が拡大しているフィリピン、インドネシアとの演習に焦点を当てていると述べた。

 「彼らは演習の重要な期間中は比較的大人しく、演習が終わるとソフトターゲットを探しに行く」

 スパイ活動は、米軍がどのように戦闘作戦を遂行するかを知ることを目指している。フリン氏は、米国と同盟国との間に不和をもたらすことも目的としていると述べた。

 「中国は、米国が世界で築き、インド太平洋地域で特に強固な同盟国・パートナー国とのネットワークを解体し、分断しようとしている。その活動は毎日続いている」

 海兵隊、陸軍、空軍も、中国がこの地域全体に覇権を及ぼそうとするのを抑止するため、インド太平洋地域での演習を強化している。太平洋空軍の部隊は今年、数十回の演習や作戦を実施した。

 多国間の演習や交流のために、米空軍は日本の航空自衛隊、韓国、インド、オーストラリア、タイ、カナダ、フィリピン、ニュージーランド、モンゴル、インドネシア、イギリス、ブルネイ、マレーシアの空軍との演習に参加した。太平洋空軍のウェブサイトを確認したところ、空軍の演習のほとんどに、条約を締結した同盟国である日本、韓国、フィリピン、オーストラリアが参加していた。

 空軍の報道官は、演習は同盟関係を強化し、統合能力を近代化し、「進化する安全保障上の課題に一体となって」立ち向かって「自由で開かれたインド太平洋を強化する」ための戦略の整合性を図るためのものだと述べた。

 陸軍のインド太平洋地域での演習は、「オペレーション・パスウェー」の一環であり、域内での陸軍のプレゼンスを強化することを目指している。

 陸軍部隊は、五つの条約同盟国(日本、韓国、フィリピン、タイ、シンガポール)を含む12カ国以上と毎年約40の域内での演習に参加している。その他、モンゴル、ニュージーランド、マレーシア、インドネシア、シンガポール、フィジー、ニューカレドニア、東ティモール、ブルネイ、パラオ、パプアニューギニア、バングラデシュ、フランス、英国とも訓練や軍事交流を行っている。

 太平洋陸軍の報道官、ロブ・フィリップス陸軍大佐は、演習は地域の軍事行動のリハーサルと訓練の場だと述べた。

 「これらの演習は、地域全体の同盟国やパートナー国からの関心と要請の高まりにより、規模と複雑さを増し続けている」

 海兵隊のほとんどの演習は海軍とともに実施されている。

協力

 全軍の演習全体の中心であるインド太平洋軍は、多国間演習を頻繁に行うことによって、危機や紛争に対応する米軍の集団的能力が強化されると主張した。

 インド太平洋軍のジョン・アキリーノ司令官は5月、自身の指揮下の米軍は毎年120回の演習を行っていると述べた。その目的は、地域の同盟国やパートナー国との信頼関係を築き、コミュニケーションを深めることにある。

 アキリーノ氏は「演習に参加する国は増えている。より複雑になり、規模も範囲も年々拡大している。各演習に参加する国の数も増えている」と述べた。

 今年の海軍の演習は、条約を締結した同盟国とともに、複数の空母や艦艇が参加して数週間にわたって実施された大規模なものから、会議室で将校らによって実施された小規模な図上演習まで多岐にわたった。

 トーマス氏は、演習によってコミュニケーションと情報共有が強化され、海軍が同盟国との作戦を改善するのに貢献していると指摘。欧州の同盟国やカナダの艦艇を含め、外国からの参加が増えていることを明らかにした。

 また、特にオーストラリアと日本は、殺傷能力の強化と共同作戦能力の向上を目的とした海軍との演習への参加を促進しているという。

 トーマス氏は戦争への備えについて「いったん紛争に巻き込まれてしまうと、事態は困難になる」と述べた。

 「戦争という霧と軋轢の中では、平時にしていることがはるかに複雑になる。相手、つまり同盟国やパートナー国がどう考え、どう行動し、どう行動するのかを理解し、何度も繰り返し、何セットも行えば行うほど、想定外の事態になったときに、より適切に適応することができるようになる」と語った。

 日米豪の国防相は6月に共同声明を発表し、即応能力を高めるためにオーストラリア北部での複雑かつ高度な演習を増やすことに合意したと明らかにした。

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