米情報機関、敵国の量子コンピューター開発を懸念
By Ryan Lovelace – The Washington Times – Monday, March 25, 2024
国家安全保障局(NSA)は、米国の敵対勢力が量子コンピューターの開発を大きく進めることで、世界経済の安全保障を脅かし、極秘の通信システムをのぞき見ることが可能になるのではないかと恐れている。
NSAのギル・ヘレラ調査局長によれば、NSAは、量子技術の予想以上の進歩によって、金融取引から核兵器に関わる機密通信まで、あらゆるものを保護するために使われている暗号化システムが解読されてしまうのではないかと懸念している。
先週開催された情報・国家安全保障同盟のイベントでヘレラ氏は、実用的と思われる量子コンピューターを持っている国はまだないと述べた。
世界にはさまざまな技術の開発に取り組んでいるグループが数多くあり、誰かが「ブラック・スワン・イベント(めったに起きないが、実際に起きると大変な結果を招来し得る)」を引き起こす可能性があると述べた。そうなれば、米国の国家安全保障にとって重大かつ危険な事態をもたらす。
「このブラック・スワン・イベントが起きたら、私たちには対処できない」
米国民は、このような飛躍的進歩によって、さまざまな影響を受ける可能性がある。ヘレラ氏は、世界経済、特に米国市場は脆弱だとみている。ほとんどの金融取引は、量子技術以外の手段では解読できない暗号化システムによって保護されているからだ。
ヘレラ氏は、もし量子技術がそのような暗号化の壁を低くしたり、なくしたりするようなことがあれば、金融機関は古い取引方法に頼らざるを得なくなるかもしれないし、銀行は他の銀行との取引を保護するために別の手段を探すようになるのではないかと懸念を表明した。
さらに、こういった脅威に対して、もっと脆弱となりうる分野があると警告した。ヘレラ氏によれば、量子コンピューターの脅威は、直ちに起こりうる被害だけにとどまらず、過去に記録され、暗号化された情報を入手することから発生する被害もあり得る。
ヘレラ氏は、サンディア国立研究所での数十年にわたる経験をもとに、量子研究の進歩によって、長期にわたって米国が保管してきた兵器システムに関する情報を発見することが可能になるかもしれないと述べた。
「核兵器製造のさまざまなパートナーと、公開鍵暗号を利用して鍵を共有する通信方法を取っている。今、もし誰かがその情報を記録し、それを解読したらどうなるだろうか」
外国の敵対国の高度なコンピューティング能力に関する詳細は厳重に守られ、それを知る術はないが、連邦政府は、特に中国がコンピューティングで突破口を開こうとしていることを懸念している。
昨年の下院軍事委員会の公聴会で、モーガン・ラトレル議員(共和、テキサス州)はスーパーコンピューターの能力について、中国がすでに米国を凌駕しているのではないかと懸念していると述べた。
ラトレル氏は2023年3月の公聴会で、「中国は、われわれを凌駕し、われわれより先を行く別のコンピューターを搭載しているか、ネットワークに接続しているはずだ。われわれと比較して、その分野に投じている予算を見れば、われわれより先を行っていることが分かる」と述べた。
当時、米サイバー軍司令部を統括していたポール・ナカソネ退役将軍は、ラトレル氏に、敵が米国を追い抜けば、技術的に必ず成果を挙げられると考えることのないようくぎを刺した。
「お金をかけたからといって、必ずしもその能力が最高であるとは限らず、本当に重要なのは、そのような能力を統合できるかどうかだ。つまり、情報を集め、それを作戦に取り入れ、結果を出すことでは、米国は明らかに先を行っている」
しかし専門家らは、量子コンピューティングで大躍進があれば、既存のスーパーコンピューターを大きく超えるだろうという意見で一致している。NSAもじっとしているわけではない。
ヘレラ氏によれば、NSAは、導入しているアルゴリズムで量子技術による攻撃に耐えられると考えている。
「NSAは、実際に量子技術に耐えうるアルゴリズムの研究を開始した。量子コンピューターがどのようなものかを解明するための学術プログラムに資金を提供し始めてから間もなくのことだ。NSA内では、国家安全保障に関わる重要なアプリケーションに、以前から量子技術に耐えられる暗号を導入している」
米国の敵対者の量子技術能力を理解するための努力も進行中だ。米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は、中国が量子技術や新技術を武器システムや兵站に応用し、軍事的変革を推し進めようとしているとして、その動向を精査している。
先月行われた同委員会の公聴会では、中国のテレポーテーション技術研究の検証が行われた。