ロシア軍の増強とウクライナ侵略を警告、ブリンケン国務長官
By Guy Taylor – The Washington Times – Wednesday, November 10, 2021
米国のバイデン政権は水曜日、ロシア軍がウクライナ侵攻を間近に控えている可能性があり、2014年にロシアがクリミア併合に至った混乱をぶり返すかもしれない、しかし米国と同盟国はウクライナの国家防衛に支援を約束している、とクレムリンに警告した。
この厳重な警告を出したのは、バイデン大統領が中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官をモスクワに派遣し、ウクライナ国境沿いに進めているロシア軍増強などについてロシア当局者と会談がなされた数日後だ。米当局者は、ロシアがウクライナ侵攻を実行した場合の対応策は特定していない。一方ロシア側は、米国と北大西洋条約機構(NATO)側がロシアの西部国境で軍事力増強していることに対応しているだけだ、と主張している。
問題の地域では、ウクライナ政府と闘っている分離主義勢力をロシアが支援し、さらに人権問題や国境危機の拡大をめぐって近隣諸国と衝突しているベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領にロシアが近づくなど、一触即発の危険地帯になっている。
「我々はウクライナ国境周辺でロシアが異常な軍事活動をしているとの情報に懸念を持っている」、ブリンケン長官は国務省本部で記者団に語った。
「モスクワの意図は明らかでないが、彼らのシナリオは周知している」と同長官は述べた。「心配なのは、2014年にロシアが国境沿いに軍隊を集結させ、ウクライナの主権が及ぶ地域に越境しながら、それは挑発への対抗措置だ、とでたらめの主張をした事態を、ぶり返しかねないことだ。」
「挑発行動を目撃するとすれば、それはウクライナ国境に沿ったロシア側の力の行使だろう」、国務長官はさらに付け加えた、「ウクライナの主権、独立、領土保全に関する我々のコミットメントは確固たるものであり、国際社会は二番煎じの戦術に訴えようとするロシアの目論見を見抜くはずだ。」
国防総省のジョン・カービー報道官は水曜日の記者発表で同様の見解を表明し、米軍はベラルーシ国境沿いの緊張を「厳重に」監視していると述べた。
「我々はすでに世界の中で最も緊張が高まっている地域のひとつを、一層不安定にするような行動を見たくはない」、カービー報道官はさらに語った、。「ロシアがその意図を明確にして、ミンスク合意を遵守するよう強く要求したい。」
ミンスク議定書とはウクイナ、ロシアと欧州安保協力機構の代表に作成され、ウクライナで係争中のドンバス地域の戦闘を終わらせた。それは係争を終えることはできなかったものの、解決に向けた基本的枠組みとして依然機能している。
カービー報道官によれば、ロシア軍の増強は規模と展開範囲から見て尋常ではない。しかし同報道官は、ウクライナ国境周辺に動員されている部隊の種類については、諜報に基づく推測を語らなかった。
内政干渉
バイデン政権がロシアに圧力を強めているのは、米欧のアナリストが説明しているように、ウラジーミル・プーチン大統領の内政干渉的な外交政策に対応したものだ。国家安全保障アナリストたちは、20年以上モスクワで権力を掌握してきたプーチン大統領が、ウクライナ、グルジア、ベラルーシなど旧ソビエト連邦諸国に対するクレムリンの影響力を取り戻す、いわば失地回復政策を追い求めていると長年警告してきた。
西欧の専門家の多くは、プーチン大統領がベラルーシの国際的孤立が高まっているのを利用し、欧州連合(EU)内で民主化勢力に不安定さを助長し、その混乱の中で足場を築こうとしている、と警告している。
EU当局者は水曜日、ベラルーシが藁をもつかむ思いでやってきた移民たちをポーランド国境に誘い込むという、「ハイブリッド攻撃」を進めていると非難した。今現在、多くの移民が凍える天候の下、その場しのぎのキャンプで立ち往生している。ポーランド当局は過去数週間にベラルーシとの国境(EUとの国境の東端にあたる)周辺に三千人から四千人の移民が集まった、と推定している。
ベラルーシのルカシェンコ大統領が中東出身の移民たちにベラルーシへの旅行を勧め、彼らをEU加盟国のポーランド、リトアニア、ラトビアに送り出している。西側諸国はこれが、2020年の論議を呼んだ選挙後、国内での異議の高まりを抑制した権威主義的体制に対して、EUが制裁連帯をしたことへの報復措置にすぎない、と非難した。 。
この地域での大方の見方は、移民を巻き込んだ事態だけでなく、西ヨーロッパ全体が直面しているエネルギー危機の拡大も、モスクワに端を発しているというものだ。ロシアの方は、天然ガスや石油市場での支配力を、この地域での影響力行使のための政治的道具に使っていることを否定している。
しかしウクライナは、モスクワが巧みに仕組んだ多面的な圧力キャンペーンに対抗するために、米国とEUが明確な支持表明をしてくれるよう声を挙げてきた。
こうした状況にウクライナのクレバ外相は水曜日、次のように指摘した。「現在ヨーロッパで展開しているのは、多くの要素を含んだ非常に複雑な策謀であり、エネルギー危機、宣伝戦、偽情報操作、サイバー攻撃、軍拡、ベラルーシ吸収の策動、そして移民危機などだ。」「我々は警戒し続けなければならない」と同時に、 「強靭でなければならない。」(同外相)」
バイデン政権のこの地域へのアプローチは、ウクライナに大きな重しを置いて展開されてきた。ウクライナこそ、ソビエト崩壊後のロシアと西側とのあつれきの焦点であり、そのおまけのように近年、ウクライナでの政治腐敗との闘いが、米国の国内政治と織り交ざって取りざたされたほどだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9月にホワイトハウスを訪れ、米国の歴代三政権との政治と策謀のリンクを完成させた。
記憶に新しいのは2019年7月、トランプ大統領がゼレンスキー大統領にかけた一本の電話で、バイデン大統領候補(当時)のウクライナでのファミリービジネスによる腐敗の実態を調査するよう圧力をかけ、これがトランプ大統領(当時)に対する最初の弾劾につながった。この出来事によって、バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏の広範囲な商取引にスポットライトが当てられることにもなった。
バイデン政権の当局者は、米国とウクライナとの関係を安全保障協力に焦点を合わせ直そうと努めている。9月のウクライナ大統領との会議でホワイトハウスは、「ウクライナがロシアの侵略を一層効果的に防御できるため、ジャベリン対戦車システムや、防御的な核・非核両方を含む六千万ドル相当の安保支援パッケージ」を発表した。
ウクライナはつい最近、約九万人のロシア軍部隊が、ウクライナ国境からあまり遠くない場所に駐屯していると主張した。こうした部隊増強は、ロシアが2014年にウクライナのクリミア半島を併合した直後に、ウクライナ東部で反乱を起こした分離主義勢力への支援を強めようとしているのではないか、という不安を掻き立てている。
ロシアの方はウクライナ東部での自国軍隊の存在を繰り返し否定している。同地域では反政府勢力と、米国が支援するウクライナ正規軍との軍事衝突で、過去7年間に一万四千人以上が死亡している。
こうした状況にバイデン政権は声高になってきたが、実際にロシアがウクライナに侵攻した場合、米国が最終的にどう対応するかは不明だ。
欧州ユーラシア担当のカレン・ドンフリート国務次官補はロシア高官に対して、ウクライナの安保に関わる脅威が増大した場合に起こりうる結果について警告したことを明らかにした。詳細を明らかにしないが、当局者はウクライナへの軍事支援強化が選択肢の一つだと示唆した。ドンフリート次官補は先週、CIAのウィリアム・バーンズ長官率いるモスクワ訪問団の一員だった。
「ウクライナ周辺でロシアの異常な軍事行動を目撃した際は常に、ロシア側が事態をエスカレートさせたり攻撃的行動をすれば、それは米国にとって重大な懸念であることを言明している」、ドンフリート次官補はAP通信に語った。 「我々はウクライナの主権と領土保全を支持し、それに対する我々の責任は不変であることを非常に明確にしている。…我々はウクライナに対するロシアのあらゆる形の侵略を非難する。」
ブリンケン国務長官がこうした声明を繰り返し、ウクライナのクレバ外相も、ウクライナ当局は「米国がウクライナと協力拡大する用意があることに感謝したい」と述べた。
「ロシアに攻撃行動を思いとどまらせる最善の方法は、クレムリンに対してウクライナが強力であることを明示することであり、ロシアの軍備増強に直面しても、ウクライナを置き去りにしない強力な同盟国があることを明確にすることだ。」(クレバ外相)