ロシアとウクライナの戦いが激化、米国の関与に疑問の声も
By Ben Wolfgang and Guy Taylor – The Washington Times – Tuesday, January 25, 2022
なぜ米国は、ウクライナと旧ソ連時代のそれほど重要でない国境をめぐる争いに関心を持つのだろうか。なぜバイデン大統領は、ロシアの侵攻を阻止するために第3次世界大戦の危険を冒すことをいとわないのか。
バイデン政権はなぜ、まだ始まったばかりのウクライナの民主主義を守るために北大西洋条約機構(NATO)の同盟国を結集させ、ロシアを残忍な制裁で脅し、東欧に迅速に展開できるように8500人の米軍を「厳戒態勢」に置くことに、外交政策の焦点を絞っているのか、このような疑問がワシントンで渦巻いている。
政権と国防総省に対して、このシナリオは全くの本末転倒だと批判の目が向いている。バイデン氏と国務省幹部らは、米国から遠く離れた戦争とそれに関するメディアの誇大報道を利用し、高進するインフレ、都市での暴力急増、新型コロナウイルス対策への不満、南部国境で流入する大量の不法移民、重要法案の不成立など、大統領就任1年目の問題から有権者の目を逸らそうとしているという批判だ。
ウクライナは米本土から遠く離れ、NATOに加盟しておらず、汚職や弱い統治機構という課題を国内に抱えていると指摘されている。それとは対照的に、ロシアは核保有国であり、世界第2位のエネルギー生産国であり、米国やNATOとの衝突が続けば続くほど、共産主義の中国に近づいていくだけだ。
FOXニュースの有力コメンテーター、タッカー・カールソン氏は、24日夜の自身の番組で、「なぜロシアに味方するのは不誠実で、ウクライナに味方するのは誠実なのだろう。どちらも外国で、米国には何の利益もない。奇妙なことだ」と述べた。
数多くのタカ派共和党議員や国家安全保障関係機関の幹部らの大部分は、ウクライナ危機はレーガン大統領の「力による平和」原則に対する挑戦であり、バイデン政権が米国の力を誇示しないなら世界紛争のリスクが高まると述べている。
拡大する軍事的侵略に直面している欧州の民主主義を守ることは、ロシアのプーチン大統領や自由民主主義秩序に挑戦する他の人々を抑止するためであれば、明らかに米国の国益にかなうという主張は多い。
ウィリアム・テイラー元米大使は、「ロシアはウクライナを併合しようとしている」と指摘した。テイラー氏は2006年以来、2人の大統領の下でキエフに駐在し、現在は米平和研究所でロシアと欧州を専門に研究している。
テイラー氏は、ロシアによるウクライナ侵攻の脅威を米国人は気にかけるべきかという質問に対し「もしプーチン氏が成功したら、次はどこだろう」と答えた。
「米国民が最前線で戦う兵士を支援するように、国際社会はロシアとの最前線で戦うウクライナを支援するべきだ。ウクライナへの攻撃は、第2次世界大戦以降、欧州に大きな戦争を起こさなかった秩序、規範、条約、約束、原則に対する攻撃である。その秩序を回復するには、ロシアを阻止し、ウクライナの主権を回復することが必要だ」
バイデン政権も同様の点を指摘し、ウクライナのために米軍の配備を準備し、多額の資金援助を提供し、ウクライナ軍に武器や弾薬を送り、ハイレベルな外交交渉でロシアに直接関与する根拠としている。
政府関係者らは、基本的な原則が危機に瀕しており、米国の他の敵対国、中でも軍事力による台湾の奪還を目指す中国の指導者らは、ロシアの侵攻に対して西側の対応が弱ければ、台湾併合へ自信をもつようになると主張する。
アントニー・ブリンケン国務長官は23日にCBSニュースで、「これはウクライナとロシアだけの問題でも、欧州、ロシア、米国だけの問題でもない」と語った。
共和党の有力者も、バイデン氏の危機管理は弱いとしながらも、これに同意している。
下院外交委員会のマイケル・マコール筆頭委員(共和、テキサス州)は週末にCBSニュースで「これはウクライナだけの問題ではない」と語った。
「これは中国に関することだ。(中国の)習近平氏と台湾にも関連する。イランのアヤトラと爆弾も。北朝鮮が2発のミサイルを発射したことも、極超音速兵器もだ。これは世界に大きな影響を及ぼすと思う」
この問題に対する立場は、共和党内でさえ一致していない。
共和党のポール・ゴーサー下院議員(アリゾナ州)は、「はっきりさせたい。ロシアで起きていることは気掛かりだが、それはロシア、ウクライナ、東欧の問題だ」と主張。バイデン氏は国外での戦争の話をすることで、国内で抱える困難な課題に関して「話題を変えようとしている」と述べた。
ゴーサー氏は今週、選挙区向けのニュースレターの「特別版」で、「ロシアとウクライナの国境を守るために戦うために、米兵を一人も国外に派遣してはならない。一人の米兵もそこで死なせてはならず、一発の米国の銃弾もそこで発射されるべきではない」と訴えた。
「法的・道徳的義務はない」
バイデン氏を批判する人々は、外交トップらが一致している考え方では、東欧で米国民の命を危険にさらしたり、米国民に直接影響を与えない地球の裏側の国境紛争に膨大な時間、資金、エネルギーを捧げたりすることを正当化することはできないと考えている。
これは共和党内におけるトランプ大統領の外交政策レガシーの重要な部分であり、遠く離れた紛争に対する無関心と世界情勢に対する強烈な「米国第一主義」というアプローチは、リバタリアンをはるかに超えて拡大し、今や主流の対話の一部としてしっかりと定着している。
もう一つの論点は合法性である。ウクライナはNATO加盟国ではなく、米国と大西洋をはさんだ同盟国は行動する義務がない。バイデン氏は、ロシアが隣国に侵攻しても米軍は地上戦には関与しないと何度も発言している。
トランプ政権の立法事務局副局長だったマイケル・マッケナ氏は最近、ワシントン・タイムズのコラムで、「ウクライナに固執するのもおかしい。ウクライナを保護する法的、道徳的義務はないし、ウクライナとの条約上の義務もないのだから。ウクライナで米国のどんな利益が危険にさらされているのか、また、ロシアがかつての構成共和国の一つに侵攻した場合に、なぜ米国人の生命や財産が危険にさらされなければならないのか、誰も説明していない」と主張した。
「東欧の一角にあるこの国境紛争が、なぜ私たちの注意を引く価値があるのか、その理由は明らかではない。…ロシアは米国にとって物理的な脅威ではない。私たちが直面している真の脅威は、中国共産党だ。ロシアやウクライナは余興だ」
共和党内では、ウクライナに関わる全ての問題は、2020年1月のトランプ氏の下院弾劾訴追とその後の上院裁判・無罪判決を背景にしている。弾劾の原因は、トランプ氏がウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領にバイデン家の汚職を調査するよう迫った2019年7月の電話会談だった。ゼレンスキー氏は、バイデン氏の息子ハンター・バイデン氏のウクライナでの商取引をめぐる長年の疑惑にもかかわらず、バイデン家が関与する汚職の調査を開始することはなかった。
ゼレンスキー氏は2019年にトランプ氏から圧力を感じたことはなかったと主張したが、弾劾裁判で証人は、ゼレンスキー氏はバイデン夫妻の調査を開始する代わりに、注目を集めるホワイトハウス訪問を期待していた可能性があると証言した。
ゼレンスキー氏は昨年8月にホワイトハウスでバイデン氏と面会した。
ゼレンスキー氏はウクライナ・ロシア危機で重要な役割を果たしうる人物だ。特にウクライナをNATOに接近させたいという親欧米的な立場に、ロシア政府は強く反発している。
ゼレンスキー氏は、民衆の反乱によって親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が政権を追われ、ロシアへの亡命を余儀なくされてから5年後の2019年に選出された。それ以来、ウクライナの政策に対するロシアの影響力は弱まっている。外交政策の専門家らは、プーチン氏が侵略を予告する最大の動機の一つは、その影響力を取り戻したいからだという点で概ね一致している。
しかし、ウクライナの社会と政治に対するロシアの介入阻止は、米国が大規模な介入をする理由にはならないという懐疑的な意見がある。
だが、米国が目指すのは、ロシアの侵攻阻止だ。なぜなら、ロシアの侵攻はほぼ間違いなく、より広範な紛争を引き起こし、欧州、場合によっては世界に壊滅的な影響を与える可能性があるからだ。
米国の軍事的役割の抑制と海外への介入の減少を提唱するシンクタンク、ディフェンス・プライオリティーズ「グランド・ストラテジー」計画のディレクターであるラジャン・メノン氏は「ウクライナに、米国の安全保障上の中核的利益はない。米国から地理的に遠く、…NATOの同盟国でもない」と言う。
メノン氏は今週の分析で、「米国には、ウクライナの危機が米露戦争を引き起こし、核対立にエスカレートすることを許す差し迫った理由はない。欧州全体が戦火に包まれれば、米国経済に打撃を与え、ロシアとNATOの東側にある国々のうちの一つとの紛争に発展し、ウクライナ人に大きな損害を与える。それを回避するために米国は、慎重な外交で侵略を食い止める必要がある」