米州サミットをおおう理念衝突の暗雲?

(2022年6月7日)

2021年11月18日、ワシントンのホワイトハウスの執務室で、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領と会談するジョー・バイデン大統領。(AP写真/スーザン・ウォルシュ)

By Guy Taylor – The Washington Times – Thursday, June 2, 2022

 バイデン政権は第9回米州サミットによって、西半球での米国の指導力を見せつけ、前トランプ政権下でしばしば緊迫した関係を清算する機会になることを期待していた。しかし、月曜日からロサンゼルスで1週間続く会合は、イデオロギー絡みの波乱含みで、バイデン大統領の外交と国内政治の両面で、新たな頭痛の種を抱えるリスクがある。

 米州サミットは北米、南米、中米そしてカリブ海諸国の指導者たちによる唯一の公式会合だ。今回は、1994年にマイアミで発足式が開かれてから初めて、米国がサミットを開催するものだ。

 西半球の国々が親睦と協力を讃え合う落ち着いた行事のはずだったが、難問山積が予想されている。例えば、メキシコの左派系大統領は先月、米国が権威主義体制のキューバ、ベネズエラ、ニカラグアからの代表参加を阻止しようとしていることに反対を表明し、サミット欠席を強く示唆した。

 メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、同国代表団を派遣するが、「すべての国が招かれなければ、私は出席しない」、と記者団に語った。「これは何なのか。アメリカ大陸のサミットなのか、アメリカの友人たちのサミットなのか?」

 ラテンアメリカで左派の政治運動が台頭するなかで、参加ドタキャンが増えるかもしれない。ボリビア、アンティグア・バーブーダ、グアテマラのリーダーは出席しない可能性が報じられ、チリとアルゼンチンの左派政府も、米国の招待審査に批判的だった。

 ロペス・オブラドール大統領とバイデン政府との食い違いは、米州機構(OAS)がほぼ3年毎に開催するアメリカ大陸サミットという地域的外交の場に、非民主的な国々を含めるべきか否か、長年の意見の違いを反映したものだ。

 バイデン大統領は、民主主義諸国の強力な同盟関係を、外交全般の中軸に据えてきた。バイデン政権はキューバとベネズエラに対するトランプ時代の対決的政策を緩和しようとしてきたが、強硬姿勢にこだわる議会や、選挙に重要な一部の州から厳しい政治的圧力を受けている。

 同政権が抱えるジレンマは、中国がラテンアメリカに存在感を強めているなかで、米国の影響力を取り戻そうとする多面的な努力を台無しにしかねない。メキシコとの国境周辺では不法移民の圧力が高まり、この地域全般で過去10年間、民主主義が打撃を被っているとの批判が強い。

 「ラテンアメリカでは過去数年間で、世界のどの地域よりも民主主義が衰退した、というのは間違いない」、米州間対話のシニアフェローであるマイケル・シフター氏は指摘した。

 同氏によれば、ポピュリストが権力を握るブラジル、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ホンジュラス、その他の国が出席するサミットで、バイデン大統領は共通点を見つけるのに苦労するだろう、と語る。

 「ベネズエラ、ニカラグア、キューバは言うまでもなく、この地域の国を一つずつ見ていけば、バイデン大統領は現職元首たちの誰と親和性を持てるだろうか。」シフター氏は、「ラテンアメリカでポピュリズムに大きな推移」があり、それらの大半の国が非民主的だ」と説明した。

 こうした傾向は、ここ数十年の南米で最も堅固な米国の同盟国であるコロンビアでも顕著だ。同国では、左右のポピュリストで反体制の大統領候補二人が、6月19日の決選投票で審判を受ける。その結果次第では、同国の対米関係が見直されるかもしれない。

 米国のカマラ・ハリス副大統領と、元上院議員で米州サミット特使のクリストファー・ドッド氏は、大統領と側近たちがロシアのウクライナ侵攻という課題に忙殺されているため、サミットに先立って外交上の火消しに躍起となっている。

 シフター氏が見るに、バイデン政権としてベストの外交シナリオは、OAS指導者たちの集まりを、成果が乏しくても誠実にやり終えて、「惨事や大失策を避けること」だという。

 人によっては、もっとぶっきらぼうだ。「畏れるべきは、今年のサミットが失敗に終わること以上に、ラテンアメリカに対する米国の無思慮な政策の悪例を作ることだ」、英国に拠点を置くシンクタンク「チャタムハウス」のシニアフェローで、当該地域の専門家・クリストファー・サバティーニ氏は批判する。

 同氏が最近、「フォーリン・ポリシー」誌に発表した評論、「ロサンゼルスで恥をさらすバイデン」の中で、「むしろ本当のリスクは、30年近いサミット体験を経た末に、今年の行事が当地域での米国の影響力についての墓石になりかねないことだ」とまで書いている。

綱渡り外交

 シフター氏によれば地域政治の混乱が、OAS加盟34国を一貫性のある民主的ビジョンで結集させたい、というワシントンの希望を挫折させてしまった。ラテンアメリカは長い間、世界の他の地域よりもはるかに低い認知度に甘んじてきた。

 同氏はワシントンタイムズとのインタビューで、「ラテンアメリカは右傾化・左傾化だけでなく、まったく多様な方向に走っており、この地域の民主的な浸食・後退に対処できる一貫したアプローチを考え出すことは非常に困難だ」、と語った。

 バイデン政権はサミットの招待者リストを示したがらず、摩擦についての話題を避けたがっている。

 最近ホワイトハウスは、キューバとベネズエラに対する圧力を緩和する旨の発表をした。米政権がロペス・オブラドール大統領をなだめているのか、少なくともロサンゼルスで深刻な恥辱を被らないようにしようとしている、といった憶測を呼んでいる。

 米政府は、ベネズエラの社会主義政権・ニコラス・マドゥロ大統領と、米国が支援してきた野党との協議を奨励する策として、対ベネズエラ経済制裁の緩和を擁護してきた。また米当局者はキューバ渡航制限を緩和し、米国内のキューバ移民がキューバに多額の送金することを許可すると述べた。

 しかし仮にバイデン大統領がサミットにキューバを招けば、米国内で政治的反発を受けるだろう。フロリダ州のマルコ・ルビオ上院議員をはじめ、キューバ問題で強硬姿勢を採る共和党議員たちは、バイデン政権が左派の権威主義政府をサミットに招待しないよう警告してきた。

 ルビオ議員は、キューバとベネズエラを招くことは、これらの国の政権に、「国際的に大がかりな宣伝効果」を提供し、苦しんできた多くのキューバ系アメリカ人の「顔を平手打ちする」ものだ、と指摘した。

 「我々が暮らす西半球で、権威主義的権力者に譲歩すれば、世界中の独裁者を元気づけるだけだ」、ルビオ議員は先月の声明で語った。「キューバとベネズエラの両政権は、ウラジミール・プーチンと彼のウクライナ侵攻を強く支援した。ホワイトハウスが彼らに取り入るのであれば、米州諸国からもっと多くの国が、プーチンの侵略を黙認するかもしれない。」

 こうした政治的非難は共和党のみではない。上院外交委員会のロバート・メネンデス委員長(ニュージャージー州、民主党、キューバ系アメリカ人)をはじめ主要な民主党議員は、米国がハバナの共産主義政府に対する圧力を和らげようとする動きに、長いこと反対してきた。

 国務省のネッド・プライス報道官は5月20日の省内ブリーフィングで記者団に対し、誰がサミットに出席するかの憶測は「理解できる」と語った。バイデン大統領は、オバマ元大統領が2015年パナマ・サミットに参加して以来、米州サミットに出席する初めての米国大統領になるだろう。トランプ氏は2018年のペルーでの首脳会議をスキップし、マイク・ペンス前副大統領を派遣している。

 プライス報道官はさらに、バイデン政権がロサンゼルス・サミットで焦点にする課題は、移住、気候変動、COVID-19大感染による経済的影響など、多岐にわたると述べた。

 「我々は西半球が直面する核心的な課題について協力することに焦点を当てる」、プライス報道官は語った。「米国のみならずメキシコや中米など、前例のない規模の移民問題で派生した経済的ショックを耐えてきた地域だ。」

 移住問題は、過去10年間に及ぶベネズエラ経済の崩壊状態にも関連してきた。シフター報道官は、南米各国に住む約600万人のベネズエラ難民に対処するため、域内各国が苦しんできたと指摘した。

中国の要因

 バイデン大統領への質問は、ラテンアメリカ関連も多いが、大統領の関心は別のところ、特にロシアのウクライナ侵攻に西側諸国の対応を調整することにある。また先月、大統領が北東アジアに外遊したのは、米国の外交政策全般の焦点を再調整するための一環だった。中国で台頭し続ける権力は、この地域におけるワシントンの最重要な長期的課題だと見られている。

 多くのアナリストは、米国の西半球に対する関係改善と経済投資について焦点を鮮明にすれば、当該地域の諸課題に対処するワシントンの能力を強化できると見る。

 さもなければ、中国がラテンアメリカに経済・外交面で入り込んできた状況からして、同地域を軽視していれば、バイデン外交の目標を挫折させかねない、戦略国際研究センターの南北アメリカ・プログラム・シニアフェローであるライアン・バーグ氏は指摘する。

  「ラテンアメリカが然るべき割り前を獲得するのは、いつも困難だった」、バーグ氏はAP通信との最近のインタビューで語った。「しかしラテンアメリカは我々にとって、戦略的資産だった段階から、戦略的債務の段階に移行する地政学的状況に近づいている。」

 これに関してシフター氏は、総論で同意したが、ワシントンが同地域での中国からの投資に対抗するのは苦戦を強いられており、特に「中国が支援する巨大インフラプロジェクト」に代わるものは難しいと示唆した。

 ラテンアメリカ人は基本的に実用的で、経済成長をもたらすなら中国であろうが米国であろうが、現れた機会を利用するはずだ」、シフターは言う。「米議会の両党が厳しい反中国声明を出しても、米国が経済的に魅力的なものを提供していない、と感じているラテンアメリカの国民たちには、あまり共感されていないだろう。」

 「ラテンアメリカ人民が中国モデルを受け入れるわけではない。それは実用的な必要を反映しているにすぎない」、シフター氏は指摘した。「ラテンアメリカ人は、中国が非常に活発で、明確な戦略を持っている反面で、米国がこの地域での存在感を主張するほどには指導も貢献もしていない、と見ている。それは信頼性の問題だ」(米州間対話のシニアフェロー、シフター氏)。

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