米の「核の傘」、韓国では警戒の声も
By Andrew Salmon – The Washington Times – Sunday, April 30, 2023
韓国の尹錫悦大統領は6日間の訪米中、カラオケで米国民を魅了したが、バイデン政権が提供した核の保証については、本国でも懸念されている。
4月30日に終了した今回の訪米は、就任早々外交的な失態を犯し、堅物と思われていた尹氏にとって転換点となった。ホワイトハウスでの晩餐会では、ドン・マクリーンの名曲「アメリカン・パイ」の冒頭を歌い、その後に行われた議会での共同演説では、米国民が好きな言葉を披露するなど、愛嬌のあるところを見せた。
バイデン氏が尹氏にマクリーンのサイン入りギターを贈ったように、この歌は明らかに計画されたものだったが、大統領の二人芝居は即興として演じられた。出席した重要人物らは、驚きと喜びの表情を浮かべていた。
尹氏の歌唱力は、ソウルのカラオケ店(ノレバン、韓国語で「歌の部屋」)で磨かれたのだろう。豚の丸焼きと大量の酒、マイクを囲んで、同僚との結束を固めるという韓国の伝統的な付き合いの一環だ。
野党「共に民主党」の元外交顧問であるヤン・スンムク氏は、「酒を飲むときは、必ず歌を歌えるようにしておかなければならなかった。酒の席では必ず歌わなければならないという雰囲気があったため、生き残りのために練習する人もいた。優秀な上司になりたければ、何か面白いことに秀でていなければならない。歌やダンスがうまいか、笑いが取れる話ができるか、どちらかです。それが韓国では強いリーダーのスタイルだ」と述べた。
今年は、朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた1953年から続く同盟の70周年にあたり、尹氏の議会での演説でも、祝賀ムードが漂っていた。
尹氏は、戦時中の米国の勇敢な戦いぶりと、それが韓国にもたらした自由、民主主義、繁栄について語った。
韓国に関して豊かな経験を持つ米元外交官のリン・ターク氏は、「このスピーチを書いた人はボーナスをもらうべきだ。米国人のことをよく理解している。それは米国民が韓国について考え、歴史と同盟について信じたいことすべてを反映した演説だった」と述べた。
だが、批判的な意見もあった。
学者のムン・チョンイン氏は、尹氏のスピーチについて、「韓国的なものが見られなかった。米国の聴衆に取り入るための米国的なものは見えた。しかし、彼は韓国の大統領だ」と述べた。
実質か、象徴か
具体的な成果についても、反応はさまざまだった。主要な成果は「ワシントン宣言」にまとめられており、韓国の懸念を和らげようとするものだった。
トロイ大学の国際関係専門家でソウルを拠点とするダン・ピンクストン氏は、「拡大抑止に関する懸念がある。また、約束が守られるのか、巻き込まれるのではないかといった懸念もあるが、これは同盟にはつきものだ」と指摘した。
宣言の中で際立っているのは、二国間の「核協議グループ(NCG)」の新設だ。宣言にはこうある。「米国は、朝鮮半島での核兵器使用の可能性について、(韓国と)協議するためにあらゆる努力をすることを約束する」
また、「有事における米国の核作戦に対する(韓国の)通常兵器による支援のための共同行動と計画」を明確にしている。
韓国は核兵器を保有していないため、両者は「核有事の計画作成に関する共同の取り組みを強化するため、二国間、省庁間の図上演習を新たに設置した」。
ソウルの峨山政策研究院のゴ・ミョンヒョン研究員は楽観的だ。ゴ氏は、宣言はこれまでのものとは「まったく違う」と主張、NGCは、北大西洋条約機構(NATO)の核計画グループ(NPG)をまねたものだと指摘した。
「これまでは、協議レベルの上限が決められていた。ブリーフィングとデブリーフィングというやり方で、米国側が韓国側に伝えるというものだった。NATOのNPGには二つの要素がある。一つは協議、もう一つは核使用に関するもので、これは核・非核両用機(DCA)を通じて運用される」
ゴ氏は、NCGは「NPGへの第一歩」であり、「現実的に言えば、最高レベルの核共有の形態であり、どの同盟国でも目指すことができる」と指摘、「米国は、私が今の段階で可能だと思っていた以上のものを提供してくれた。私が思っていたよりも早く、すべてが実現した」と述べた。
北朝鮮と首脳会談を行った左派政権への助言を行ってきたムン氏は、否定的だ。
「協議は自動的なものではなく、状況に応じて行われるものだ。『あらゆる努力』をすると書いてあるので、韓国と協議しない可能性もある」
さらにムン氏は、「核を使用する作戦作成は米国だけで行われ、韓国は通常兵器で支援を行う。これまでと変わらない。実質的というより象徴的だ」と述べた。
宣言では、韓国は「米国の拡大抑止のコミットメントに全面的な信頼を置いている」とされている。
韓国で最もよく読まれている新聞「朝鮮日報」は、納得していない。この宣言は、韓国の政策に「足かせ」を着けるものだと主張した。
保守派の尹氏を支持するこの右派紙は社説で、「北朝鮮の核ミサイルの射程に米国領土が入っていても、米政府が本当に韓国を守るのか、という疑問は残る。今年初めの調査によると、韓国人の半数が、有事の際に米国が核抑止力を行使するかどうか疑っている」と指摘した。
尹氏は1月、韓国の核武装の可能性をほのめかし、衝撃を与えた。
この問題は、宣言文の中で米国が納得できる形で修正された。「尹大統領は、核不拡散条約の義務を果たすという韓国の長年の約束を再確認した」とある。
これに対し朝鮮新聞は「北朝鮮が、自国に対する核攻撃の脅威を繰り返している時に、韓国の主権と国民を守る権利を投げ捨てるものであり、拙速だ」と批判的だ。
米国の韓国に対するコミットメントを示すもう一つのサインは、オハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦の訪問であろう。このような訪問は1989年以降、中止されている。
ゴ氏は、米艦隊がオハイオ級原潜を14隻しか保有していないことに触れ、貴重な資産が「韓国を守るために…確保される」と評価した。
ある専門家は、単純な解釈は禁物だと警告する。
韓国が国防の基礎を、物理的なエネルギーによる「キルチェーン」から、すべての領域を最大限に統合する「キルウェブ」という、より高度な米国の概念にアップグレードしつつあることは、3月に明らかにされた。
その観点からは、二国間メカニズムの制度化が真価を発揮する。
ピンクストン氏は「協議機関を再構築し、立ち上げ、協議を正常化することで、人々はこのプロセスが単に赤いボタンを押すだけのものではないことを理解するようになる」と指摘した。