タイに浸透する中国のソフトパワー

(2023年5月9日)

2023年1月23日(月)、タイ北部チェンマイ県にある中国寺院「プンタオゴン」を見学する中国人観光客。バリやチェンマイなどの観光地のビーチや寺院は、3年前にパンデミックが発生して以来、最も混雑しているが、まだ比較的静かだ。 (AP Photo/Wichai Thaprieo)

By Richard S. Ehrlich – The Washington Times – Friday, April 28, 2023

 【バンラクタイ(タイ)】冷戦時、中国国民党が中国共産党との戦いに敗れ、逃れたタイ北部が、中国人の人気の観光スポットになっている。中国風のホテルなどが建ち、かつて中国共産党と戦った国民党の子孫が中国人観光客を迎えている。

 タイ北部のチェンライ、チェンマイ、メホンソン県に散在する100以上の村々には、中国雲南出身の中国人約20万人が住む。皮肉なことに、かつては敵だった国民党ゲリラの子孫は、経済の発展に貢献してくれている中国人に感謝しているという。

 中国人に人気のレストランを営むワン・ジャ・ダさんは、「中国人が来て、見て、国民党員がかつて厳しい境遇に置かれていたことを申し訳なく思うと言っていった」と話した。シュロぶきの屋根のレストランには、家族が使っていたという錆びた古い機関銃、鉄のヘルメット、水筒、弾薬箱など国民党の装備が提示されている。戦闘で亡くなった国民党員とされる人物の古い写真もある。

 シンガポールのニュースサイト「シンクチャイナ」は「中国のソフトパワーのせいで、タイ北部の国民党員の子孫の一部は徐々に、親タイから親中へと変わっている」と報じた。

 タイは、東南アジアでも重要な親米国だが、経済、安全保障面での中国の影響力が近年強まっている。資金を投入した文化・経済的ソフトパワーが浸透し始めているためだ。

 子供を私立の中国語学校に通わせる親も増えているという。

 中国政府が運用する孔子学院は、米国で論争を呼んでいるが、タイでは、全国数十カ所にあり、国外での中国語教育を推進する中国の国家漢語国際推広領導小組弁公室(国家漢弁)が資金を提供している。一般から生徒を受け入れ、中国の言語、文化を教え、地元の住民らを教員に養成している。だが、孔子学院については、美化された中国像を広め、それに反する主張を抑圧しているという批判もある。

 シンガポール国立大学は報告「中タイ関係の中の孔子学院―中国のソフトパワー」で、「(孔子学院からの)紹介によってタイ企業は、中国企業との取引を取り持つ信頼できる仲介者を得ている。こういった活動はタイ政府、王室、実業家の支持を受け、学院が戦略・経済的ツールとなっている」と指摘した。

 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)は、欧米で排除の動きがある一方で、タイでは高速大容量通信規格「5G」ネットワークを運用、プラユット首相もファーウェイの進出を歓迎している。

 バンコクでは、新たな世代の移民が中国内陸の雲南、四川などから陸路で入ってきている。タイには、中国南東部の沿岸地域から海路で移ってきた中国人が多く住み、バンコクにはチャイナタウンも存在するが、新たな移民は民族的に違うという。

 旧世代の中国系タイ人らの多くは政治的、経済的に成功している。バンコクのチャオプラヤ河畔には200年前にはチャイナタウンができていた。倉庫や、「ショップハウス」と呼ばれる店舗兼住宅が立ち並ぶ。

 これらの中国系タイ人の企業は、タイが国際的な金融危機などを乗り切るのに貢献してきた。現在、チャイナタウンの不動産は高価で、新着の中国系移民には手が出ない。

 そのため、バンコクのフワイクワーン地区に「ニューチャイナタウン」を作ろうとしている。すでに、チャイナタウンの中国レストランではあまり見られない雲南・四川料理を提供する店もできている。

 フワイクワーン地区は、ホテルの宿泊、アパート、オフィスの賃貸が安価なことから、中国系住民の観光客が集まっている。

 また、中国共産党機関紙「人民日報」は、英語紙「バンコク・ポスト」などに、中国に対する信頼性を高める特集を入れるなどといった形でソフトパワーの浸透を図っている。

 こういった中国の微笑攻勢は広範囲に及び、米国防総省は、台湾や南シナ海を巡って米中間で紛争となった場合に、同盟関係にあるタイがどちらに付くか懸念を抱いている。一方でプラユット政権は、大国間の対立に巻き込まれるのを避けようと、中立的なスタンスを取ろうとしている。

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