北朝鮮の軍備増強 韓国で悲観的な見方強まる
By Andrew Salmon – The Washington Times – Thursday, November 2, 2023
【ソウル(韓国)】韓国は、北朝鮮からの脅威が拡大するなか、安全保障状況の急激な悪化と外交的行き詰まりに直面、懸念が強まっている。
遠く離れたウクライナや中東での紛争では、新型、旧型問わずミサイルや武装ドローンに対して現在の防衛システムが対処できないことが明らかになっている。その一方で、北朝鮮との生産的な対話の兆しは見られない。
米国のアナリストらによると、北朝鮮は現在、約100発の核弾頭を保有しており、今後、さらに増加する。
米国のランド研究所と韓国の牙山研究所の共同報告書は先月、「(金正恩総書記は)少なくとも300から500発の核兵器を保有することを計画しているようだ。…2030年には300発に到達する可能性がある」と指摘した。
報告書はこう警告している。「北朝鮮は核兵器を保有しており、それはすでに(韓国に)存亡の危機をもたらすレベル達している可能性があり、米国にとっても深刻な脅威となりうる」
しかし、韓国と米国で懸念が高まっても、分断された朝鮮半島の現状を変えるためにできることはあまりない。現職の国防副長官と韓国の元核兵器交渉担当者は、北朝鮮の集中攻撃からソウルを防衛することは不可能であり、北朝鮮が核兵器を放棄する可能性も低いと述べている。
防衛は不可能
ある韓国在住の米国人ビジネスマンは、ソウルの龍山(ヨンサン)地区に新しく建てられた高級高層マンションの屋上に防空システムが設置されていることを知って驚いたという。
標的となる可能性があるばかりか、最近の動きを見ると、このようなシステムがあっても完全に防衛できるわけではない。
パレスチナの過激派組織ハマスは、第2次世界大戦時のソ連製「カチューシャ」をベースにしたローテクロケットを大量に使用しているが、10月7日にイスラエル南部でテロを起こし、イスラエルが誇る低層防空システム「アイアンドーム」を圧倒した。
ウクライナでは、ロシアの防衛網もウクライナの防空網もミサイルやドローンによる攻撃に対抗できていない。同様に、装甲車、艦艇、戦闘爆撃機といった古典的な戦闘用兵器もミサイルやドローンの餌食になっている。
どちらの戦場とも、現在の誘導システムの精巧さと殺傷能力の高さ、そして現在の防衛システムの脆弱さを浮き彫りにした。
ハイテクを誇る韓国でさえ、昨年12月、北朝鮮の無人機が非武装地帯を越えるのを防ぐことができず、民間空港や大統領官邸の上空を飛行する無人機を撃ち落とすことができなかった。
アナリストらは、ドローンは北朝鮮が豊富に蓄えている兵器のごく一部にすぎず、その数は日に日に増えていると指摘する。
北朝鮮は、非武装地帯(DMZ)のわずか50㌔南のソウルに照準を合わせた超長距離砲数百基を山の斜面に掘った穴に配備している。ミサイル部隊には、長距離多連装ロケットシステム、巡航ミサイル、弾道ミサイルが含まれる。それ以外に核兵器もある。
通常兵器であれ核兵器であれ、2400万人が住む人口密度の高いソウルは戦争計画立案者らにとって格好の標的だ。
ハマスの攻撃を受けて、韓国国防省のソン・イル副大臣は、自国の防衛についての質問に対し、率直にこう答えた。
先月ソウルで開催された防衛対話2023の会合で「北からの攻撃をすべて防御できるような完璧な兵器システムはない。北は1時間に1万発以上の砲弾を発射することができる」と語った。
韓国は多層式ミサイル防衛網を構築しており、発射拠点を攻撃するための先制攻撃・反撃のハイテク兵器を保有しているが、甚大な被害は避けられない。
ソン氏は、北朝鮮の脅威を無効化できるような「システムは世界には存在しない」が、「(韓国は)重要なシステムや重要な地域を守るため尽力するものの、…民間側には深刻な被害が及ぶだろう」と述べた。
外交的妄想
防衛がますます困難になる中、金正恩政権との外交で成果を上げられる見通しもますます遠のいているように見える。
1990年代と2000年代の米国主導の多国間協議は、北朝鮮の核兵器の拡大を抑制することに失敗し、正恩氏とドナルド・トランプ前大統領との直接会談も3回行われたが、合意には至らなかった。
北朝鮮は2006年に最初の核実験を行い、2017年には広島型原爆10個分の威力を持つ最新の核兵器を爆発させた。北朝鮮との直接交渉の経験を持つ専門家は、北朝鮮がこれらの核兵器を放棄する可能性はゼロだと言う。
シンクタンク、世宗研究所のリ・ヨンジュン会長は記者団に対し、「私は、最初から非核化交渉は幻想に過ぎないと思っている。非核化交渉のプロセスはもうないだろう」と述べた。
韓国の核交渉チームの幹部だったリ氏は、正恩氏が2019年に寧辺の核施設を交渉のテーブルに載せたが、その一方で現在は、核兵器を増強するために三つないし四つの秘密の濃縮工場を持っていると述べた。
これらの設備には巨額の投資が必要であり、貧困にあえぐ金正恩政権にとって、南側に対する技術的優位性を確保する唯一の手段だ。
ランド研究所アナリストのブルース・ベネット氏は同研究所のブログに「核兵器は、金正恩氏がその残忍な支配を正当化し、韓国を支配するという目的を達成するための手段として自国民に提示した世界観を実現するうえで極めて重要だ。核兵器をなくせば、金正恩氏は弱小国家の指導者に過ぎず、転覆は可能になる」と指摘した。
外交的な一歩としては、韓国と米国が非核化要求そのものを放棄し、北朝鮮の核状況の現実を認識し、軍備管理協議に移行することだろう。しかしアナリストらは、米国では、これは政治的に不可能だとみている。
抑止力をめぐる相違
韓国の核武装が議論の的となっている。だがこれは、米政府の核不拡散への強い関与や、韓国の核保有による外交的・安全保障上の影響を考えると、米国との衝突につながる可能性がある。
リ氏は「米国は、他国との同盟関係を考えれば、韓国が独自の核を持つことを許す可能性は低い。もし韓国の核武装を許せば、核の『ドミノ現象』が起こる可能性が高い」と主張する。
その上でリ氏は、サウジアラビア、台湾、トルコなどがこれに追随するようになり、世界に拡大している韓国の輸出経済が懲罰的な制裁を受ける可能性があるとの見方を示した。
もう一つの選択肢は、米国の核兵器を韓国に配備することだ。共同報告では、米国の戦術核兵器約180発を近代化し、十数発を朝鮮半島に配備するよう求めている。
だがこれについてリ氏は「実現の可能性は低い」と主張、現在の米軍のオフショア能力を指摘した。「(米海軍は)外海の真ん中から潜水艦で北朝鮮を攻撃することができ、(戦術核兵器は)北朝鮮に韓国内を攻撃する標的を提供することにもなる」
リ氏は、日韓米3カ国のミサイル防衛、ソウルの通常戦力の大幅増強、米国が今年、戦略爆撃機と潜水艦を韓国に派遣したような「拡大抑止」の強化を提案した。