各国議会・政府に浸透するAI
By Ryan Lovelace – The Washington Times – Thursday, January 18, 2024
人工知能(AI)が政界に浸透しつつある。各国議会が新しいハイテクツールの導入に取り組み、議員らはそれらを使いこなすようになっている。
非営利団体「POPVOXファウンデーション」の調査によると、ブラジルでは議員らがリモートで仕事ができるよう、顔認証の実験を行っている。また、フィンランドでは、政治家らが公聴会でAIに質問し、シンガポールでは政府が議員に支給したノートパソコンにAIモデルを組み込んでいる。
政府の技術に対する理解の向上を目指すPOPVOXは、世界中の議員によるAIツールの採用状況を調査し、米議会が新しい生成AIの導入に取り組んでいることを明らかにした。議会スタッフらは生成AI製品の細部についてトレーニングを受けており、議会から配布される指針を注意深く見つめている。
POPVOXによると、「大規模言語モデル(LLM)やAIツールの進歩が続いており、また、立法という観点からもAIの導入への関心が高まっていることから、2024年以降、議会でAIの利用がさらに拡大するとみられている」。
AIは、高度なコンピューティングと統計分析を用いて複雑なタスクを遂行する科学と工学の一分野だ。ブラジルでは、議員が「(AIが視覚情報から情報を取り入れ、処理する)コンピュータービジョン」と機械学習ツールを試している。
ブラジルの議員らは、議会の電子投票システムで本人確認をするために顔認識技術の試験を行っている。POPVOXによると、ブラジルの議会は対話型AIも試験的に導入しており、議員、法案、予算などの公的な情報について市民と対話し、質問に答えている。
また、ブラジルの機械学習プラットフォーム「ユリシーズ」は大量のデータを分類しており、有権者が法案に対する意見を表明できるようにしている。3万件ものコメントが寄せられている法案もあるという。
フィンランドの議員は、文字通りAIに回答を求めている。フィンランド議会の未来委員会は2021年に公聴会を開催し、議員らはそこで2人のAIパーソナリティー、マスキーとサーラに質問し、書面による回答を得た。
POPVOXは「この取り組みの目的は、AIが見通しや情報を提供できるか、人間の専門家のような議論や反論を形成することができるかどうかを探求することにあった」としている。
コンサルティング会社デロイトの最新の報告書では、欧州の研究者らがAIの機械学習モデルを使って、アイルランド経済を規制するためのさまざまな政策に対して企業や消費者がどのような反応を示すかを予測したことが紹介されている。
「例えば、研究者は、財政支援や税制優遇措置が、特定の都市やハイテク産業での新たな企業創出の支援に役立つかどうかを調べることができる。このようなモデルは、政府が国内の半導体製造やその他の先端技術を促進するためにどのような政策が有効かを検討する際に役に立つ可能性がある」
デロイト社は、これは議会が独自の判断を下す必要性を排除するものではないと強調している。
「(機械学習モデルは)政策や計画による隠れた影響を明らかにすることはできるが、それが成功と言えるのか失敗と言えるのかを判断できるのは人間だけだ」
POPVOXは報告で、AIが人間の専門家に取って代わることはないが、エストニアでは「HANS」と呼ばれるAIシステムを議会の議事録作成に使用することで、「スタッフの削減、特に定年が近づいていたが、後任を見つけるのが難しかった議会の速記者チームの削減につながった」と指摘している。
時間と資金
他の国の議会では、事務作業をより安く効率的にするAIツールを取り入れている。シンガポールは政府支給のノートパソコンにツール群「ペア」を搭載、これによって、政府の機密情報を流出させることなくAIモデルの能力を活用することが可能になっている。
POPVOXは、「ペアは、質問に対し回答するという形で動き、公務員向けに作られた安全で反応の速いチャットGPTのようなものだ。シンガポールのスマート国家・デジタル政府局から、「制限付き/標準機密」レベルまでの文書で使用する許可を得ており、その
「データを持ち込む」機能により、職員は個人情報データセットを統合することができ、適応性、適合性を高めることが可能になっている。
AI技術の安全性や雇用への影響に関する懸念は、世界中でこの技術がスムーズに受け入れられるのを阻む可能性がある。AIは、スイスで開催された今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の主要テーマだった。
中国の李強首相は、16日のダボス会議でのスピーチでAIを「諸刃の剣」と呼び、中国共産党政権は強力なAI技術の使用を管理するルールについて、他国とのコミュニケーションを強化したいと考えていることを示唆した。
李氏は「機械がわれわれをコントロールするのではなく、人間が機械をコントロールしなければならない」と主張、AI開発には越えてはならない一線が必要だと語ったが、その線をどこに引くべきかについて十分な説明はなかった。
米議会はAIにどのようなルールが必要かを数カ月にわたって調査してきたが、AIの企業での利用を妨げることなく、どのように開発と実用を規制するかという疑問にはまだ答えていない。
POPVOXの政府イノベーション担当ディレクター、オーブリー・ウィルソン氏は、米議会はAIツールの採用で先行していると指摘。新型コロナウイルスの大流行によって、議員の多くが新しいテクノロジーを使いこなすようになり、議員の仕事のやり方が変わったと語った。
「この巨大な技術的進歩に、議会が参画している。このようなことはかつてなかった。競い合って取り入れようとしている。特に下院で顕著だ。議会は遅れていない。議会は、この技術の進歩、採用、探求で後れを取ってはいない」
議会がこの技術に積極的に取り組もうとしているのは、恐らく必要に迫られたからだろう。IBMのCEO、アービンド・クリシュナ氏はダボス会議で、あらゆる業界の人々は適応しなければならず、それができなければ取り残されると語った。