緊迫の朝鮮半島 金正恩氏は「トランプ待ち」か
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Tuesday, March 5, 2024
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、米国との本格的な外交交渉を再開したいと考えている。
しかし、その交渉が2025年1月に突然復活する可能性はあるだろうか。
米シンクタンク、スティムソン・センターの「大戦略再考」計画の研究員の中でも特に著名なロバート・マニング氏は、5日のオンラインフォーラムで、ドナルド・トランプ前大統領が再選されれば、低迷する米朝関係を復活させる可能性があると指摘する一方で、その結果、長期的な政策面での成果につながるかどうかはほとんど分からないと述べた。
マニング氏はワシントン・タイムズ財団主催の月例フォーラム「ワシントン・ブリーフ」で、「ある意味、金正恩氏はトランプを待っているのかもしれない」と述べた。バイデン政権下では北との非核化交渉は何の結果も出していない。
「トランプ氏は自身を誰よりも優れた交渉人だと考えている。選挙演説で金氏との関係をいまだに自慢している。もう一度やってみたくなるのではないかと思っている。可能性はそれほど高くないし、こんなことはあってはならないと思うが、金氏と、完全な非核化のためではない交渉に引きずり込まれる可能性はなくはないと思う。金氏は非核化を巡る交渉に応じてこなかったからだ。しかし、核凍結などについて交渉してみるのは、理論的には悪い考えではないと思う」
マニング氏は、「やってみるのはいいかもしれないが、問題は多くある」と指摘した上で、北朝鮮の核開発計画は透明性がないため、どのような「凍結」も検証が非常に困難だとの見方を示した。
オリーブの枝
共和党の大統領候補になることがほぼ確実で、11月にバイデン大統領との再戦を控えているトランプ氏は、2期目の大統領就任を、2018年にシンガポールで両氏が歴史的な会談を行ったときのように、金氏に再び外交的なオリーブの枝を差し出す好機と捉える可能性がある。
トランプ氏が主張する経済制裁の緩和や国外からの投資と引き換えに、北朝鮮の核兵器開発を終結させるという合意を成立させるため、トランプ氏は金氏とさらに2回の会談を行った。
しかし、2人は合意に達することができなかった。あれから数年、分断され、重武装された朝鮮半島の状況は危険さを増すばかりで、北朝鮮は頻繁に新たなミサイル実験を実施し、地上発射型以外にも大量破壊兵器のプラットフォームを多様化しようとしているとアナリストは指摘する。
金氏が核開発計画を完全に放棄する可能性は極めて低いとみられている。しかし、マニング氏は、第2次トランプ政権が誕生した場合、米国が他の合意への扉を開く可能性はあると述べた。
一つの可能性は、米国と国際社会が北朝鮮の核開発を「合法化」することを提案することだ。
マニング氏は核兵器保有国として知られる国々を引き合いに出しながら、「言い換えれば、北はイスラエルやパキスタンのようになりたい。もし金氏がそれを手に入れ、制裁を解除させられるならば、誘惑に駆られるだろうと思う」と述べた。
朝鮮半島での核の現実を認めるという考え方は、米国の一部の国家安全保障界では支持されている。
ジェームズ・クラッパー元国家情報長官は最近、米国が取るべき最善の行動は「非核化」の要求から方向転換し、代わりに北朝鮮が実際には核保有国家であることを認識することかもしれないと述べた。
「私は、現実を認識し、北朝鮮が核能力を持っていることを公式に認めることを支持する。そうすることで、彼らの本質的な脅威は少しも上がったり下がったりしないし、彼らのメンツの欲求に応えることもできる。ひょっとすると交渉への良好な雰囲気を作り出せるかもしれない」
次のステップ
5日のフォーラムで司会を務めた中央情報局(CIA)元職員のジョセフ・デトラニ氏は、米朝間の将来の正常化合意への扉は、わずかではあるが、まだ開いている可能性があると思うと述べた。しかし、金氏が最近ロシアのプーチン大統領を支持し、ウクライナ侵攻を支援していることが、状況を非常に複雑にしていると述べた。
過去2年間、金氏はロシアとの戦略的関係を深めてきた。北朝鮮は国際的な制裁に違反して、ロシアにウクライナでの戦闘用の武器と弾薬を提供している。ロシアは金氏の支援への見返りに、高度なロシア製兵器やロシア市場へのアクセスを提供しているのではないかとの見方が根強い。
デトラニ氏は「私は、金正恩氏が米国や国際社会との正常な関係の樹立を放棄したわけではないと思っている。残念ながら、今はプーチン氏を受け入れている」と述べた。
「そのため、北朝鮮が国際社会や米国との関係を正常な状態に戻すのは非常に難しい。しかし、まだ可能性はある。あきらめてしまうべきでないと思う」
北朝鮮の最近の一連のミサイル発射実験とプーチン大統領への接近、そして金氏の韓国政府に対する敵対的な発言は専門家らに、朝鮮半島が1950年代の朝鮮戦争以来最も危険な時期を迎えているのではないかという疑問を抱かせている。実際、5日のパネルディスカッションのテーマは「金正恩は戦争の準備をしているのか」だった。
ディスカッションは、戦争が差し迫っているわけではないという見方で一致していた。もし金氏が韓国に対して軍事攻撃を計画しているのであれば、ウクライナで使用するために大量の武器をロシアに輸送することはあり得ないとアナリストらは述べた。
この日のイベントに登壇したジョージタウン大学安全保障研究センターのアレクサンドル・マンソロフ教授は、「北朝鮮の攻撃前夜に見られると予想されるような兆候は、見られていない」と述べた。