中国の「スローモーション・ジェノサイド」 チベットとウイグルで宗教・文化の抹殺加速
By Andrew Salmon – The Washington Times – Thursday, July 25, 2024
【東京】ドルジ・ツェテン氏は41歳だが、一度も祖国の地を踏んだことがない。
亡命チベット議会のメンバーであるツェテン氏は「私の家族はチベットを脱出したが、過去70年間に120万人のチベット人が、軍事占領や飢餓、そして脱出中に命を落とした。どの家庭もこのようなことを経験してきた」と語った。
テレビのニュースを見るのは本当につらいと語るツェテン氏。「罪のない人々が殺されているのを聞くと、チベットで起きていることを思い出す」
ガザ地区、スーダン、ウクライナで血なまぐさい紛争が起きていることを受けて、ジェノサイド(大量虐殺)についてさまざまな議論がなされている。東京で先週、開催された「国際宗教自由(IRF)サミット・アジア」に参加した人々にとって、ここで議論されたことは間違いのない事実であり、多くの人々が言うように、中国共産党政権がチベットと新疆ウイグル自治区で静かに進めているのは事実上のジェノサイドであることは明らかだった。
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)、宗教間対話、信教の自由のためのチェコ特使ロバート・レハク氏は、「『ジェノサイド』という言葉は、注目を集めるために誤用されることがある。莫大な数の大量殺戮ではないかもしれないが、長期的な目的が一つの民族の抹殺であれば、ジェノサイドと呼ぶべきだ」と述べた。
会議のスポンサーには、米国際NGOフリーダムハウス、キリスト教団体「家族研究協議会(FRC)」、ワシントン・タイムズ財団などが名を連ねた。
中国は死の収容所を運営したり、集団墓地を作ったりはしていないが、チベット、ウイグルの二つの地域に対する政策は「スローモーション」ジェノサイドだと専門家らは指摘した。
宗教的自由と人権に焦点を当てたビター・ウィンター誌のディレクター、マルコ・レスピンティ氏は、「すべての虐殺や戦争犯罪がジェノサイドというわけではない。ジェノサイドを行うには、人類の一部をすべて滅ぼす意図が必要であり、そのための計画を立て、必要な道具を作らなければならない」と述べた。
中国の指導者らは、ジェノサイドという非難に強く反発している。特に、トランプ政権、そして今はバイデン政権が、新疆ウイグル自治区のイスラム系ウイグル族に対する中国の弾圧をジェノサイドだと正式に宣言したことに激怒している。
中国の王毅外相は2021年の国連人権理事会で、「新疆ウイグル自治区でいわゆるジェノサイドや強制労働、宗教弾圧が行われたことはない。このような扇動的な非難は無知と偏見からでっち上げられたものだ。悪意と政治的な誇大広告に過ぎず、真実からかけ離れている」と述べている。
長くゆっくりとしたプロセス
突発的な出来事でも衝撃的な政策でもなく、ジェノサイドは通常、長い時間をかけて積み重ねられていく。
多くのウイグル族は新疆ウイグル自治区を東トルキスタンと呼ぶ。1949年に中国に占領された。チベットは1950年に武力で併合された。両地域の住民は、2013年に習近平国家主席が就任して以来、中国共産党の文化殲滅政策は加速していると言う。
2014年、習主席は新疆ウイグル自治区のカシュガルを訪問した際、驚き、不快感を示したと言われている。
ウイグル人権プロジェクトのオメル・カナト代表は、「一部で報じられたように、習氏は『なぜウイグル族がまだウイグル族なのか』と尋ねたという。彼は政府当局者を批判し、当局者らはウイグル族を強制的に同化させることを決めた」と述べた。
システム化された同化政策は「2017年にジェノサイドに変わった」とカナト氏は言う。
ツェテン氏は、チベット人が直面している「現在最も差し迫った人権問題の一つ」である子供への強制的な刷り込みは、2016年以降に実施され始めたと言う。
トランプ前政権で国際宗教自由大使を務めたサム・ブラウンバック氏は、チベットとウイグルに漢民族を加えて「中国共産党は三つの大量虐殺を行っている」と訴えた。
信者を標的に
中国への批評家らは、ナチスがユダヤ教信者を絶滅させたように、中国政府は強い宗教的アイデンティティーを持つ人々を標的にしていると言う。チベットの仏教徒、ウイグルのイスラム教信者、仏教と道教の教えを呼吸法と瞑想の実践に取り入れた中国の法輪功だ。
会議の共同議長カトリーナ・ラントス・スウェット氏は、「権威主義政権が信仰を恐れるのは理にかなっている。彼らに必要なのは住民のコントロールだが、人々が信念を持つようになれば、コントロールするのはずっと難しくなる」と述べた。
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ法王の日本・東アジア代表ツェワン・ギャルポ・アリヤ氏は、中国の規則によれば、「すべての宗教施設は許可を得なければならず、すべての(宗教)教師は資格を持ち、『習近平思想』を持たなければならない。どこが宗教だ」と述べた。
民族のアイデンティティーと信仰の実践は、画一的なアイデンティティーと党が承認した慣行に置き換えられている。最悪の虐待の中には、拷問、失跡、臓器狩りがある。コントロールのためにもっと広い範囲で取られている方法には、警察による厳重な警備や収容所での大量拘束がある。
カナト氏は「収容所の目的は、血統、ルーツを絶ち、先祖とのつながりを切ること、つまり中国で、民族的アイデンティティーとしてのウイグルを抹殺することだ」と言う。同氏の推定では、あらゆる出自を持つ「数万人」が収容されている。
2016年以来、5歳のチベット人の子供が家族から引き離され、「共同体寄宿学校」に入れられている。
「子供たちはそこから出てくると、家族とのつながりが変わってしまう。チベット語が話せず、伝統を忘れ、家族とのコミュニケーションも取れなくなる」
「祖父母に対して批判的になる子供さえいる。どうして中国語が分からないの。なぜ『他の中国人と違うのか』と」
ハイテクと弾圧
ブラウンバック氏は、表現の自由や集会の自由を阻止するために「権威主義政権は、これまでは考えられなかったような技術を持っている」と言う。
監視カメラネットワーク、個人のデジタル機器に埋め込んだスパイウエアなどを組み込んだセキュリティーシステムによって、人工知能(AI)による休むことのない国民全体への監視が可能になっている。
日本のウイグル文化センターのイリハム・マハムティ所長は、「家族は互いにコミュニケーションを取ることができない。人々は互いに疑心暗鬼になり、家族でさえも互いに信頼できなくなっている」と述べた。
マハムティ氏は個人的な経験からこう語る。「母と最後に連絡を取ったのは2017年4月だった。母は『電話しないで。何かあったら電話する』と言っていた」
人的な犠牲とともに、物理的な抑圧も行われている。宗教文化の中心となる建造物、特にモスクや修道院は破壊されたり、別の目的に利用されたりしている。
この会議の講演者らは、各国政府に行動を求めるよう市民に呼びかけた。国連人権高等弁務官事務所は2022年、中国が人道に対する罪を犯している可能性があると警告した。オランダ政府は米国に歩調を合わせ、中国の政策が虐殺的であることを認めた。
ブラウンバック氏は、他の国々も圧力を加える必要があり、特に中国周辺の国々に行動を呼び掛け、「アジアの強力な民主主義国家が立ち上がってほしい」と語った。
レスピンティ氏は、大量虐殺政策を計画、実行した者は責任を問われるべきだが、時間は刻一刻と迫っていると述べた。
「10年後、20年後、30年後には、宗教も民族も特定できなくなり、『任務完了』となる。自分たちの宗教を実践できなくなったり、チベット語やウイグル語を話せなくなったり、理解できなくなったとき、中国の標準化された言語と文化だけになったとき、何が残るのだろう」
海外で生まれたツェテン氏は、まだ見たことのないチベットの祖国を夢見ているという。
「自分の村がどこにあり、どんな姿をしているかは知っている。私は両親や祖父母を通して得たチベットの記憶とともに生きている。いつかそこに行くのだと心の底から感じている。それは、私の村やチベット全土の人々が恐怖から解放され、自分たちが望むことを実践し、先祖たちがしてきたことを続けることができるようになる時だ」