輸入規制に抜け穴、安価な中国製品に健康被害懸念 若い世代が標的に

(2024年10月18日)

2023年6月23日、ニューヨークにて。中国で設立され、米国で人気急上昇中のオンライン小売業者テムは、そのプラットフォームを米国とヨーロッパの販売者に開放していることを、テムの広報担当者が2024年1月25日木曜日に確認した。(AP Photo/Richard Drew, File)

By Emma Ayers – The Washington Times – Wednesday, October 16, 2024

 インスタグラムやフェイスブックで話題のファストファッションには、鉛が使われている。

 「SHEIN(シーイン)」のような中国の小売業者やその他の「安価な」衣料品販売業者は、きらびやかなドレスから人目を引くステートメントジュエリーまで、あらゆるものを米市場に氾濫させている。これらの製品は有害であることが繰り返し報告されてきたが、米規制機関は何年間も売り上げの拡大を許してきた。

 多くの専門家によれば、これらの業者は米国の貿易の抜け穴を悪用して検査、関税を免れており、一方で脆弱なZ世代(1990年代半ばから2010年代初頭に生まれた世代)の消費者をターゲットにしているという。

 ドイツの消費者雑誌エコテストの研究者がファストファッションの衣料品を調査したところ、大量の鉛だけでなくアンチモンやカドミウムも検出された。また、ルモンド紙によると、韓国ソウルの環境衛生チームは、シーインと「Temu(テム)」の製品からホルムアルデヒドやフタル酸エステルなどの有害化学物質を発見した。一部は法的許容限度を何百倍も超えていた。

 ソウル市環境保健チームの関係者は「フタル酸エステル系可塑剤は、精子数の減少など生殖機能に影響を及ぼし、不妊症の原因になる」と述べた。

 これらの化学物質は、子供向けの製品に含まれていることがよくあり、世界的に懸念が高まっているが、米国の消費者は、これらの安価な製品に隠れた危険性があることをほとんど知らないままだと専門家らは指摘する。

 もちろん、シーインのビジネスモデルは、ファストファッションを大変なスピードで変化させている。中国市場に特化した市場調査・戦略会社、ダシュエ・コンサルティング(Daxue Consulting)のデータによると、「リアルタイム・ファッション」で知られる中国のこのeコマース大手は、社内のデザインチームと最先端のデータ分析を活用し、競合他社よりも早くトレンドを発見し、商品をデザインし、製造している。

 そのため、他のブランドが新しいコレクションを発表するのに数週間かかるのに対し、シーインは毎日500から2000点の新商品を発表している、とダシュエは今年初めの報告で指摘した。2020年だけで、シーインは15万点もの新しいスタイルを発表している。

 価格に敏感なことで知られるZ世代の顧客は、シーインの激安ファッションに引かれ、この世代の55%が、買い物をする際、何よりも価格を優先しているとダシュエは報告している。

 しかし、破格の低価格でもシーインやテムは利益を出している。2022年、シーインの年間売上高は227億ドルで、前年から70億ドル近く増加した。

 また、デジタル・プログレスのジョエル・セイヤーCEOは、テムの利益はさらに高い―同社が報告しているよりもさらに高い―と述べた。

 「つまり、テムの売り上げは150億ドルほどだと言っていたと思う。しかし、流出した電子メールによると、実際には420億ドルに近い。彼らは利益を正確に公表していない」

 さらにセイヤー氏は、このeコマース大手が単にマーケティングや販売に長けているだけだと考えるのは間違いだと付け加えた。

 セイヤー氏はワシントン・タイムズ紙に、「これらの企業は単なる安価なコピー商品工場ではなく、中国政府と密接につながり、国家の経済目標を推進することを目指している」と語った。

 ワシントン・タイムズ紙は、シーインとテムにコメントを求めた。

 これらの中国ブランドは米国のインターネットに広く広告を掲載しているため、買い物客がターゲットとなることは避けられず、買い物客らはこれらの健康リスクを知らない可能性がある。シーインは、ウェブサイト、アプリ、ソーシャルメディアでのシームレスな体験を通じて、この層に直接アプローチしている。

 上の世代とは異なり、Z世代は主にソーシャルメディアやターゲット広告を通じてファッションブランドを発見する。また、シーインのフォロワーの半数近くは35歳以下であり、節約への意識の高い若い消費者にとって、シーインが最も人気のあるブランドになっているとダシュエは指摘している。

 これらのブランドは、なぜこれほど急速に米国市場に浸透できたのだろうか。アメリカン・イノベーション財団の技術政策ディレクター、ジョシュ・レバイン氏によると、その多くはデミニミス免税措置(曖昧な貿易の抜け穴。800ドル未満の輸入品に対して関税と検査を免除する)に集約されるという。

 もともとは小規模な個人輸入のためのものだったが、シーインやテムのような大企業が米国の規制をかわすためにこの免除措置を悪用している、と当局者やアナリストは言う。

 レバイン氏は「2017年か2018年以降、デミニミス免税措置で輸入される製品の数が大幅に増加している。特に中国からが多い。今現在、63%だと思う。…そのうちの多くがシーインとテムのものだ」と述べた。

 2021年にバイデン大統領が署名した「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」のもとでは、中国新疆ウイグル自治区で製造された商品の一部または全部は、強制労働収容所と関係があると公式に見なされ、輸入が禁止される。

 ブルームバーグによると、2017年以来、中国はこれらの収容所に最大100万人のウイグル族を拘束し、過酷な状況下で労働を強いている。また、2022年にブルームバーグ・ニュースの依頼を受けて実施された試験では、シーインが中国の新疆ウイグル自治区産の綿花を使用していることが確認されたが、この事実は多くの米国の消費者に無視され続けている。

 アメリカン・イノベーション財団の政策・アウトリーチ担当ディレクター、ルーク・ホッグ氏は、レバイン氏とともに中国貿易政策の提言を行っている。ホッグ氏はワシントン・タイムズ紙に、これらの不正行為は単なる一過性のものではなく、組織的なものだと指摘した。

 「シーインとテムのサプライチェーンは強制労働に汚染されている。2021年のUFLPAは、新疆ウイグル自治区で製造された商品は奴隷労働によって生産されたものであると断定したが、施行は遅々として進んでいない」

 実際、米国が新疆ウイグル自治区産の綿花を禁止しているにもかかわらず、シーインは800ドル以下の注文を個別に発送することで検査を回避している。これによって製品は、通常の通関検査を受けることなく米国市場に入り込んでいる。

 マルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ州)はワシントン・タイムズ紙に寄せた声明で、「中国企業はこの抜け穴を悪用して関税を回避し、何億という不正製品をわが国に出荷している。これは危険であり、バイデン-ハリス政権が提案した改革案はこれに対処するために何もしていない」と強調した。

 その改革案が具体的にどのようなものなのか、専門家らは疑問に思っているようだ。デミニミス免税措置も続いている。

 先月、ホワイトハウスはシーインやテムのような中国企業を取り締まる計画を発表した。バイデン政権は、米国の消費者と企業を不公正な競争から守るため、繊維製品などの主要製品をデミニミスから外す改革案を可決するよう議会に求めた。

 ホワイトハウスによれば、新たな規制は関税免除の貨物を対象とし、より厳格な安全対策を実施するものだという。

 しかし、ある上院議員補佐官は、ワシントン・タイムズの取材に対し、この免税措置に依存している企業や消費者がいかに多いかを考えれば、デミニミスをなくすことはあり得ないと述べた。さらに、シーインは不正はしていないと主張している。

 「シーインは膨大な数のロビイストを雇い、デミニミスの変更に反対する勢力を集めようとしている。一方で、これらの製品の売買を完全に停止することを望む人々もいる。しかし、仮にその意見に同調したとしても、実現する可能性は低い」

 貿易の抜け穴がシーインとテムが輸入規制を回避するのに役立っている一方で、その米国市場における優位性は、洗練されたデジタルマーケティング戦略によって促進され、特にZ世代の心を捉えている。

 米中経済安全保障調査委員会(USCC)のこの問題に関する説明によると、シーインの成功の背景には、消費者の行動を特定・予測するためのデータをうまく活用していることがある。

 シーインは、ユーザーの検索履歴やソーシャルメディアの活動を活用して、新たなファッショントレンドを競合他社よりも早く予測し、オンライン文化の急速な変化によりますます活性化する市場で際立った優位性を確立している。

 セイヤー氏は、「これらの企業は、デジタルツールを使って、誰よりも顧客を理解している。データを駆使している。個人データを収集し、パターンを分析し、人工知能(AI)を使って消費者の嗜好に合わせた商品を瞬時に提供している」と指摘する。

 確かに、シーインとテムは 「ファストファッション」の技術に精通している。彼らは「TikTok(ティックトック)」やインスタグラムのようなソーシャルメディアを使い、インフルエンサーとの提携を通じて商品を宣伝することもよくある。

 ティックトックとインスタグラムでは、インフルエンサーがシーインとテムの服を試着する「ホール」ビデオ(レビュー動画)が何百万回も再生され、巨大なトレンドを巻き起こす。これによって、安価で、短期間で製造された製品の需要がいっそう高まる。

 例えば、ティックトックのタグ「#Shein」は33億回以上再生され、シーインはソーシャルメディア全体で2億5000万人ものフォロワーを持っている。また、テムもデジタル広告に資本投下しており、2023年1月だけでメタで9000本近くの広告を出している。

 しかし、シーインのインターネットでの急成長は、深刻な懸念も引き起こしている。USCCによると、シーインは膨大な量の個人データを収集しており、ニューヨーク州の司法長官は、3900万アカウントの記録が流出した2018年のデータ流出事件後、消費者の機密情報の取り扱いを誤ったとして、シーインの親会社に190万ドルの罰金を科した。

 専門家らは、シーインのデータ収集のやり方は、単に多くの服を売るためではなく、中国政府の経済的野心と連携するための広範な戦略の一環だと主張している。

 タミー・ボールドウィン上院議員(民主党、ウィスコンシン州)も、ワシントン・タイムズへの声明で同様の懸念を表明した。

 ボールドウィン氏は電子メールで「今現在、中国企業は貿易の抜け穴を悪用して、何の監視もないまま米国に商品を輸入している。つまり、米国の製造業者を貶め、私たちのコミュニティーに麻薬を持ち込むように安価な偽造品を持ち込ませている」と述べた。

 議員や権利擁護団体は既存の法律の執行強化を求め続けているが、現実には米国の消費者、特に低所得者、中でもZ世代が代償を支払うことになる。

 そのため、規制強化に反対する意見もある。ケイトー研究所のスコット・リンシカム副所長(経済学)は、真の問題はデミニミス免税措置ではなく、米国の関税だと主張する。同氏は、シーインやテムのような企業がこの抜け穴を利用した理由として、トランプ時代の関税を指摘している。

 「デミニミスは中国だけの問題ではない。トランプ政権の関税がパンドラの箱を開け、企業はそれを回避する方法を見つけざるを得なくなった。確かに、シーインとテムはそれを悪用する方法を考え出したが、彼らだけではない。デミニミス免税措置は、かつては中国だけが使っていたが、今では他の国も利用している」

 リンシカム氏は、このような政府の干渉は、安価な輸入品に頼っている低所得の国民に不釣り合いな損害を与えると主張する。「もし、デミニミス免税措置を撤廃し、すべての輸入品に関税をかければ、事実上、貧困層に新たな逆進税を課すことになる。これらの低価格商品で、米国の消費者は毎年何十億ドルも節約している」

 リンシカム氏は、税関職員を増員したり、規制を強化したりして納税者の負担を増やすよりも、低価格の品目の関税を引き下げて、大量輸入を促進するよう提案している。

 「Tシャツを取り締まるのは資源の無駄遣いだ。レーヨンのパーティードレスではなく、合成麻薬フェンタニルのような大きな問題に集中すべきだ」

 上院議員補佐官は、これはすべて、同じ問題の一部分だと指摘した。「これは、検査を受けることなく自由に動き回れるようなものすべてに言えることだ。何事にも一定の基準というものがあるということだ」

 しかし、レバイン氏とホッグ氏も、デミニミス措置を廃止する必要はないと考えている。それは「赤ん坊と風呂の水を一緒に捨てる」ようなものだとワシントン・タイムズに語った。

 両氏は、外交政策誌ナショナル・インタレストに発表した最近の論文で、バイデン-ハリス政権はUFLPAを強化することに焦点を当てるべきだと述べている。

 「的を絞った取り締まりを強化することで、米国は合法的な貿易に影響を与えるような広範な措置に頼ることなく、強制労働で作られた製品が市場に出回るのをより効果的に阻止することができる」

 超党派の支持のもと、最低限の抜け穴を塞ぐことが求められているが、その方法については議論が続いている。ボールドウィン氏とルビオ氏は、中国からの輸入をより厳しく規制することを求めているが、政界は外交と企業という障害にぶつかっている。

 また、デミニミスは、国際貿易が米国の消費者、特に低所得層やZ世代の消費者が負担する膨れ上がったコストの一部を軽減するのに役立っており、ホッグ氏は何か対策を講じるべきだと述べた。

 「正当な理由がない限り、私たちはそのコストを消費者に転嫁したくない。だがこの場合、それが(健康被害や)強制労働が伴うものであれば、転嫁は避けることはできないと思う」

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