北極戦線―氷点下の戦い(2/2) 極寒で精鋭特殊部隊が直面した難題

暖かい機内から氷点下の気温の中へ飛び降りることは、第10特殊部隊グループの軍事フリーフォールチームにとって、独特の問題をもたらした。(ジョン・T・スワード/ワシントン・タイムズ)
By John T. Seward – The Washington Times – Thursday, March 12, 2026
【フォートグリーリー(米アラスカ州)】暖かい航空機内から氷点下の世界へ飛び出す。それは、第10特殊部隊群のフリーフォール(自由落下)部隊にかつてない難題を突きつけた。
過去の降下の試みでは、暖房の効いた機内から高度1万3000フィート(約4000メートル)の華氏マイナス35度(摂氏マイナス37.2度)を超える極寒への急激な温度変化により、パラシュートシステムや電子機器が次々と故障した。この精鋭部隊がその後1週間で得た教訓によって、酷寒でもできるはずと思われていた前提は完全に覆された。
この試みは、米軍が北方の地で直面しているさまざまな課題に対処するための取り組みの一環として実施された。海氷の融解によって新たな航路が開かれ、ロシアや中国が兵力を展開して地域支配を狙う中、北極圏はもはや「戦略的に二次的な領域」ではなくなっている。
ロシアはこの海域で数十年にわたり軍備を増強してきた。北方艦隊を近代化し、原子力砕氷船を建造。歴史上、数々の軍隊を壊滅させてきた極限環境で戦い、生活するための訓練を積んだ部隊を配備している。
一般部隊が装備の不具合に苦しんでいた一方で、「グリーンベレー」の名で知られる第10特殊部隊群のアルファ作戦分遣隊(ODA、Aチーム)は、これらの部隊を支援するため「敵地」奥深くで作戦を展開した。その経験は、米軍特殊部隊が持つ優位性を覆すものだった。
ODAはアラスカの雪を踏む数カ月前から準備を開始。合同太平洋多国籍準備訓練センター(JPMRC)での大規模部隊支援のため、敵に察知されることなく移動する。
数カ月にわたって、作戦の成功と隊員らの生き残りをかけ、戦術、技術、物理的な問題の解決へと進んでいった。
ワシントン・タイムズはグリーンベレーへの同行を許可され、地球上で最も過酷な環境での任務と、その過程で彼らが見いだした解決策を間近で目撃した。
暖かく保ち、生き延びる
第10特殊部隊群の隊長、スコット・ラッツァー少佐は明快に語る。軍でいうフリーフォールとは、通常の航空戦力が進入できない接近阻止・領域拒否(A2/AD)環境に小規模チームが潜入するための手法で、高空を飛行する航空機から飛び出した後、自由落下し任意の高度で開傘する。これが機能するためには、高高度から極限の環境の地上まで、装備が故障することなく温度変化に耐えなければならない。
チームはこの問題の解決に心血を注いできた。
「われわれのフリーフォールチームは、このために10カ月間訓練を重ねてきた。11月にはモハーベ砂漠で、スキーを装着したまま降下する訓練も行った」とラッツァー氏は言う。
特殊部隊員にとっての大きな課題は、極寒の地へ飛び込む方法だけでなく、追加装備をどう持ち運ぶかだった。当初、スキーを履いての降下は極めて危険で、失敗の可能性が高いと見なされていた。
次の課題は「熱衝撃(サーマルショック)」だ。フリーフォールでの高高度降下低高度開傘(HALO)の際、極限の寒さの中で生じる激しい温度変化による問題は、これまで解決されていなかった。過去の降下では装備に不具合が生じた。フル装備を背負う隊員にとって、それは生死を分ける。
ラッツァー氏は「彼らは新しい装備と技術を試し、実験的な降下を見事に成功させた」と述べた。
セキュリティー上の理由からフルネームを伏せているチームリーダーの「サム」は、チームがこの物理的な難題をどう解いたかを明かした。
コロラド州から来た彼らが試したのは、直感に反する手法だった。機内で体を温めるのではなく、あえて機内の温度を下げ、電熱グローブやマスクなどの個人装備だけで保温することにしたのだ。高度が上がるにつれて機体と機材は冷えていくが、こうしてあらかじめ冷やしておくことで、降下時の急激な温度変化を避け、装備の故障を防止することに成功した。
サムは「実際、それほどひどい環境ではなかった。重ね着を徹底した。空中で凍えるより快適でいたかったからね。暑すぎた隊員もいたほどだ」
ここで得られた教訓は、陸軍全体の特殊部隊で共有される予定だ。
氷のケースに閉じ込められて
地上に降り立つのは、あくまで第一歩に過ぎない。
第10特殊部隊群のフリーフォール技術は、単に演習を華やかに演出するためのものではない。その目的は、一般部隊を、普通なら行けないさらに遠方へと送り込むことにある。
第11空挺師団の作戦責任者カイル・スペード大佐は、これを「師団にとって不可欠な任務」だと表現した。敵の重要目標に対する情報収集や任務遂行に欠かせないからだ。
スペード氏は取材に対し、「理解すべきは、部隊をいかに師団作戦エリアの深部へ送り込むかだ。それには時間がかかる。そこにどれだけとどまれるのか、その場所でどれだけの期間、彼らを支援し続けられるのか、それが成功の鍵だ」と答えた。
兵士が活動し続けることは、この気温では常に困難になる。
作家で北極圏探検家のニール・シア氏は「水は最も運搬が困難な重い物の一つだ。大量に持ち運ぶことはできない。…となると、常に水を溶かすために人手を割かなければならない」と指摘する。
ODAの隊員たちは、移動を止めるたびにキャンプ用ストーブで雪や氷を溶かし、水を作り続けていた。指先やつま先を温める時間を確保するため、交代でこの作業に当たった。作業自体も困難を極める。極度の寒さで空気は乾燥し、雪はパウダースノーで固まりにくい。氷を溶かして水をつくるには長い時間がかかる。
「ここでは、戦う相手は自分たちを探し出そうとする敵だけではない。環境や天候とも戦わなければならない。戦わなければ環境に殺される」とサムは強調する。水分補給だけでなく、十分なカロリーを摂取することさえ困難になる。
「震えながら体温を保とうとするだけで、膨大なエネルギーを消費してしまう。それを補うためにより多くの栄養を摂取する必要があるが、それすら難しくなる」
通常なら身を潜めて敵を監視する部隊も、長時間じっとしていることはできない。寒さが浸透し、指先を失うリスクや低体温症の危険が高まるからだ。
ラッツァー氏は「最初は元気で意欲もあり、100%の状態なので遠くまで移動できると思うだろう。だが、日がたつにつれて、移動だけでなく睡眠不足、水分不足、食料不足によって消耗していく。パフォーマンスや認知機能は指数関数的に低下していく」と語る。
チームは毎日、北極圏や高地探検用のヒルバーグ製テントを使い、目立たないようにキャンプを設営する。1つのテントに12人が寝る。日がたつにつれ、テントは効果を失い、少し暖かい、乾燥した寝場所ではなくなっていく。兵士たちの呼気による水分が内側で凍り、外側には雪が積もって、居住空間が事実上「氷のケース」に閉じ込められた状態になるからだ。
「最初の数日はスキーで移動できた。それによって一日の終わりまで体温を自然に保つことができ、寝袋に入るまで持ちこたえられた」とサムは振り返る。
スノーモービルが支給されると、状況は一変した。より速く、より遠くまで移動できるようになったが、それは「暖かく保つこと」が日常の活動の一部ではなく、それ自体が独立した任務になったことを意味した。
サムは「これによって、この地形を長時間移動する際の移動そのものや消費カロリーの負担は確実に軽くなった。ただ、その一方で、その場にとどまらざるを得なくなることも少し増えた」と語った。
いずれの場合も、チームはすべての装備を運びながら、いつでも戦闘に応じられる態勢を維持している。食料、燃料、テント、通信機器、その他の物資を積んだ重いプラスチック製のソリを雪の上で引きずって進む。
「かなり重く頑丈なプラスチックのソリを引きずっている」とサムは言った。
過去30年間の紛争地とは異なり、ここでの活動の多くは夜間には行われない。リスクが高すぎるからだ。
■夜の危険性
米軍、特に特殊部隊は、高度な暗視装置や熱線照準器によって「夜を支配」してきた。しかし、第10特殊部隊群などの部隊は、北極圏の極限の寒さの中では、それが最も効果的な方法ではないことに気づいた。
「上空からの熱検知の脅威が、われわれの哲学を変えた」とラッツァー氏は言う。「かつては暗視装置で夜を支配していたが、今や分遣隊にとって最も危険なのは、特に夜間、上空から熱を検知されることだと気づいた」
この教訓は、ウクライナ紛争の両陣営で使われている新技術と、北極圏という厳しい環境が組み合わさって導き出されたものだ。兵士の体温であれスノーモービルのエンジンであれ、暖かいものは「かなり目立つ」とサムは言う。スノーシューやスキーの跡でさえ、サーマル映像では周囲より温かく映り、兵士の居場所まで一直線に線を引いたように見えるのだ。
「夜間の移動は…可能な限り避けたい。敵の熱検知ドローンに見つかれば、すぐさま位置を特定され、最後には仕留められてしまうからだ」
そのため、チームは日中に大規模な移動を行い、ドローンが通常のカメラで偵察している間に、視覚的なカムフラージュを活用するようになった。
これは生存率の向上にもつながった。華氏マイナス20度(摂氏マイナス28.9度)の気温は、夜にはさらに20度から30度も下がる。計画的に陣地を掘り、視覚・熱線両方のカムフラージュを施すことで、兵士たちは夜を生き延びることだけに集中できるようになった。
また、それは装備を点検する貴重な時間にもなった。
■通信の課題
北極圏の環境は、フリーフォール装備だけでなく、あらゆる機器の動作に影響を及ぼす。一度外に出れば、バッテリー、特に光学機器や暗視装置、熱検知機器、一部の通信機器に使われる小型バッテリーの信頼性は著しく低下する。
補給も、チームの位置を露呈させるリスクを伴うため、通信機器の電源確保は極めて重要だ。
「当初は、補給が通信を支えるものだと考えていたが、実際には通信が補給を支えるのだと学んだ。彼らが何を必要としているかを把握し、2、3、4日先を読んでバッテリーなどの必需品を届ける必要がある」とラッツァー氏は語る。
通信はすべて秘密裏に行われ、離れた場所からの信号を敵に察知される可能性を最小限に抑えている。
ラッツァー氏はワシントン・タイムズに「基本的に、ツイートのような160文字のメッセージで通信している。情報の質と量を上げると、探知されるリスクが高まる」と語った。短い通信を繰り返すことで、部隊が発見されないようにしているのだ。
技術的な課題は最新のシステムに限った話ではない。サムによれば、チームが使用している標準的なライフルでさえ、潤滑油を一切使わない状態で維持されている。凍ってベタつき、詰まりの原因になるからだ。
シア氏は「誰もが新しい技術を使いたがるが、新技術は極端な温度で故障しやすい」と指摘。北極圏以北で、存在感を示すことで抑止力とするプレゼンスパトロールを行うカナダ北部の先住民部隊「カナダ・レンジャー」と過ごした経験を語った。
「先住民イヌイットはボルトアクション式の銃を好んだ。凍りつかないからだ。ボルトアクションなら、テントの外に置いてシートをかけて一晩放置しても、朝取り出せばそのまま使える」
シア氏によると、この部隊は最近まで、第2次世界大戦時代の「リー・エンフィールド」というボルトアクションライフルを使っていた。近代的なボルトアクションに最近、更新したばかりだという。
極寒の環境の中で長く生活してきた人々は、それだけ適応能力も高い。ノルウェー軍の部隊も一般部隊のために深部偵察を行っていたが、10日間も自力で活動を続けた。
スペード氏は「すべての物資を自分たちで運び、自力で活動し続けた。彼らからは素晴らしい報告が届いている。それを可能にする野外技術と専門技術を持っている」と言う。
第11空挺師団が北方の地でのドローン能力開発に資源を投入する中、スペード氏は、人間のチームがもたらす情報の価値は計り知れないと考えていると強調した。
同氏はノルウェーの部隊とグリーンベレーについて、「現地の人間が作戦に関してリアルタイムで集める情報に勝るものはない。将来的には小型ドローンなどのプラットフォームを活用していくが、雪の上を移動できる人間が地上にいることは、今後も不可欠だ」と語った。
ラッツァー氏は、米軍の精鋭チームはいかなる困難な環境であっても進入し、任務を完遂できると断言する。
「戦略的偵察はわれわれの専門分野だ。進入が困難な場所、拒絶された場所、深部、政治的に敏感な場所、あるいは戦略的に重要な場所で行われる偵察。それこそが、グリーンベレーの真骨頂だ」
