ロシアのウクライナ侵攻 6カ月間の戦争から得られた6つの教訓

(2022年8月26日)

2022年8月23日(火)、ウクライナのキエフで行われた国旗の日の祝典に到着し、並んだ兵士の前に立つウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(Ukraine Presidential Press Office提供)の写真。(ウクライナ大統領報道官事務所 via AP)

By Ben Wolfgang – The Washington Times – Tuesday, August 23, 2022

 ウクライナを侵略するという、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の重大決定は、その紛争初期にモスクワが見せた途方もない軍事的失敗や、NATOの急速な拡大、世界的な食料・燃料供給の混乱など、ほとんど予測できなかった流れで進んできた。

 この水曜日は数万人の生命を奪ったおぞましい紛争が6ヶ月を迎える。戦いはまだまだ終わっておらず、まったく新たな段階に入ろうとしているのかもしれない。外交政策の論者や軍事アナリストは、事前の様々な予想を裏切りながら、21世紀の地上戦がどうなるかの見本を提供してきた戦争から重要なポイントを指摘している。

 2月24日のロシアによる近隣国ウクライナへの侵攻から6ヶ月、この間に得られた6つの教訓を示したい。

1.NATOはプーチンの予想より結束し迅速に動いた

 プーチン大統領とロシアの軍事指導者は、ウクライナでの戦闘作戦のいくつかの点で、一か八かの賭けをしたようだ。おそらく最も決定的だったのは、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国が腰砕けになり、対ロシア制裁やウクライナ支援策で一致できないことに賭けたことだ。欧州諸国がロシアからのエネルギー供給に依存していることと、世界的な核戦争への西側諸国の恐怖感を組み合わせ、NATOは行動不能に陥る、と読んだようだ。

 ところが実際、米国とその同盟諸国は対戦車兵器を継続的に運び入れるなど、ウクライナへの軍事援助を着実に強化してきた。AP通信は火曜日、バイデン政権がウクライナ軍の長期訓練のため、さらに30億ドルの支援を発表する、と報じた。こうした動きは、ウクライナのドンバス地方で戦いが際限なく続いたとしても、ワシントンはウクライナを飽くまで支援する態勢があることを示唆している。ドイツは防衛支出の大規模な増額を発表し、モスクワと比較的関係が強いEU諸国でさえも西側連帯を弱めることはしていない。

 過去6ヶ月間、米国と欧州は総じて、前例のない対ロシア経済制裁の隊列を崩していない。欧州はまた、ロシアからの石油・ガス依存を終わらせる大胆な計画を展開してきた。

 おそらくプーチン大統領が最も驚いたのは、NATOが腰砕けするどころか、スウェーデンとフィンランドという長年の非同盟国を迎えいれて、NATO同盟とロシアの境界線を2倍にしたことだ。

 時間が経つにつれ、西側の結束がウクライナの対ロシア交渉の際、ウクライナ側に有利に働くだろうと専門家は言う。

 「ウクライナ軍はますます能力向上しており、対ロシア経済制裁の影響は強まり、NATOやその他の国々によるウクライナ支持は著しく安定している。こうした諸要因のおかげで、冬が来る前にウクライナが受諾できる形で戦争を終わらせられる土台ができるかもしれない」、元海軍情報将校で、現在はシラキュース大学のマクスウェル市民権公共問題大学院の教授をしているロバート・B・ミュレット副司令官(退役)は指摘している。

2.過大評価されていたロシア軍、だが最後の勝者は未定だ

 侵略が始まってからクレムリンは自ら保有する世界で最も機能的な戦争マシーンのひとつが、ウクライナ軍を簡単に粉砕できると確信していたはずだ。だが期待は外れた。ロシア側の兵站上の数多くの誤りと、戦場での読みの悪さが続いて、ウクライナの首都キエフや主要都市への急襲作戦は不発に終わり、ロシアの司令官たちは撤退し、代わりに東ドンバス地方で極めて限定的な占領目標を追求せざるを得なくなった。比較的に些細な領土確保のために、ロシア軍は過去6ヶ月間で驚くべき損失を被り、ロシア側の死傷者数は8万人以上と推定される。

 専門家によると、今回の戦争の最も長期的な教訓のひとつとして、ロシアの軍事力と軍隊が、米国や中国と同一視されるに値する真のパワープレーヤーなのか否か、世界的な再評価が必要だ。

 「我々はロシア人を過大評価し、ウクライナ人を過小評価していた」、オバマ政権時代の欧州・NATO政策担当の国防次官補だったジム・タウンゼント氏はワシントン・タイムズ紙に語った。

 「我々は…彼ら(ロシア側)がキエフに突撃すると見ていた。」「そして、彼らもそう信じていた。しかし彼らはいくつかの大きな見誤りをしてしまった。」

 それでもロシアはマウリポリなど主要都市を占領し、ドンバス地方で着実に戦果を挙げている。その一方、首都キエフの政府を倒す、というプーチン大統領の野望は保持され、ウクライナの大半をロシア支配下に置く意図は消えておらず、その見込みがあるようでもある。

3.ドローンとその迎撃は、今世紀の戦争の中心だ

 ロシアによるキエフ攻撃の見通しを暗くしている最大要因のひとつは、ウクライナ側が小型武装ドローンを効果的に使用したことだ。この無人機は、ロシア側の装甲車列が新型の脅威に対処できない段階で、大混乱をもたらした。

 ウクライナのドローン群の生々しい戦果は、小型で安価で操作しやすい航空機が21世紀の戦場を一変させる要素だ、という多くの証拠を提供した。そして小規模の防御側が、より大規模で重武装の敵の攻撃を撃退する勝算を引き上げた。

 それでも当初の打撃から立ち直り、ロシア軍は直ちに調整を図った。軍事専門家によるとロシア軍は現在、初期のドローン優位を打ち消すような電子戦(EW)システムを含む、複雑な対ドローン・プログラムを採用している。EWシステムの成功は、ドローンが今後数年間、重要な戦争手段になると同様に、それに対抗できる能力も開発されていくことを示している。

 従って今後のウクライナ側の成否は、武装ドローンと偵察ドローンの両方を無効化できるロシア側のEWシステムを無能化する手段の開発にかかっている。

 「ロシアがEWシステムを採用したことで、…ウクライナ側の敵位置確認能力を制限し、攻撃連鎖機能を減速させ、ウクライナの偵察能力に重大な制約を課している。長距離からの攻撃は数に制限がある高精度システムに依存しており、ウクライナ軍は銃撃戦に勝ってロシアの優位性を損なわせる西側の高度システムを効率的に採用しているので、ロシアのEWシステムはウクライナ側に決定的な障碍となる」、ロンドンのロイヤル・ユナイテッド・サービス研究所のアナリストであるジャック・ワトリング氏とニック・レイノルズ氏は最近の分析レポートに書いている。

4.クレムリンが誇る偽情報能力はウクライナで失敗し、他の地域では成功した

 政治的目的のために偽情報とソーシャルメディアを通じたプロパガンダを駆使するモスクワの能力は、2016年米国大統領選挙と西欧諸国での選挙活動を通じて知られるようになった。それ以降もバルト海周辺国や他の地域の国内政治を混乱させようとして、クレムリンがそうした手法を駆使したことが広く知られるようになった。

 プーチン大統領は偽情報マシンがウクライナ国内、特にドンバス地方での親ロシア感情を掻き立てるのに役立ち、ウクライナのヴォロディーミル・ゼレンスキー大統領の政府を弱体化させられると踏んでいたようだ。そしてロシアの大統領は、キエフ政府・軍隊を牛耳ている「ナチス」勢力根絶を狙いにした攻撃だという、ロシアの超右翼民族派の間で人気のある筋書きを拡散した。

 ロシアは国内での戦時報道を思うままにコントロールしたが、世界を舞台にした世論形成の戦いでは決定的に負けたようだ。例えばロシアのメッセージ発信によってウクライナ軍の士気を低下させようとした作戦の効果は限定的だった。

 専門家によると、ロシアの親ロシア・反ウクライナのメッセージはアフリカで特に効果的だったという。とりわけロシアのソーシャルメディア・キャンペーンは、過去6ヶ月間の世界的な経済混乱について、ロシアに対する西側の制裁を非難してきた。

 「こうしたキャンペーンの直接的影響を確認するのは難しいが、アフリカ諸国のほぼ半数がロシア非難の国連決議を棄権した理由を説明する材料として注目される」、ロンドンのシンクタンク・チャタムハウスの最近の分析レポートは、国連での採決の際にアフリカの17か国がロシアの侵略を非難せず、棄権した事実を引き合いにしている。

5.クレムリンと世界が甚だしく過小評価していたヴォロディーミル・ゼレンスキー

 専門家によると、ウクライナにおけるロシアの偽情報キャンペーン失敗の最大の要因は、ウクライナの指導者ゼレンスキー大統領だ。この喜劇役者から政治家になった人物についてワシントンで最もよく知られているのは、トランプ大統領の弾劾を引き起こすことになる国際電話の話し相手だったことだ。ゼレンスキー大統領は、陰険かつ無慈悲なプーチン氏と互角に、戦時下の指導者としてわたりあえるのか、厳しい吟味に曝されてきた。

 多くの人はウクライナの国家機能が弱く、軍事的にも標準以下であり、ロシア語を話す少なからざる少数派の人々の国家への忠誠心を疑わしく思っていた。政府と経済を牛耳っていた強力な寡頭政治指導者や各派閥から、ゼレンスキー大統領が政府の支配権を取り上げているのかも不明だった。

 しかし同大統領はそうした懐疑論者が間違いであることを早い段階で証明した。ロシア軍がキエフに向けて進軍した時も、ゼレンスキー大統領は首都から逃げることを拒否した。高いメディア能力を駆使して、ウクライナ国民には毎日ビデオメッセージを提供し、西側諸国には言葉を弄して多くの兵器と財政援助を送ってくれるよう公然と訴え、米国議会には劇的なスピーチを行うことで、ウクライナの戦いを象徴して世界に向ける顔になった。

 彼がカメラの前に常に現れてソーシャルメディア上で存在感を強めたおかげで、ロシアがヨーロッパ全域に流そうとした、同大統領は腐敗しており弱腰で能力のないリーダーだ、という偽情報を抑制できたのだ。

 「戦争が始まって3週間後、彼はウィンストン・チャーチル(元英国首相)に対比されるようになった」と前述のタウンゼント氏は指摘した。「ゼレンスキー大統領を通じて、適切なタイミングで然るべきことを語れる人物はソーシャルメディアで勝ち、それを牛耳れるという典型を見ているようだ。」

6.世界経済や燃料・食料の供給は、戦時下の混乱で非常に脆弱になる

 この戦争のとばっちりはウクライナに留まらない。米国から欧州まで燃料コストを直ちに増大させ、インフレを記録的なレベルに押し上げた。ロシアとウクライナは世界最大の農業輸出の2か国であり、モスクワが設定した黒海の海上封鎖は、小麦や穀物など重要商品の輸出をストップさせ、世界のほぼすべての地域で食料コストを上昇させた。

 戦争の経済コストは今後数年間にわたって計量されるだろう。経済協力開発機構の最近の推定によると2022年の世界の経済成長率は、この戦争前の予測4.5%から3%に減少するという。また2023年の世界の経済成長率はさらに低くなり、約2.8%になると同機構は予想している。

 一方で人道団体は、この戦争が南米とアフリカで急激な食糧不安を高めたと報告している。国連世界食糧計画の最近の数字によると、世界中で4,700万人以上がウクライナ戦争の直接的な波及効果で新たな食糧不安に直面している。繰り返すが、これら4,700万人はこの戦争前に食糧不安に直面していた数億人に付け加えられたものだ。

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