中国の挑戦で、日本に託される新たな役割

(2023年1月14日)

東京の首相官邸で記者会見に臨む岸田文雄首相(2022年12月16日、金曜日)。戦後、自衛のみに徹してきた原則から大きく脱却し、日本は金曜日に国家安全保障戦略を採択した。近隣の中国や北朝鮮からの脅威に対してより攻撃的な足場を築くため、数年以内に先制攻撃能力と巡航ミサイルを保有する計画を宣言している。(David Mareuil/Pool Photo via AP)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Tuesday, January 10, 2023

 ソウル発-日本は今年、重要な外交上の責任を負いそうだ。岸田文雄首相は金曜日、ホワイトハウスでバイデン大統領と会見するが、その議題は盛りだくさんだ。焦点となるのは、日本が最近発表した軍事力と安全保障政策の見直しについてだろう。

 米政府が対中政策での提携を模索していることに日本は積極的に応じており、国防総省の高官の間で存在感が大きくなっている。

 岸田首相が先月取りまとめた軍備増強計画は、戦後に見たことのないペースで加速されてきた。経済力で世界第三位の日本は、2028年までに防衛支出を倍増し、北大西洋条約機構の指標である国内総生産の2%まで増やすと発表した。

 さらに巡航ミサイル・トマホークを軸にした「反撃」能力を米国から購入することも発表した。これまでの日本国憲法の解釈では、軍事力は「自衛」目的に限定されていた。

 この巡航ミサイル購入が、米国の軍事理論や、当該地域での諜報・監視・偵察システムと整合性があるのか否か、未だ不明だ。しかし対中関係で日本が重要な軍事主体に浮上するにつれ、ワシントンと東京が緊密に協議を進めているのは明らかだ。

 「米国が然るべきアイデアを有していない限り、トマホーク・ミサイルのようなものを日本が購入するはずはない」、米軍で作戦計画を担当し、現在は日本に拠点を置くアキシャル・リサーチ社の社長・ランス・ガトリング氏は断言した。

 先週、日米双方の通産大臣がワシントンで、戦略的な技術協力について協議した。日本の林芳正外相と浜田靖一防衛大臣は水曜日、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官と会談する。そして金曜日に、バイデン大統領と岸田首相がホワイトハウスで会談をする。

 日本が国連安全保障理事会の非常任理事国として2年間の任期を開始し、5月には広島で米国その他の先進主要民主主義国によるG7サミットを主催する。それに先立ち岸田首相は7日間の予定で、フランス、イタリア、英国、カナダを訪れた。

 これまでも日本は、各地域・世界の安全保障をめぐる係争で重きをなしたが、ワシントンと北京の両方にとり、突然、注目の的になってきた。

 岸田首相はロシアのウクライナ侵攻に強く反対してきた。その政策が成果を収めれば、中国による台湾侵攻に対する政策の見本になるかもしれない。日本と台湾は、戦略的にも技術的にも、また感情的にも近い関係にあり、それが中国にとって不愉快な存在なのだ。

 日本は5万人規模の米軍を擁しており、最南端の島々は台湾に隣接している。この二つの要素から、民主国・台湾に中国が攻撃を起こした場合、日本を巻き込む恐れがある。

 日本はハイエンドの半導体供給を、台湾に大きく依存している。台湾は日本がかつて植民地支配した国・地域の中で、友好的な感情を持つ数少ない国の一つだ。

 当然ながら、岸田首相の西側諸国訪問および、米国との安保体制の強化は、いずれも中国から鋭く批判されている。中国国営の環球時報は今週の社説で、日本が「なるべく早く戦略的な冷静さを取り戻すべきだ」、と警告した。

 同紙の社説はさらに、「日本とG7メンバー国との二国間会談で、中国に強硬な態度で『域内脅威論』を宣伝し、『反中国連携』まで持ち出している。それらは不必要かつ危険なものだ。これが2023年の日本外交の主軸になれば、手ひどい過ちをもたらす」と警告した。

 さらに日本は、中国とロシアの両方と領土紛争を抱えている。また核保有の北朝鮮を警戒している。2022年にも北朝鮮は、かつてない数のミサイル実験を実施し、その大半が北朝鮮の東海岸から発射され、一部は日本領土の上空を飛来していった。

もう制約されない

 日本は数十年間、平和憲法に制約されてきた。しかし近年、自衛隊はじわりじわり体力をつけてきた。2011年に自衛隊は、北アフリカのジブチに海外の軍事拠点を取得した。2014年には平和主義の憲法を「再解釈」し、攻撃を受けた同盟国(=米国)を支援可能にした。

 さらに2018年、日本は戦後初めて海洋旅団を創設・運用し、2隻の船を軽空母に改造した。このクラスの軍用艦は戦後初めてで、F-35B戦闘機まで搭載した。日本はすでに、英・仏両海軍を合計したよりも多数の駆逐艦を配備している。

 こうした動きは与党・自由民主党が主導したが、あまり実質的な反発に直面しなかった。2021年10月に就任した岸田首相(65歳)は、個人的な支持率こそ低いが、自民党を軸にした与党連合は国会で両院を抑え、防衛に関する強固な姿勢は、右派少数派の二政党からも支持を得ている。

 「日本では野党の立場が弱く、彼らの声や見解を意思決定プロセスに反映させるのは難しい」、韓国の公州大学校の日本ウォッチャーで国際関係の専門家イム・ウンジョン氏は語っている。「野党は『平和憲法』を守ろうと躍起になっているが、彼らの主張は一般国民には理念的で抽象的すぎるようだ。」

 今回発表された新規の軍備増強は米軍当局者に歓迎された。中国と北朝鮮からの挑戦に直面する米国としては、同盟国が負担を負ってくれれば有難い。また2020年に日本が、イージス・アショア(陸上配備型)ミサイル防衛システムを配備する、との決定を突然覆したため、大型契約を失った米国の防衛関連の業者を喜ばせたことは間違いない。

 当時、日本政府は、イージスブースターの一部が日本の居住地に落下する危険性を理由に挙げた。しかし前述のガトリング氏によると、本当の理由は、北朝鮮の大気圏内での弾道ミサイルの能力が向上したため、ミサイルクラスのイージス・システムでは対応できないからだという。

 防衛アナリストによると、トマホークは北朝鮮の現有ミサイルに対しては有効だという。それらは発射場に立てられ、燃料が供給されるが、このプロセスのために、ミサイルとその司令センターが攻撃に脆くなるのだという。

 多くの人が、日本は長年の専守防衛ドクトリンをひっくり返した、と思い込んでいるが、ガトリング氏によれば自衛隊が防御だけの殻から進化することは避けられなかったという。

 「1950年代に自衛隊の事務方幹部は、『自衛とは、座して攻撃を待つことではない』と主張したものだ」とガトリング氏は語る。「だが当時の彼らには十分な能力がなかった。」

 だが今、日本はそれを手掛けている。日本が誘導爆弾装置を装備したF-15戦闘機は、空中給油能力のおかげで飛行距離が伸び、事実上の反撃能力になった、とガトリング氏は指摘した。しかも無人トマホークは、パイロットの生命を危険にさらすこともなく展開できる。

 東アジアで急速に変化している安全保障環境だが、米国の同盟国にとって変わらない要素もあり、その最大のものは、米国の核の傘が依然本質的なものだという点だ。

 第一に、中国西域の深奥部に配備された戦略ミサイルを攻撃できる地点に、日本がトマホークを配備できる見込みは薄い。第二に、高度の爆発物を装備したトマホークだが、中国、北朝鮮、ロシアなど長期に核武装してきた勢力を抑止できるものではない。

 米国の核抑止力と引き換えに、日本は自らを西太平洋での「不沈空母」として提供している。つまり日本は米軍基地を保護する「盾」を提供し、米軍は攻撃用の「槍」を供与しているわけだ。

 バイデン大統領も岸田首相も、今のところ軍事より厳しい、中国との経済競争の問題ににも触れるだろう。

 先週すでに、西村康稔・経済産業大臣とジナ・ライモンド商務長官は、人工知能とバイオテクノロジーでの戦略的技術協力を拡大することで合意した。

 これはバイデン大統領が承認した、中国に対する先端半導体輸出に関する新規禁輸措置に加えて、それらを製造するのに必須の機械設備も禁輸に含まれた。半導体はデジタル経済の中心で、それは痛みを伴うが戦略的圧力の標的なのだ。

 米国も同じだが、日本は地域の緊張が高まるにもかかわらず、中国との主な貿易関係を維持している。実際、中国は日本の輸出の最大の単一市場だ。しかし東京に拠点を置くライトストリーム・リサーチ社の技術アナリスト、スコット・フォスター氏によれば、日本は米国の対中圧力に同調する可能性が高い、と述べた。

 「最先端技術を中国の手が届くところに置く日本企業はないだろう」、フォスター氏は過去の中国による幅広い知的財産窃盗によって可能になった技術分野、なかでも中国の超高速鉄道網に触れた。

 従って一部の日本企業が対中投資を続けていても、「最高レベルの技術開発をする母体の工場は中国に置いていない。それらは皆、日本に置かれている」、フォスター氏は断言した。

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