北朝鮮の兵器開発 暗号通貨盗み資金調達

(2023年2月17日)

2023年2月8日(水)、北朝鮮・平壌の金日成広場で行われた朝鮮人民軍創設75周年記念の軍事パレードで、北朝鮮政府が提供した写真に、大陸間弾道ミサイルとされるものが写ってる。北朝鮮政府が配布したこの画像に描かれているイベントを取材するための独立したジャーナリストのアクセスは許可されていない。この画像の内容は提供されたものであり、独自に検証することはできない。提供された画像の韓国語の透かしには、次のような記載がある。朝鮮中央通信の略称「KCNA」。(朝鮮中央通信/APによる韓国通信社)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Friday, February 10, 2023

 北朝鮮は8日、平壌で軍事パレードを実施、大陸間弾道ミサイル(ICBM)11基を披露した。米軍が国土防衛のために設置している迎撃システムを圧倒することができるほどの戦力と分析されている。

 しかし、北朝鮮の兵器開発の進歩は、戦略的な疑問に加えて、資金面での疑問をも提起している。孤立した後進国で、経済規模が世界135位の貧困国家が、世界で最も豊かな国を圧倒するというのはどういうことなのか。

 政治的な意思が一つの答えであることは明らかだ。金正恩総書記は、兵器開発を経済的な優先事項として位置づけている。国営メディアの報道によれば、金正恩氏は今週の宴席で「われわれの軍隊の強化と発展のために、われわれ全員が努力を倍加し、社会主義祖国の繁栄と発展のためにもっと努力しよう」と述べたという。

 しかし、新型コロナウイルスの拡大以来、国境を閉ざし、経済的にさらに孤立した北朝鮮が、その巨大な核兵器の研究、製造、配備を可能にする外貨をどのように稼いでいるのかという疑問がまだ残っている。

 韓国政府関係者やアナリストによれば、その答えの一つは、昨年、北朝鮮の軍産複合体のために17億ドルから20億ドルを密かに調達したハッカー集団だ。

 韓国外務省北朝鮮核政策課のチャイ・キュンフン課長は、「北朝鮮にはIT労働者を派遣しているさまざまな部署があり、これらの組織の多くは、大量破壊兵器の調達に関する国連制裁の対象になっている」と指摘した。

 チャイ氏は、9日にソウルで開かれたサイバースペースでの国家の脅威に関する主要会議で、「われわれが発見したのは、これらのIT労働者が核ミサイル開発のための資金提供、材料や部品の調達に不可欠な役割を果たしているということだ」と述べた。

 専門家によれば、この資金調達を阻止するための国際的な共同作業は、軌道に乗り始めたばかりだという。

金正恩氏の高価な兵器庫

 2021年1月に開催された北朝鮮の第8回党大会で金正恩氏は、野心的な兵器の希望リストを発表し、外部のアナリストらを驚かせた。

 「超大型」水爆、戦術核、中・長距離巡航ミサイル、対空ミサイル、重戦車、多弾頭ミサイル、「極超音速滑空弾頭」、長距離ドローン、偵察衛星、同国初の原子力潜水艦などが主要項目として挙げられていた。

 2017年以降、北朝鮮は核実験を実施していないが、昨年、突然、兵器開発のペースを上げ、1年間に複数の種類のミサイルとドローンの実験をかつてない頻度で行った。実験には、ICBM、飛行経路を変えられる弾道ミサイル、長距離巡航ミサイル、長距離多連装ロケットシステム(MLRS)を含むさまざまな戦術兵器が含まれていた。

 北朝鮮は、バイデン政権による直接会談の申し出を拒否する一方で、2023年に入ってからはミサイル実験を1回しか行っていない。しかし、8日の真夜中のパレードは、金氏が兵器獲得への野心を依然として持っていることを示した。

 韓国メディアに掲載されたパレードの写真を分析したところ、11基のICBMに加え、開発中の初の固体燃料ICBMの実物大模型も展示されていたことが分かった。また、特殊車両には、240ミリMLRS、戦術誘導ミサイル、新型巡航ミサイルとみられるもの、そして新型戦車も搭載されていた。

 これらの兵器がパレードに登場したことを受けて、金王朝がどこからその資金を調達しているのかという疑問が再び沸き起こった。

 米財務省の「2021年軍事費と武器移転」報告書によれば、北朝鮮は年間約40億ドルを軍事費に費やしており、これは国内総生産(GDP)の約26%にあたる。

 他のどの国もこれに及ばない。世界銀行の最新の数字では、中国はGDPの1.7%、韓国は2.8%、米国は3.5%、ロシアは4.1%、イスラエルは5.2%を軍事費に充てている。

 武器開発が国民経済に与える負担を軽減するために、北朝鮮は国外で資金を調達している。そのために多用されている方法の一つが、サイバー工作員による窃取だ。

見えにくいが、見返りは大きい

 北朝鮮のサイバー犯罪は目新しいものではない。2016年、北朝鮮のハッカーはバングラデシュ銀行から8100万ドルを盗み出した。2017年には、悪名高いマルウエア(悪意あるソフト)「ワナクライ」攻撃により、150カ国のコンピューターが身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」に感染した。

 しかし、最近は特に、目立たず、巨額の資金を入手できる活動を行っている。その代表的なターゲットが、まだ不透明で規制の緩い暗号通貨だ。

 米司法省は2021年の北朝鮮人プログラマー3人の起訴状で「北朝鮮の工作員は、銃ではなくキーボードを使い、現金袋ではなく暗号通貨のデジタル財布を盗んでおり、世界有数の銀行強盗だ」と非難した。

 チャイ氏はソウルの会議で、この工作員らは二つの方法で活動していると説明した。

 一つは暗号通貨の窃取で、チャイ氏は昨年、平壌が17億ドルを獲得したとみている。もう一つは、グローバルなIT企業への労働者の派遣で、アプリや暗号通貨関連製品を作ることで「数億ドル」の外貨を稼いでいる。

 インターネットはボーダーレスだが、工作員は必要なスキル、ネットワークアクセス、外貨を獲得するために海外に展開する。彼らは、中国、カンボジア、中国、マレーシア、タイ、ベトナムといった国々で活動している。

 脱北者で韓国国会議員のテ・ヨンホ氏は今月初め、外国人記者団に対し、北朝鮮のIT人材は4年間の専門教育を受けた後、海外に渡り、身分を隠して仕事に就いていると語った。

 「ゲームやプログラムを開発する場合、国境や垣根はない。そのため、IT人材の身元を確認することは非常に難しい」

 テ氏によると、彼らは採用されると、ソフトウエアを購入し、ネットワーク侵入のテクニックを磨き、インド、日本、韓国、米国などの企業で密かに働いているという。

 また、ハッキングやサイバー窃取を直接行うために、東南アジアに独自の会社を設立する工作員もいる。

反撃

 北の資金源を断つための反撃が遅まきながら始まっている。

 韓国と米国は昨年、北の資金源に対処するために、法執行機関、情報機関、防衛、金融の専門家を集めた合同ワーキンググループを設置した。チャイ氏は、このグループが「具体的な行動のリスト」を作成したと語ったが、詳細は明らかにしていない。

 また、英国の国内情報機関MI5と韓国のサイバー当局の協力も続いており、昨年は韓国の国家情報院が、北大西洋条約機構(NATO)のサイバー防衛協力センター(CCDCOE)の活動に参加した。

 欧米のパートナーは高度な技術やスキルをもたらす一方で、韓国はこれまでの苦い経験から学んだ教訓を共有することができる。

 ソウル国家安全保障戦略研究所のサイバーセキュリティー専門家、オ・イルソク氏は、「私たちは北から何度も攻撃を受け、教訓や情報を獲得しており、これらを共有することができる。北朝鮮の技術や攻撃の特徴を示すことができる」と述べている。

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