台湾、自衛への備え不十分 米が中国と直接衝突か

(2023年4月7日)

2022年8月5日(金)、中国南東部の福建省屏山にある、中国本土で最も台湾島に近い68海里の景勝地から見た、台湾海峡を進む船たち。(AP Photo/Ng Han Guan)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Tuesday, April 4, 2023

 【ソウル】台湾を守る米国の使命は、孤独なものになりつつある。

 西側諸国の強力な軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)が台湾防衛に参加することはなく、台湾軍は戦力不足で、有事に米軍と行動した経験もあまりない。

 2月の中国のスパイ気球騒動に続き、6日に予定されている台湾の蔡英文総統とケビン・マッカーシー下院議長の会談で、中国政府はさらに反発を強めそうだ。米中関係が着実に悪化する中、新たな課題が生じている。米中両国と複雑な、時には矛盾した関係を持つ国々が存在するこの地域で、台湾をめぐる戦争が勃発した場合、どの国が戦い、どの国が静観するのかという問題だ。

 中国と台湾の間の海峡は、何十年もの間、共産主義と民主主義の間の断層として緊張が絶えない。その海峡をはさんで、新たな課題が注目を浴びている。

 政治的には、2013年に中国で習近平氏が、2016年には台湾で蔡英文氏が政権を握ったことで、中国は、自国領とみなす台湾を取り戻すために軍事的、政治的圧力を強化、両政府間の緊張は一層高まった。

 経済的には、半導体が米国の対中技術戦争での重要な武器として浮上している。バイデン米政権が中国の顧客へのハイエンド・コンピューター・チップの供給停止に取り組む一方で、台湾には世界有数の半導体工場がある。

 また、地政学的には、ロシアがウクライナ侵攻の目的を達成すれば、中国がそれに追随して台湾に侵攻し、ロシアの侵攻初期の失敗から教訓を学ぶのではないかという懸念が生じている。

 バイデン大統領は、「米国は台湾のために戦う」と繰り返し主張した。その姿勢は前任者とは明らかに異なる。1979年の台湾関係法に盛り込まれた「戦略的曖昧さ」というアプローチを否定するような姿勢をバイデン氏が取るのは、ウクライナ侵攻に先立ち、米国が直接、軍事的役割を果たすことを否定したことが、ロシアのプーチン大統領に侵攻を促すことになったという認識が根底にあるのではないかという見方もある。

 台湾に対する中国の軍事行動がどれほど差し迫ったものであるかについては、意見が分かれるところだ。

 グローバル台湾研究所のエグゼクティブ・ディレクター、ラッセル・シャオ氏は、「2025年とか2027年とかという話もあるが、差し迫っているかどうかは政治的、軍事的な変数次第であり、中国がそこにいるとは思えない」と述べた。

 米国の国防当局者がこぞって警告を鳴らす一方で、慎重なマーク・ミリー統合参謀本部議長は先月、「発言そのものが情勢を過熱させかねない」と苦言を呈した。

 ミリー氏と米軍のブレーンにとって、考慮しなければならない重要な変数の一つは、どの国が台湾防衛を支援することができ、支援するかということだ。NATOのような地域的な民主主義国の連合はなく、NATO自体も最前線での役割を担っていない。中国は東アジアの各国に経済的影響力を持ち、外交関係を築いている。

 また、台湾の民主主義体制、はるかに大きく、はるかに強力な軍を持つ相手に対して、自国の防衛のために戦う手段や意志を持っているかどうかという問題もある。

NATOは後方支援

 NATOは近年、東西の連携を進めており、英仏独がインド太平洋戦略を発表し、部隊をこの地域に送っている。

 英政府は、米国、オーストラリアと原子力潜水艦の長期契約を締結したほか、新型空母クイーン・エリザベスをアジア地域に派遣し、訓練や演習を行う予定だ。また、アジアに領土を持つフランスは、最近、原子力攻撃型潜水艦エメロードを西太平洋に派遣した。

 欧州列強や欧州連合(EU)も、この地域での外交での存在感を強めている。

 その背景について防衛産業筋は、「議員団が島を訪れることが多くなっている。海峡問題は1979年以来、異例ずくめだったが、今や各国は現状を変えれば自国の利益を損なうと認識している」と指摘した。

 つまり、応援はするということだ。

 シャオ氏は「外交面でも経済面でも、中国を抑止するためのツールを開発することは不可欠であり、中国に侵略を考え直させるためのバランスを取ることができるだろう」と述べた。

 しかし、武力衝突となれば、「NATOとEUは、せいぜい後方支援にとどまるだろう」と述べた。そうなると、NATO軍が大西洋での米国の役割を引き継ぐことになり、米軍は東方での戦闘に集中することができるようになる。

台湾は戦えるのか

 中国は6日の蔡氏とマッカーシー氏の会談に強く反対しているが、国防筋は、会談は「台湾が、自国の安全保障の国際化に成功している」ことを示していると指摘、「第2の課題は、対応できる能力を身に着けることだ」と述べた。

 しかし、台湾の戦闘の手段や意思には疑問が残る。シャオ氏は、「台湾の防衛組織内には長年にわたる意見の相違がある」ことを認めた。

 欧米の防衛産業アナリストは、ここ数カ月の中国からの威圧的な発言や攻撃的な軍事演習を考えると、台湾が武装に消極的であることは驚きだとしている。リンカーン・ネットワークの上級研究員で、最近台湾を訪れたジェフ・ケイン氏は、「米国が台湾にもっと良い武器を買うように圧力をかけていることに懸念と不快感を抱いている。台湾は軍拡競争の火種になることを心配している」と述べた。

 情報筋によると、そのような恐れからか、台湾のF16戦闘機は、米国が今年、新たな兵器支援計画を発表するまで、搭載可能な空対空ミサイルは1機当たりわずか2発だった。

 国防総省では、台湾は中国から見て、攻撃すると痛い目にあう「トゲのあるヤマアラシ」になる必要があるという考え方がある。それは、台湾の前方防衛が圧倒されることを事実上容認していることになる。そのため、航空・海上の上陸地点が主要な戦場になり、その数は限られる。

 情報筋によると、海峡を越える攻撃が実行可能なのは、気象上の理由から、1年間で4カ月ほどしかないが、(台湾は)海でも空でも戦いに負けるだろうと指摘、「陸上では、中国船を15マイル(24キロ)先から攻撃できるという利点があるものの、内陸の深くまで防衛する必要がある」と述べた。

 そのために適切な武器が必要となる。

 ケイン氏は、「現在保有している兵器は適切ではないとの指摘がある」と、現在の艦艇、航空機、戦車よりも小型で軽量な兵器が必要との見方を示した上で、「殺傷能力が高く、使い方を覚えやすいジャベリン(ミサイル)や、武装したドローンが必要だ」と述べた。

 台湾の戦いへの意思については、昨年12月に徴兵期間を4カ月から1年に延長したが、部隊を増やし、局所的な情報を充実させるという重要な点ではまだ不足している。ウクライナ侵攻の初期には、対戦車兵器で武装し、精密誘導弾の支援を受けた兵士らが重要な役割を果たし、キーウや他の主要都市を狙うロシア軍の侵攻を打ち砕いた。

 「中国が攻めてくるとき」の著者グラント・ニューシャム氏は、「台湾がスイスとヒズボラを併せ持つような存在になることが望まれている」と主張している。

 だが、そのような変革は進められていない。

 防衛筋は、「台湾は、民間防衛の観点からみれば、備えは不十分だ。電力網の回復力強化に投資しているだろうか。いや、衝撃的なほどひどいものだ」と述べた。

 ケイン氏は、台湾の民間企業は、避難の仕方や応急処置の仕方など、サバイバルに対する国民の関心が高まっていることに対応しているが、侵攻を撃退するための戦術的な訓練には取り組んでいないと指摘。「(台湾の社会は)銃の所持に強く反対しており、それが軍にも影響を及ぼしている」と述べた。

 太平洋フォーラムの非常勤研究員であるアレックス・ニール氏は、「国家警備隊の創設が議論されているが、その計画には大きな問題がある。台湾の人口は、若い男性が減少しており、あまり明るい未来は描けない」と述べた。

 そのため、中国が本格的に攻撃を実施した場合、米軍が全責任を持たなければならなくなる。

 ニール氏は、米共和党の安全保障担当幹部が「イスラエルは最後の1人まで戦うが、台湾では最後の1人の米国人まで戦うだろう」と話していたことを明らかにした。

米国は台湾のために戦えるのか

 米軍と台湾軍の統合能力には問題があり、台湾とその人口約2400万人の防衛を複雑にしている。相互運用性は非常に複雑であり、言語の壁をはるかに超えるものだ。指揮官の役割を決め、通信網や情報網を同期させ、無数の電子システムや兵器誘導システムも同期させなければならない。

 ニール氏は、台湾人が米軍を指揮するかどうか、米軍の軍艦が台湾の防衛ネットワークと効果的にリンクできるかどうか、台湾のF16が米軍の軍艦を支援するネットワークに加わっているかどうか、これらの問題は未解決だと述べた。

 「米軍と台湾軍の交戦レベルは、はっきり言えば、グレーゾーンであるため、完全には理解されていない。米国は台湾軍との協力体制を強化しているというメッセージを発信しているが、韓国や日本との軍事演習のような規模ではない」

 韓国と日本に駐留する何万人もの米兵は、何十年もの間、合同訓練で相互運用性の訓練を受けてきた。しかし、米政府が「一つの中国」政策をとっているため、台湾との緊密な協力関係はなく、台湾には数百人の米軍が駐留していると考えられているにすぎない。

 米海兵隊の元大佐であるニューシャム氏は、「米国の政策は、中国が何かしてきたら『手打ち』にすることのようだ」と指摘、この状況は「恥ずべきこと」と述べた。

 「歴代の米政権は非難に値するし、インド太平洋軍の司令官たちが辞任したり、辞任すると脅したりするようなことはない」

 防衛筋は、このような複雑な状況を考えると「米海軍と米空軍は、おそらく台湾人が邪魔にならないようにしようとするだろう」と指摘、戦争は米中間の直接衝突になる可能性が高いと述べた。

 だが、台湾には奥の手がある。台湾が巡航ミサイルで中国の三峡ダムを攻撃すれば、事実上、中国の広大な地域を水没させることができる。しかし、防衛筋はその可能性を否定した。

 「台湾は国産巡航ミサイルで攻撃する能力を持つと主張している。しかし、もし台湾がそれを使えば、報復として台湾は破壊されるだろう」

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