フィリピンが南シナ海に「クリスマス船団」、領有主張の中国に対抗
By Andrew Salmon – The Washington Times – Tuesday, December 5, 2023
【ソウル】領有をめぐって南シナ海で繰り広げられている激しい対立に、フィリピンが新たな戦術で臨もうとしている。
フィリピンの民間人有志が「クリスマス船団」を編成し、乗組員を乗せ、南シナ海の西側の海域に出航し、そこをパトロールする中国の海上部隊に挑む。奇抜な構想だ。
フィリピンからの報道によれば、政府の国家安全保障会議は、危険すぎるとしてこの構想に反対していたが、態度を一転させ、市民団体「アティン・イト連合」による船団の編成を許可した。
報道によると、船団は約40隻からなり、フィリピンの沿岸警備隊が護衛する。船団は、100人を収容できる「母船」を先頭に、10日に同国南西部のパラワン島を出発する予定だ。
中国も戦い方を変えようとしている。この海域で中国漁船の「大群」が船団を待ち受けているとみられている。
中国は近年、フィリピンが「西フィリピン海」と呼ぶこの海域でも領有権を主張しており、反発が強まっている。中国と小さな隣国フィリピンは、世界的にも通航量が多く、戦略的に重要なこの交易路の領有をめぐって対立しており、西フィリピン海をめぐる対立はその一部だ。民間船団側は、フィリピンとその軍隊が中国と一対一で対決しても、圧倒的に不利であることは認識している。
アティン・イト連合の主宰者の一人、エディシオ・デラ・トレ氏は10日にテレビのインタビューで、「政府だけが責任を持つべきものではない。国民もできることをしなければならない。異なる政治的信条を持つ市民が力を合わせて、この機会を最大限に利用し、団結して行動し、それを伝えなければならない」と述べた。
計画では、船団は、中国とフィリピンのにらみ合いが続く「セカンド・トーマス礁」
付近まで航行する。フィリピンは、第2次世界大戦時の沈没船シエラ・マドレ号の錆びついた船体の周辺に、臨時の海軍基地を設置している。比政府は、船団がこの係争中の浅瀬に直接寄港する許可を与えていない。
中国は、この孤立した前哨基地を管理するフィリピン海兵隊への補給を妨害している。
中国は事実上、南シナ海全域の領有を主張し、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムによる領有の主張に異議を唱えている。
また、2016年にハーグの常設仲裁裁判所が下したフィリピンの主張を認めた判決を無視している。
フィリピンは大量の中国漁船の出現を懸念している。
2日の動画では、フィリピンの西約200マイル(約320㌔)、中国の南641マイルにある係争中のウィットサン礁の沖合に、約135隻の中国漁船の「群れ」が映っている。漁船はフィリピン沿岸警備隊の無線に応答しない。
28隻の艦船が並んでいるのが見えるが、船体同士がつながれており、海軍のアナリストらを困惑させている。
ある米海軍将校はワシントン・タイムズに「これはラフティングと呼ばれ、通常であれば、船と船の間で貯蔵品、食料、燃料の受け渡しや人の行き来のときにしか行われない」と語った。マスコミへの発言の許可が得られていないことを理由に、匿名を条件に語った。
これが、恒久的な領有の主張につながる可能性がある。
「これらが岩礁や浅瀬で突然沈没した場合、岩礁や浅瀬は直ちに島となり、陸地として主張することが可能になる」
外洋、グレーゾーン
この民間のクリスマス船団構想は、「排除できないなら、加わろう」という発想に基づいているようだ。中国は繰り返し、執拗にこの海域に侵入しており、地元フィリピンの漁民を激怒させ、フィリピンの領有の主張を侵害してきた。
力の差は明らかだ。中国は南シナ海に、沿岸警備隊だけでなく、世界最大の漁船団や、それらと強くつながっている「海上民兵」を進出させている。
米国に次ぐ世界第2位の海軍力を持つ中国は、南シナ海の岩礁や浅瀬に人工的な軍事拠点を建設してきた。
フィリピンは、法的な戦いに勝利し、米国の支援を受けているとはいえ、領有権争いで中国が投入する膨大な物量との戦いに苦労している。クリスマス船団は、島、小島、岩礁、漁場をめぐって繰り広げられるこのハイブリッド神経戦に、中国が開発した「グレーゾーン」軍事戦術の一部を取り入れた。
中国の「海上民兵」は統制が利いていると考えられているが、ほとんどが民間の漁船からなる民兵の船団の乗組員には人民解放軍(PLA)の退役軍人が含まれていると報じられている。
国連食糧農業機関(FAO)によると、中国の漁船は56万4000隻で、世界の漁船410万隻の10分の1以上を占める。
フィリピンはこれに、独自の方法で対処しようとしている。
デラ・トレ氏はテレビのインタビューで「これは民間主導で進められている。しかし、すでに言われているように、(中国は)独立した民間主導のものだとは思っていない。…中国にとっては重大な問題だからだ」と述べた。
士気が高まっているのはそのタイミングもある。船団が出発するのは、アジアで最もキリスト教徒が多い国で盛大に祝われるクリスマスの15日前だ。船団の任務の一つは、この海域にとどまる漁師や兵士にクリスマスプレゼントを届けることだ。
ゴリアテに立ち向かうダビデの物語のようであり、盛り上がっているかもしれないが、この活動をいつまで続けられるかについては疑問が残る。
先の海軍将校は「問題点は、これが一時的ということだ。岩礁までちょっと行って、1日か2日後には戻ってくる。どうやって維持するのか」と疑問を呈した。
40隻の船が海上にいるのはわずか3日間とみられ、中国に何の影響も与えられない可能性もある。
一方の中国の巨大で世界をまたにかける漁船団は、一年中交代で海上にとどまっている。