IT大手・サイバー当局、選挙へのAIリスク警戒

(2024年1月8日)

2023年10月30日月曜日、ワシントンのホワイトハウスのイーストルームで、人工知能に関する大統領令に署名するジョー・バイデン大統領。右で見守るカマラ・ハリス副大統領。(AP Photo/Evan Vucci)

By Ryan Lovelace – The Washington Times – Wednesday, January 3, 2024

 ハイテク業界、国家安全保障当局者、議会議員らは、人工知能(AI)によって2024年の選挙が大きな影響を受ける可能性に警戒を強めている。この問題は。全米の有権者、候補者、選挙管理者にとってかつてない困難な課題となっている。

 商用利用可能なAI製品が昨年、登場し、ビジネスやエンターテインメントに恩恵をもたらしたが、今年最も注目すべきは、紛糾している11月の選挙にどのような影響を与えるかだろう。

 その中でも重大な役割を果たしうる検索大手グーグルのスーザン・ジャスパー副社長は、健全な選挙を念頭にAIツールを構築していると語った。

 ジャスパー氏によると、グーグルはAIを活用したより高速で適応性の高い実行システムを構築するため、「サーチ・ジェネレーティブ・エクスペリエンス(SGE)」と「バード」向けの新たな機能の実験を行っているという。バードはグーグルの対話型AIツール(チャットボット)であり、SGEは高度なアルゴリズムによってグーグル検索でこれまでにない回答を提供する。

 ジャスパー氏は昨年12月に同社のブログで、「サイバーセキュリティーの脆弱性から誤報や公平性に至るまで、安全性に関するリスクを優先的にテストしてきた。来年初めから、2024年の選挙に備え、またこのような重要なトピックに関して慎重を期すため、バードとSGEが回答を返す選挙関連のクエリの種類を制限する」としていた。

 グーグルが選挙に関してどのような質問をチェックの対象とするのか、正確にはまだ決まっていない。グーグル傘下のユーチューブは今年初めから、クリエイターがAIを使ってコンテンツを作成・改変したかどうかを開示することを義務付け、視聴者に警告ラベルを提供する。

 ジャスパー氏によると、グーグルは非営利団体「デモクラシー・ワークス」と協力し、州や地方の選挙事務所から、いつ、どこで、どのように投票すればいいのかに関する情報を求める人々のために、どのような情報を検索結果の上位に載せるかを決めているという。また、同社のこれまでの実験では、緊急の脅威へのグーグルの対応時間がAIによって改善されるという結果が得られたという。

 同社のサイバーセキュリティーの専門家らは、すでに50カ国以上の270以上のサイバー攻撃グループを監視することで手いっぱいだ。米当局者らによると、ロシア、中国、イランを含むこれらの敵対国は最近実施された選挙で、米国の政治に関する議論を歪めようと、ネット上で活発に活動していた。

 当局者らによると、米国の有権者を誘導するために影響力を行使し、情報操作を行うハッカーやネットユーザーの数は、常に増加している。また、高度なコンピューティングツールのコストが低下し、それらを稼働させる知識を得たことで、世界中の敵対的ハッカーは選挙干渉を始めやすくなっている。

 問題を抱えているのは米国だけではない。人口の多いブラジル、ロシア、インドなど、多くの国々で今年、選挙が実施される。セキュリティーアナリストらによれば、台湾の国政選挙でまず、AIが民主的な選挙制度にどのような脅威となりうるかが試される。中国はこの選挙に対する攻撃的な圧力を強化している。

 AI市場をリードするオープンAIのCEO、サム・アルトマン氏は、昨年11月にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と並行して行われたパネルディスカッションで、この課題について厳しい警告を発した。

 「どのような危険があるのかは、まだ分からない。すべて未経験のことだ。既知の未知であり、未知の未知だ。どのようなことが起きるのかは分からない。生成された動画などでどのようなことができるのか、まだ誰も見ていないからだ。選挙の年であり、そのようなことが頻発する可能性がある」

2022年の選挙で学んだこと

 2022年の中間選挙で遭遇した脅威は、米国のデジタルセキュリティー関係者らにとって、将来の侵入を発見するための道筋を示している。

 昨年12月に発表された情報機関の報告によると、中国の指導者らは、米議会を標的にし、中国政府と関連のあるハッカーらが100以上の州や政党のウェブドメインをスキャンしていた。

 イランのハッカーは、ネット上で米国の左寄りの有権者になりすまし、リベラルな政治家への支持を表明した。また、ソーシャルメディアを操作し、偽の通信社から情報を流して、米国の記者らを操作する計画を立てていた。

 ロシアも活発に活動し、慎重に練り上げられた手法で「40歳以上で『右派の保守主義』に関心のある米国人男性」を特に標的にしていた。

 2022年のこれらの活動を受けて、米国のサイバー戦士らは警戒を強めている。国家安全保障局(NSA)とサイバー軍を率いるポール・ナカソネ陸軍大将は外国からの脅威と戦うために、昨年中にNSAと米サイバー軍で選挙セキュリティー・グループを稼働させた。

 ナカソネ氏は先月、自身の指揮下にある各機関は、中国が破壊工作の手口を変えるかどうか、そしてAIの能力強化が今年どのように脅威を悪化させるかといった課題に集中していると述べた。

 上院で先月、NSAとサイバー軍のトップとして承認されたティモシー・ホー空軍中将は、2018年以降、3回にわたって選挙戦の監視に携わった。ホー氏は新しいポストへの着任が承認される前の7月、議員らに対し、選挙プロセスを混乱させるために外国がAIツールを使用することを懸念していると語っていた。

 マイクロソフトの脅威スペシャリストらは昨年11月の分析で、「大統領選挙は外交政策の行方を左右するものであり、全体主義国家(主にロシア、イラン、中国)にとって来年の大統領選は、戦略的目標を達成する上で極めて重要だ」と述べた。

 マイクロソフトは分析の中で、「(今年の米国の選挙は)複数の全体主義的アクターが同時に選挙を妨害し、選挙結果に影響を与えようとする初めての大統領選挙になるかもしれない。選挙戦が始まる今年と来年、米国の政府と民間企業による選挙を守るための取り組みが試されることになるだろう」としている。

 議員らは、IT業界や情報機関から警告を受けている。トッド・ヤング上院議員(共和、インディアナ州)によると、上院議員らは選挙に対するAIのリスクを、今後予定されているサイバーセキュリティー法案の最優先事項にしているという。

 ヤング氏は、チャールズ・シューマー上院院内総務(民主、ニューヨーク州)と協力して、AIに焦点を当てた超党派の法案を作成している。ヤング氏は昨年10月、選挙がどうなるかにかかわらず、AIが投票に与える影響は対処すべき課題の一つだと述べた。

 共和党の大統領候補指名争いではドナルド・トランプ前大統領が最有力候補であり、共和党の有権者による民主党主導のAI法案への支持は弱く、選挙が近づけば、立ち消えになるとみられている。シンクタンク「Rストリート研究所」のアダム・ティーラー氏は、有権者は当然のことながら、AIの選挙への影響を管理しようとする政敵の目論見に疑念を抱くはずだと述べた。

 「保守派の多くは、さまざまなアルゴリズムによってハイテク企業がすでに保守派に対して不正な手段を取っていると考えている」

 「ジョー・バイデン氏とシューマー氏がここにやってきて、これがどのように機能することになっているのか詳しく教えてくれるだろう。だが、議論が進むことはない。対立があり、核心的な問題をめぐる戦いだからだ。結局、何も起こらないと思う」

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