性転換治療「根拠乏しい」―英で衝撃の報告

(2024年4月15日)

2014年3月28日金曜日、英国ロンドン中心部のトラファルガー広場にあるネルソン記念塔(右)の隣の建物に掲げられた、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーのコミュニティのシンボルであるレインボーフラッグ。イングランドの公的資金による医療サービスは、性同一性クリニックで子どもたちに思春期阻害薬を定期的に提供することはないとしている。潜在的な利益と害について、より多くの証拠が必要だという。(AP Photo/Lefteris Pitarakis, File)

By Valerie Richardson – The Washington Times – Wednesday, April 10, 2024

 未成年者のトランスジェンダー「治療」に関して英「国民保健サービス(NHS)」の委託を受けて4年をかけて行われた調査の結果が発表された。報告は、子供や10代後半の若者への性別移行薬・手術による治療の効果を裏付ける証拠は「著しく弱い」としており、若者への「性別適合(性転換)治療・手術」に警鐘を鳴らしている。近年、活況を呈している「性別適合治療」産業にとっては大きな打撃だ。

 調査は、小児科医のヒラリー・キャス氏の監修で行われた。これまで発表された性別適合に関する研究は「質が低い」と指摘するとともに、ほとんどの若者にとって「医学的な治療は性別に関連する苦痛を管理する最良の方法ではない」と結論づけている。

 388ページからなる報告書「キャス・レビュー」は、「裏付けが著しく乏しいにもかかわらず、これまでの研究結果は、あらゆる立場の人々によって誇張され、誤った表現がなされている。実際には、性別に関連した苦痛を管理するための治療の長期的な結果について、しっかりした根拠はない」としている。

 キャス氏は、性自認に悩む子供の立場に立ち、証拠に基づいた治療と精神衛生の評価方法の改善を呼びかけており、レビューは、未成年者の性別適合治療に懐疑的な人々の主張の正当性を証明するものだ。

 「ハリー・ポッター」シリーズの著者J.K.ローリング氏は長年、性自認運動を批判してきたが、X(旧ツイッター)への投稿で、レビューは「分水嶺」であり、「取り返しのつかない被害を受けた」子供を襲った「悲劇」が「白日の下にされた」と主張した。

 「内部告発者を追い回し、悪者にし、反対する人々を偏屈者やトランスフォビア(トランスジェンダー嫌い)として中傷してきた人々は、このレビューの結論に衝撃を受けるだろうが、ヒラリー・キャス氏の仕事を貶めようとすれば、それは単に間違ったではすまされない。悪意と言うしかない」

 この報告書の発表に先立ち、NHSイングランドは3月、思春期の子供に(思春期を遅らせるため)二次性徴抑制剤を定期的に処方しないことを発表、「安全性や臨床上の効果を裏付ける十分な証拠がない」と指摘していた。

 レビューも二次性徴抑制剤を否定的にとらえ、思春期の若者に、自身の性自認について「考える時間」を与えるという本来の目的を達成している証拠はほとんどないと指摘している。

 それどころか、二次性徴抑制剤を服用しても「性別違和や身体満足度に変化は見られない」という証拠を挙げている。さらに、これらの患者の「大部分」は最終的に性転換ホルモン剤に移行したという。

 トランスジェンダー運動支持者らは、薬や手術がなければ若者の自殺の危険性が高まると主張、運動を推進してきたが、レビューはこの主張に疑問を投げかけた。性自認を巡って混乱した子供を持つ親は「死んだ息子と生きている娘、どちらが欲しいか」という難題に直面させられてきた。

 レビューは、「ホルモン治療は、この集団における自殺による死亡リスクを下げるとされてきたが、新たな証拠はこの主張を支持するものではなかった」としている。

 レビューは、性別適合を扱う臨床医のトレーニングの改善、性転換治療を他の医療サービスと同じ基準で行うこと、受け入れ可能なクリニックを増やすこと、性転換をやめたり、性転換後、元の性に戻ったりした「ディトランジショナー」への情報や機会の提供を促進すること―などを勧告している。

 さらに、性転換ホルモンは16歳以前には処方されるべきではなく、処方年齢を引き上げたとしても、「18歳になるまで待つというのではなく、その段階でホルモンを投与する明確な臨床的根拠があるかどうかを確認することが必要」とした。

 米国では、22の州で18歳未満の性別適合治療を制限している。一方、これに反対する「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」などのLGBTQ団体は、「トランスジェンダーの青少年や10代の若者にとって、年齢にふさわしい、医学的に必要な性別適合医療は、重要であり、それによって命が救われることもある」と主張している。

 LGBTQ団体「ストーンウォールU.K.」は、レビューの提言の一部を支持するとしたものの、その他については「新たな障壁ができ、子供と十代の若者が、受ける必要がありかつ受けるに値する治療を受けられなくなる」可能性があるとして拒否した。

 ストーンウォールは声明で「このレビューの内容やニュースでの取り上げられ方が、トランスジェンダーの子供や若者、愛する人々に懸念を抱かせる可能性がある。何よりも重要なのは、トランスジェンダーやジェンダーダイバース(性別に多様性のある)の子供が、必要とし、それに値する質の高い医療を受けられるようにすることだ。キャス・レビューは、その提言が適切に実施されれば、この目的を達成するために重要な役割を果たしうる」としている。

 米国と同様、英国のクリニックでも、性転換サービスを求める青少年、特に女性の数が急増している。

 NHSの性同一性局によると、2009年から2016年にかけて、子供や思春期の若者の照会件数が15件から1766件に急増し、特に2014年に急激に増加した。

 レビューは、2011年の英国での臨床試験に、この急増の原因があるとしている。この試験は、他に先駆けて性別違和の子供に二次性徴抑制剤を早期に使用することを提唱した、いわゆる「オランダ・プロトコル」に基づいて実施された。レビューによると、この英国の臨床試験では「測定可能な効果は得られていない」。

 「にもかかわらず、2014年から、二次性徴抑制剤は研究だけでなく、通常の臨床で使用できるようになり、当初の手順の実施基準を満たさないような、より幅広い患者群にも投与されるようになった」

 キャス氏はまた、緊迫した政治情勢が、医学研究に必要なオープンな調査を妨げていると警告した。

 レビューは「専門家が自分の意見をオープンに議論することをこれほど恐れる医療分野は、他にはほとんどない。ソーシャルメディア上で人々が中傷され、中傷がさらにひどいいじめ行為を招いている。このようなことは止めなければならない。極論したり、議論を抑制したりすることは、社会にあふれるさまざまな言説の渦中にいる若者を助けることにはならず、長期的には、このような若者が健康に育つようにする最善の方法を見つけるのに欠かせない研究を妨げることにもなる」と訴えている。

 米国で未成年者の性別適合手術の州による禁止を提唱している自由防衛同盟(ADF)は、米当局に、キャス・レビューを検証し、「このような、効果が証明されていない危険な手順から子供を守るための措置を取る」ようを強く求めた。

 ADFのジョナサン・スクラッグス副会長(訴訟戦略担当)は、「自身の性に悩む子供は、可能な限り最善の治療を受けるに値する。キャス氏のレビューが示しているように、体に後戻りのできない変更を加えるよう急がせることは、子供にとって最善の治療ではない。長年、活動家らは自分たちのコンセンサスを頼りに、子供に実験的な処置を押し付けてきた。しかし、年月がたつにつれ、生物学的な現実と常識を支持する証拠が増え続けている」とレビューへの支持を表明した。

 フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど西欧諸国も近年、未成年者への性別移行手順の適用を控えるようになっている。

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