トランプ次期政権の中東戦略の鍵サウジ イランが障害に
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Monday, December 2, 2024
サウジアラビアは、トランプ大統領が就任後、最初に訪問した国であり、2期目の野心的で歴史に残る可能性のある中東戦略の要になるとみられている。
トランプ政権は、革新的な外交交渉を行い、この地域を再構築しようとするだろうが、それが8年前よりも困難な道のりになることは間違いない。まずイランに対処しなければならない。イランは、米国とサウジの関係を悪化させ、その過程でイスラエルを中東で孤立させることに、かつてないほど意欲的で、恐らく有利な立場にある。
アナリストらによれば、イランの指導者らは政治的に狡猾で、トランプ氏がイスラエルとサウジの国交正常化をもたらすグランドバーゲンの追求を再開する可能性があることを敏感に察知している。イスラエルはサウジとの国交正常化によって、パレスチナ国家の樹立を約束し、米国はサウジに強力な軍事力による安全保障を与えるようになる。
また、サウジは、中東のパワープレーヤーとなりつつある中国との経済的な結びつきを緩めることを求められるはずだ。中国は昨年、サウジとイランを交渉のテーブルに着かせ、域内の二つのライバル間の断交に終止符を打った。
サウジ、イラン両国は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザでイランの支援を受けたイスラム組織ハマスと、レバノン南部でイランの代理組織イスラム教シーア派組織ヒズボラと戦っていることを非難している。ハマスとヒズボラはイランの「抵抗の枢軸」の構成員だ。
専門家によれば、2023年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃とそれに続くイスラエルの軍事作戦によって、イスラエルとサウジの正常化の見通しは遠のいたという。サウジの指導者らは現在、パレスチナ人の苦境を政治的に解決することが、いかなる主要な外交的イニシアチブよりも優先されなければならないが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のもとでそれはありえないと考えている。
イスラエルとヒズボラの間で最近交わされた停戦協定は、少なくともレバノン南部での激しい戦闘を一時的に停止させるもので、希望の光をもたらしている。トランプ政権はこの勢いに乗り、より野心的な外交的合意を追求する可能性がある。
イランにとっては、この取り組みを破壊することが第一の仕事となるだろう。
シンクタンク、民主主義防衛財団の上級研究員で、この地域とイランの政治・外交に詳しいベーナム・ベン・タレブルー氏は、「米国は、イランによる中東での武力による革命の輸出と『抵抗の枢軸』の創設だけでなく、この地域での外交的な戦いを抑止する政策を必要としている」と語った。
タレブルー氏はワシントン・タイムズに、「イランは現在、中東における米国のパートナー国や同盟国を消耗させようとしている。何年にもわたって背中にナイフを突きつけられてきたが、今やその手を広げようとしている。サウジとの国交正常化は表明的なものにすぎないとしても、イランの息の根を止めることを考えていたサウジが、イランへの投資を呼びかけるようになったという事実は、…イランにとって十分な成功といえる。均衡を保つためにイランは、米国のパートナー国や地域の現状維持派から融和政策を引き出そうとしている」と述べた。
トランプ氏がイスラエルとサウジの国交を追求する動機は数多くある。そのような合意は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコとの関係を正常化した2020年の歴史的な「アブラハム合意」などの中東での実績をさらに強化するものだ。
この合意はまた、特に米企業がサウジの原子力エネルギーインフラ建設を支援すれば、米経済に恩恵をもたらす可能性もある。
合意の中で恐らく最も重要なのは、イランを孤立させ、弱体化させることだろう。イランはパレスチナ国家樹立に向けたいかなる動きにも拍手を送るだろうが、米・イスラエル・サウジの地域的パートナーシップは、この地域でのイランの軍事力、外交力、経済力を削ぐことになる。
だが一部のアナリストによると、合意から得られると想定される利益は、大幅に誇張されている。
シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の上級研究員で、ウェイクフォレスト大学の政治・国際問題学教授ウィリアム・ウォルドーフ氏は言う。「グランドバーゲンの擁護者たちはすべて間違っている。この合意は米国にとって全く利益はない。むしろ米国の安全保障を大きく損なうことになる。要するに、高くつくが、得るものはないということだ」
ウォルドーフ氏は最近の分析で、グランドバーゲン推進派は 「いくつかの誤った前提」の下で動いていると指摘した。
「第一に、彼らは中国の関心と実力、米国主導の地域秩序から離脱するサウジの力、サウジとイスラエルの正常化による安全保障上の利益を過大評価している。要するに、中国は中東において米国に取って代わる意思はなく、取って代わることもできないし、サウジは米国主導の秩序から離れることはできない」
サウジの新時代
専門家によれば、トランプ氏の1期目以降、サウジの考え方が変わったという。
サウジは当時、イランの支援を受けたイエメンの反政府勢力、フーシ派との戦争に深く関与していた。サウジ政府はその後、この紛争から手を引いた。皮肉なことに、フーシ派はイスラエルと戦うハマスへの支持を示すために紅海で商船を攻撃し始め、米国は現在そのフーシ派に対する空爆作戦を主導している。
ガザ地区とレバノンでのイスラエルの軍事作戦も変化した。サウジの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子は最近、イスラエルによるガザでの作戦をパレスチナ人に対する「集団虐殺」と呼び、イランやこの地域の他の国々に同調した。
それはレトリックにとどまらない。サウジとUAEは、過去数年にわたるコストと利益を計算する中で、イランと敵対するのを避けることを決めた。
サウジ軍とイラン軍は現在、直接対話を行っているようだ。サウジの軍隊は先月イランを訪問したが、これは意図的な戦略の変更、あるいは少なくともリスクヘッジだったと専門家は言う。
サウジに長く駐在した米外交官ジェラルド・ファイアスタイン氏は最近、ワシントン・タイムズのポッドキャスト「スレット・ステータス・ウィークリー」で「湾岸諸国では5年前にある決定が下された。地域の緊張を緩和し、イランとの軍事衝突の脅威から逃れるという決定だ。戦争が勃発した場合、最初の標的になり、イランの報復の爆心地になると考えたからだ。湾岸諸国はそれを避けたかった」と語った。
「この4、5年で見えてきたことの一つは、サウジとUAEが自信を付け、自国の国家的優先事項や国益を追求するためなら、この地域での米国のリーダーシップに挑戦することもあると考えるようになっていることだ」
現在、中東研究所の上級研究員(外交担当)であるファイアスタイン氏は、「つまり、米国とこれら湾岸諸国政府との関係のあり方は、2016年や2017年とは全く異なるものになる」と付け加えた。
他のアナリストらによれば、サウジ政府は、次期トランプ政権が何を望むかにかかわらず、イランとの戦争の準備よりも、石油に依存しない経済成長や緩やかな社会改革に多くを投資しているようだ。
米外交問題評議会のマイケル・フロマン会長はサウジ訪問後の最近の分析で「サウジは、危険な近隣諸国に『ビジョン2030』の邪魔をされないようにしようと決意している。そのため、Uターンし、昨年、長年の敵対国イランと関係を回復した」と指摘した。ビジョン2030は、ムハンマド皇太子が強力に推し進めるサウジの大規模な近代化計画のことだ。
「テヘランとの関係正常化は、それが表面的なものであるにせよ、潜在的な邪魔を一つ取り除くことになる」
「サウジはトランプ氏のイランへの『最大限の圧力』戦略を支持すると思うかという質問に対し、対談相手の1人は、サウジはトランプ氏とは4年しか付き合えないが、イランとは1000年付き合わなければならないと指摘した」