ニューオーリンズでテロ、イスラム国復活の兆候 中東・アフリカで支配拡大
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Friday, January 3, 2025
過激組織「イスラム国」(IS)の影響を受けた男が、元日にニューオーリンズで実行したテロの背景が明らかになってきた。軍、国家安全保障の当局者らは、世界中で最悪の事態が起きようとしており、それが米本土での致命的なテロ攻撃につながる可能性があることに懸念を示した。
米陸軍退役軍人のシャムスッドディン・ジャバル容疑者が元日にバーボンストリートの群衆に車で突っ込み14人を殺害する以前から、外交専門家の間で、ISが海外で復活し、過激派グループが米国、欧州、アジアでテロを実行する意思のある新たな戦闘員を見つけられる条件が整っているとの見方が強まっていた。支配地域が増えれば増えるほど、その指導者らは米国やテロ対策協力国の攻撃を受けにくくなり、海外での作戦計画やオンラインでの組織的な勧誘活動、テロリスト志願者への爆弾の製造方法の指導、世界各地でのジハード主義的任務の計画などが容易になる。
ISは、10年前にシリアとイラクにまたがって支配していた広大な「カリフ制国家」をもう持っていない。
しかし、一時は強大な勢力を誇ったこのテロ組織は、サハラ以南のアフリカ全域で急速に力を取り戻しつつあり、米国など世界の政府当局者は、政府の統治が及ばない国にはそれを阻止する力がないと警告している。アフガニスタンでは、「イスラム国ホラサン州」(IS-K)というIS関連組織が、米軍がアフガンから撤退してから3年余りの間に、その勢力を大きく拡大した。IS-Kの台頭は、昨年3月にロシア・モスクワ郊外のコンサートホールを襲撃し、140人以上が死亡した事件が最もよく表している。
しかし米国にとって、最も差し迫った脅威はシリアにあるのではないかとみられている。シリアでは、長年の独裁者バッシャール・アサド政権が先月、反政府勢力による奇襲攻撃で崩壊した。その間、米国はシリアに駐留する兵力を900人から約2000人へと密かに倍増させた。米軍はここ数週間、アサド氏と同盟国ロシアが支配していた地域に拠点を構えるISの戦闘員に対して新たな空爆を行っている。
首都ダマスカスは統治の経験のない反体制勢力が支配し、隣国トルコは、過去10年間、ISとの戦いで米国の重要なパートナーであったクルド人反体制派を狙い撃ちする可能性がある。
レジェップ・タイップ・エルドアン大統領率いるトルコは、クルド人勢力を、トルコを拠点とするクルド人分離主義勢力との連携を狙うテロリストとみなしている。
さらに、ドナルド・トランプ次期大統領がシリアでの米国の軍事的プレゼンスを拡大するのではなく、縮小する可能性が高いことも加わり、一部の専門家は、深刻な脅威が迫っていると指摘している。
元国防総省高官で、現在はアメリカン・エンタープライズ研究所の上級研究員であるマイケル・ルービン氏は、「イスラム国やそれをまねた攻撃は増えるだろう。トルコやその代理組織が、シリア北東部にあるクルド人の監視下にある収容キャンプを制圧すれば、何万人もの過激派がすぐに自由の身になるかもしれない。トランプ氏は、独裁者が安定をもたらすと考え、クルド人に対してやりたい放題のエルドアン大統領にフリーパスを与えるかもしれないが、シリアでの米国の最も重要な同盟相手を見捨てることになれば、米国民が自国でその代償を払うことになる」
ルービン氏はワシントン・タイムズに「ISがシリアで自由になったとしても、彼らがそこに留まるとは思わないことだ。彼らが南部国境や、それどころかカナダとの北部国境を越え始めるのは時間の問題だろう」と語った。
安全保障シンクタンク、ソウファン・センターは最近の分析で、シリアの混沌とした状況は、活性化したISによる新たな活動のための肥沃な土壌となると書いている。
「シリアの現在の環境は、ISが国内だけでなく、地域全体で復活するのに適している。公に入手可能な未公表のデータを見ると、シリアでのISの攻撃は昨年から3倍に増加し、2024年には700件程度になると予測されている。彼らはまた、洗練され、殺傷力を増し、各地に分散している」
危険な瞬間
ニューオーリンズで襲撃に使われたジャバル容疑者の車にはISの旗が積んであったと当局が発表した。この事件も、2016年にオーランドで起きたパルス・ナイトクラブ銃乱射事件、2017年のニューヨーク市地下鉄爆破事件、2015年のカリフォルニア州サンバーナディーノでの銃乱射事件などと同様、ISの影響を受けて行われたテロということだ。
情報は、同様の攻撃を実行する意思を持ち、実行可能な人物がすでに数十人、数百人、米国内にいることを示唆している。昨年10月、下院国土安全保障委員会によると、2021年4月以降、米国内の個人がISを含むテロ集団への物質的支援を行い、その他のテロ関連犯罪を実行しようとした罪で起訴された事例が50件以上発生した。
そうした個人とつながったり、新たな自称過激派を鼓舞したり、米国でテロ攻撃を実行する方法を指導したりすることは、発見されることなく拠点を構えることができると感じているIS関係者にとっては、はるかに容易だろう。そしてその危険は、ISが重要な戦闘力を保持し、10年前にシリアと隣国イラクにまたがるカリフ制の絶頂期に築いた影響力が、根強く残っているシリアで最も差し迫ったものとなっている。
主要な外交政策や国家安全保障問題で、米国の同盟国とは言い難いロシアでさえ、シリアでの力の空白がISの復活につながることを懸念している。
ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は3日、「ISが復活するリスクが確かにある。シリアで活動していた他の過激組織も復活する可能性が高い」と述べた。
アサド政権が崩壊するずっと前から、国防総省当局者はIS復活の条件が整いつつあると警告していた。7月、米中央軍は、ISがイラクとシリアで2024年上半期だけで少なくとも153件の攻撃を行ったと発表した。
中央軍は「このペースは、ISが2023年に犯行を主張した攻撃の総数の2倍以上に当たる。ISは数年間、攻撃能力が低下していたが、攻撃件数の増加は、再編成を試みていることを示している」との見方を示していた。
それ以来、米国がISを抑え込むためには、少なくとも一時的に作戦を強化する必要があることが明らかになっている。先月、米中央軍は、デリゾール州で空爆を実施し、ISの工作員2人を殺害、1人にけがを負わせたと発表した。中央軍によれば、空爆はトラック1台分の武器も破壊したという。
ISの工作員らは、戦争で荒廃したシリア国内の政治的不安定を利用したようだ。
中央軍によると「今回の空爆は、かつてシリア政権とロシアが支配していた地域で実施された」。
中央軍は声明で「この空爆は、この地域のパートナーとともに、米国、同盟国、この地域内外のパートナーの民間人や軍人に対する攻撃を計画し、組織し、実行しようとするテロリストの計画を混乱させ、低下させるという、米中央軍の継続的なコミットメントの一環だ」と表明した。
しかし米国の政治的優先順位は変化する可能性がある。トランプ氏は最初の任期中、シリアから米軍を撤退させようとしたが、最終的には共和党の有力議員や軍関係者に説得され、少数部隊を駐留させた。
今回は、完全撤退の決意を固めているようだ。
トランプ氏はアサド政権が崩壊した直後、ソーシャルメディアに、「米国は何もすべきではない。これはわれわれの戦いではない。とことんやらせればいい。関与するな!」と投稿した。