米中冷戦巡る危険な神話

(2025年4月5日)

中国、世界との冷戦 イラスト:Linas Garsys / The Washington Times

By Miles Yu – Monday, March 31, 2025

 米国は中国と冷戦状態にあるわけではない。そこにこそ問題がある。ソ連とは異なり、中国共産党(CCP)は安定したルールに基づくにらみ合いには関心がない。中国共産党はもっと危険なもの、つまり熱戦の準備をしている。

 中国の軍事部門である人民解放軍は、台湾、南シナ海にとどまらず、米国との対決に向けて積極的に準備を進めている。その最終目的は、米国の力を奪い、世界支配を達成することだ。

 一方で米国は依然、強大な抑止力を発揮している。だが、抑止力は認識によるところが非常に大きい。中国共産党は、冷戦時代に米ソ対立の枠組みを定め、抑制した相互確証破壊というドクトリンを取り入れたことはない。

 冷戦が冷えたまま、熱くならなかったのはこの相互確証破壊のためだ。中国は、その地理的奥行き、イデオロギー的熱狂を悪用し、共産主義指導者らは人の命を何とも思わない。また、犠牲者を出すことへの強い嫌悪が米国の手を縛り、弱くしていると考え、依然として、核兵器であれ通常兵器であれ、米国の抑止力は張子の虎だと見ている。

 だからこそ中国は、執拗な軍事的瀬戸際外交を展開している。台湾近郊に毎日のように侵入し、インドを攻撃し、日本とフィリピンに嫌がらせをする。このパターンは偶然、起きているわけではない。

 1950年代から1960年代にかけての中ソ分裂は、米国との核戦争を回避したいというロシアの姿勢に毛沢東が嫌悪感を抱いたことが引き金となった。毛沢東にとって、ソ連は相互確証破壊のドクトリンを受け入れ、米国の抑止力を認めることによって、「修正主義者」になり、軟弱になったのだ。その戦略的侮蔑は今でも北京に響いている。

 米国が中国と冷戦状態にないのには、もう一つ、構造的な理由がある。ソ連とは異なり、中国はグローバルな自由市場に完全かつ愚直なまでに組み込まれていることだ。

 米国はCCPに、資本、技術、市場への参入という戦略的な贈り物を渡している。相互主義の順守は求めていない。その結果はどうだろう。CCPは、知的財産の窃取、強制的な技術移転、国家が支援するダンピング、「合弁事業」の仮面をかぶった広範なスパイ活動などを通じて制度を悪用することで自らを豊かにしている。

 冷戦時代にはありえなかったことだ。ソ連圏は西側諸国から経済的に切り離されており、両者の間は高い壁で隔てられていた。

 米中冷戦の前提条件となる、民主的資本主義と全体主義的統制経済の完全なデカップリング(分離)は存在しない。

 冷戦は思想戦だった。米国は、米広報文化交流局(USIA)や「ヘルシンキ合意」といった強力な手段を通じて、自由民主主義と人権を推進した。

 現在、中国との戦略的競争は、技術戦争、貿易戦争、仮想的な戦場での対立に矮小化されている。それは関与政策のルールが守られるという前提での話だ。その一方で、思想戦のためのインフラが解体された。ラジオ・フリー・アジア(RFA)は予算を打ち切られ、全米民主主義基金(NED)のような機関は軽視されている。その結果、明らかだった道徳的、思想的な優位性を放棄した。米国のソフトパワーは半減している。

 しかし、CCPはソフトパワーを恐れている。ソ連が米国の理想を追い求める力を恐れたように、CCPは、政権を不安定化させる「カラー革命」、テロ組織、陰謀に悩まされている。米国の「冷戦思考」に異常なほどに反発するのは、自由主義と全体主義の間の現実の思想的対立を最も恐れていることの証拠だ。

 ソ連との冷戦時代、西側諸国は一体となっていた。同盟国間の政策協調を変えようとすることは許されなかった。輸出は集団的に管理され、西側諸国が勝手なことをしても利益は得られないようになっていた。

 今、米国が率いる連合では、日和見主義的な国々が足を引っ張っている。米国の同盟国の多くは「どちらかを選ぶ」ことを拒否し、米中競争の結果が自国の安全保障や主権に関係ないかのように装っている。

 彼らは、CCPのテクノ権威主義的統治モデルが自由民主主義と相いれないことを忘れているか、無視している。CCPと対決することを拒否することで、CCPに力を与えている。

 冷戦時代、米国のエリートは、民主・共和、学問、政治を問わず、ソ連の体制の道徳的腐敗を認識していた。ジョン・F・ケネディやロナルド・レーガンをはじめとする大統領や、ジョージ・ケナンやリチャード・パイプスのような政策立案者もこの点をはっきりと認識していた。

 アレクサンドル・ソルジェニーツィン、アンドレイ・サハロフ、バツラフ・ハベル、レフ・ワレサといった反体制派を支持したのは、彼らにロマンを感じたからではなく、利害関係を理解していたからだ。

 今日、中国の反体制派を支援することは無責任であり、危険でさえあると見なされている。体制転換という考え方そのものが、ワシントン界隈ではタブー視されている。一方、CCPの統一戦線工作部は、米国のあらゆるレベルで体制転換を進めている。大学に潜入し、代理人を育成し、自信過剰で偽善的な「現実主義者」が破壊した教育機関の思想的指導者を取り込んでいる。コロンビア大学、ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンス大学の「第一に米国が悪い」と非難する教授らは、中国への不快なまでの追従姿勢によって、自由を奪える機会があればいつでも奪おうとするその体制に正当性を与えている。ソ連はそのような幸運に恵まれなかった。

 はっきりさせておきたい。人民解放軍との戦争に備え、中国と経済的に競争することは不可欠だが、それだけでは不十分だ。

 われわれはまた、真の冷戦を戦わなければならない。つまり、レッドラインを引き、それを守ることだ。CCPが行き過ぎた行動を取ろうとするたびに、冷静に、毅然と立ち向かい、米国の抑止力に真の信頼性を与えることだ。それは、CCPが支配するサプライチェーンから戦略的に完全に離れることを意味する。それは、中国国民が体制の転換を求めたとき、爆弾ではなく、道徳的・外交的に支援することを意味する。それはまた、CCPの影響力を米国の教育機関から一掃することを意味する。原則よりも利益を、勇気よりも快適さを選んだ米国の知的エリートや企業エリートは、責任を負わなければならない。

 現状に満足していては冷戦は勝てない。

 選択肢は対立か平和かではない。今の冷戦か、後の熱戦かだ。共存ではない。それは崩壊を意味する。民主的な世界秩序が崩壊し、中国のオーウェル的ビジョン、CCPが婉曲的に「人類運命共同体」と呼ぶものに取って代わられるようになる。

 われわれは冷戦を望んではいないが、手遅れになる前に冷戦を戦わなければならない。

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