アイデンティティー政治が招く民主党のアイデンティティー危機

トランプに抵抗する民主党(イラスト:Alexander Hunter/The Washington Times)
By Editorial Board – The Washington Times – Friday, June 20, 2025
トランプ大統領とかつての盟友イーロン・マスク氏との短い口論は、残念ながら注意をそらす気晴らしにすぎなかった。強い意志を持ち、独自のビジョンで動く指導者同士で意見が食い違うのは避けられない。民主党はむしろ、自分たちが何者なのかをはっきりと打ち出せればいいと願っているだろう。
党の幹部たちは最近、フォーカス・グループ調査に2千万㌦を投じた。大手メディアを味方に付けていたにもかかわらず、なぜ2024年選挙で民主党候補が大敗したのかを探るためだ。世論調査では、特に若い男性が共和党に流れていることが確認されている。
その原因は明らかだろう。異性愛者で白人の男性は、いわゆる「リベラルの被害者階層」には入り込めない存在になってしまった。Z世代(1995年から2012年の間に生まれた世代)は、かつて愛されたキャラクターの人種や性別を、多様性枠を満たすために入れ替えたハリウッド作品を見て育った。今日のハリウッドでは、ヒーロー役を演じられるのは女性だけだ。
そうした道徳物語では、男性は陰で目立たないように、みな女性的かつ無能に描かれる。いくら主人公の女性が輝いても、男性が突出し過ぎてはいけないからだ。エンターテインメントが新たな教義となり、ズーマー(Z世代)はそれにうんざりしている。親世代が享受していたマイホームのような基本的夢が、もはや手の届かないものだと彼らは理解している。
オバマ大統領とジョセフ・R・バイデン大統領の下で、議会、司法、そしてホワイトハウスを民主党が支配していたことにより、2千万人を超える不法移民が国内に押し寄せた。その流入は労働市場と住宅市場をゆがめ、未経験者向けの仕事の賃金を引き下げる一方で、初めて家を買う人向けの住宅やアパートの価格を天井知らずに押し上げた。
連邦政府の無分別な財政支出は、いわゆる「新型コロナウイルス大パニック」期に制御不能のインフレを引き起こした。ひと世代分もの若者たちが、本来なら人生の黄金期であるはずの時間を、政府によるロックダウンや学校閉鎖に奪われた。現在の10代後半から20代前半は、民主党と教員組合こそがこの狂気をあおった張本人だと感じている。
脅威を理解したシカゴ市長を2期務めたラム・エマニュエル氏は、来る2028年の大統領選で共和党候補と対峙する覚悟を固めるつもりだ。だからこそ、今年初めには「われわれの党はアイデンティティー・ポリティクスへのこだわりを和らげるべきだ」と発言し始めたのである。
「私の見解では、われわれは文化の周縁に追いやられているように見えているだけでなく、それを党の最重要メッセージのように掲げているようにも映っていた。もうやめよう、トイレだのロッカールームだのは。より重要なのは教室だ……完全に道を踏み外してしまったんだ」
エマニュエル氏は、欲しいものを手に入れるために何と言えばいいかを心得た狡猾(こうかつ)な政治屋だ。しかしオバマ政権時代の首席補佐官として、いま米国が直面している財政的・文化的危機を招いた責任の大半を同氏も共有している。同氏が大きな政府志向を改めたとは、とても思えない。
若い男性たちはその不誠実さを見抜き、「性別を『どちらでもない』または『X』として登録できるDCの運転免許制度」など、オーバートン・ウインドー(受け入れ可能な政策の範囲)が極めて左に寄った党を支持しないだろう。元バレリーナであるエマニュエル氏を、男らしさの旗手として受け入れることもまずない。
民主党の「虹の連合(多様性重視の政治的連合)」を形作る他の民主党寄りの州の有力者たちも、若者に「アルファ・メイル(リーダーシップを発揮する男性)」と誤認される可能性はさらに低い。ティム・ウォルツ元副大統領候補、デイビッド・ホッグ元民主党全国委員会共同議長、そして「父親休暇」を取ったことがあるピート・ブティジェッジ前運輸長官などが挙げられる。
民主党は、イスラム組織ハマスへの甘い姿勢、トランスジェンダー問題への固執、そして国家を破産寸前に追い込んだ増税・大規模支出路線――これらのナンセンスを捨て去らない限り、若い男性層からの支持を回復できないだろう。
もし彼らが本気でこうしたナンセンスを放棄するつもりなら、いっそ共和党に鞍替えした方がいいだろう。