米国のインド太平洋防衛に欧州の支援は必要か

(2025年9月24日)

コネチカット州グロトンのジェネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボート造船所で、2015年7月30日、潜水艦の進水準備を行う作業員たち。(AP通信/ジェシカ・ヒル撮影)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Thursday, September 18, 2025

 【ソウル(韓国)】英国のチャールズ国王は17日、同国を公式訪問したトランプ大統領に対し、「オーストラリアとのAUKUS潜水艦パートナーシップは革新的かつ重要な協力の基準となる」と述べた。

 オーストラリア・メディアはこの発言を「衝撃的」と報じた。

 AUKUS(オーストラリア、英国、米国の3カ国の安全保障協定)の下で、英国と米国はオーストラリアに原子力攻撃型潜水艦を供給することで合意している。

 国王の発言は、バイデン前政権の合意実行に消極的なトランプ氏に対し、英国がインド太平洋の同盟国や自国の防衛を米国に委ねているわけではないことを想起させようとしたものとみられている。

 ウクライナ防衛を巡る欧米間の意見の相違はよく知られているが、米国が太平洋地域での指導力と防衛に関して欧州諸国に関与を控えめにするよう働きかけているとみられていることについて、米国と西側同盟国との間で静かな論争が沸き起こっている。

 一部の米政府関係者は、北大西洋条約機構(NATO)諸国の能力は限定的であり、それらはロシアに向けられるべきだと主張しており、これまで世界に影響力を及ぼしてきた欧州はわきに追いやられたと感じている。しかしトランプ氏の「米国第一主義」政策に対して世界で懐疑的な見方が高まっていることを受け、インド太平洋地域の一部の国々は防衛協力や武器取引で欧州と連携し始めている。

 ドイツ・マーシャル基金は9月11日、「米国は歴史的に欧州の最も緊密な同盟国であり、インド太平洋地域は欧州の戦略にとってますます重要になっている。しかし…米政権内の見解やアプローチの相違、対中姿勢の不確実性が、欧州が安全保障の主体として自由に行動することを困難にしている」と述べた。

CRINKからCRNKへ?

 9月3日、太平洋戦争終結80周年を記念した中国の軍事パレードの最前列には、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記、ロシアのプーチン大統領らが並んだ。

 一方で中国訪問中のイランのマソウド・ペゼシュキアン大統領が参席しなかったことが注目を集めた。

 イランは中国、ロシア、イラン、北朝鮮の権威主義ブロックに分類されることが多く、CRINKと呼ばれるが「動乱の軸」あるいは「権威主義の軸」とも称される。

 6月にイランが米軍とイスラエル軍の軍事行動で屈辱を味わわされたことで、状況は一変した。

 「最近こてんぱんにやられた」と語るのは、インド太平洋地域で豊富な経験を持つ元米海兵隊将校で外交官のグラント・ニューシャム氏だ。

 イランの代理組織ハマスとヒズボラは戦力を削がれ、防空システムは破壊された。これにより核施設はイスラエルと米国の爆撃機の攻撃に無防備な状態となった。両国は作戦で損失を一切被らなかった。

 イランは当面は牙を抜かれた状態が続くが、核武装した中国、北朝鮮、ロシアは脅威の三国連合を形成している。

 いずれもインド太平洋地域に拠点を置き、世界的な影響力を持つ大国だ。

 ロシアは欧州国境で血みどろの戦争を繰り広げているが、極東地域にも相当な軍事力を維持している。

 中国もまた、インド洋まで遠征してロシアと共同演習を実施するほどの世界規模の海軍を配備している。

 北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻に参戦し、見返りにロシアから海上技術を含む軍事支援を受けている。

対応に苦慮する民主主義諸国

 大西洋と太平洋に面する米国はインド太平洋地域に大きな存在感を維持し、オーストラリア、日本、フィリピン、韓国に同盟国を持つ。また台湾の防衛を非公式に支援している。

 欧州大西洋地域のNATO加盟国は、規模は小さいもののインド太平洋地域で存在感を示している。

 1950年から1953年の朝鮮戦争で韓国を防衛した自由世界諸国による米国主導の国連軍司令部には、フランスや英国を含む欧州諸国の代表が参加していた。

 欧州の将校によれば、ドイツが2024年にこの司令部に参加したのは、「インド太平洋地域への足場を築くため」だ。

 しかし米国を除き、国連軍司令部参加国は韓国と相互防衛条約を結んでおらず、現地に部隊も展開していない。

 大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)では、欧州諸国の艦艇が北朝鮮制裁の監視のため域内海域をパトロールしている。

 演習も東進の呼び水だ。欧州諸国はオーストラリアの「ピッチブラック」や「タリスマンセイバー」など地域演習への参加を増加させている。

 近年、フランス、イタリア、英国といった中堅国は空母打撃群を派遣している。これらの航海は単なる作戦行動ではない。飛行甲板でのカクテルパーティーは外交・商業的な広報活動につながる。

 太平洋フォーラムの地域安全保障専門家アレックス・ニール氏は「空母打撃群を派遣して、能力をアピールし、武器販売を促進するなどの防衛外交の取り組みからは、英国や欧州諸国が利害関係を有していることが分かる。しかし米国はこれによって情勢が複雑化すると考え、欧州各国は近隣の海域の防衛に資源を集中させるべきだと考えているかもしれない」と述べた。

 欧州諸国の軍隊が中国と北朝鮮の巨大な軍事力を抑止できるかは疑問だ。

 ニューシャム氏は「欧州諸国の軍隊は規模が小さすぎるため、アジア太平洋地域に関して貢献できることはほとんどないだろう。自国周辺地域の防衛すら困難な状況で、遠方の地域まで手は回らない」と指摘した。

 欧州の空母打撃群は、欧州大西洋からインド太平洋へ展開する米打撃群の「穴埋め」役を担えるかもしれない。英海軍は、第2次世界大戦や朝鮮戦争の時のように、米軍と連携して、戦闘に参加する可能性もある。

 しかしエルブリッジ・コルビー国防次官補は、大西洋より太平洋を優先する方針を打ち出した。

 コルビー氏は、ウクライナが必要とする武器の輸送を遅らせようとしたが、トランプ大統領がこれを覆した。

欧州の限界

 報道によれば、コルビー氏は5月に英当局者に対し、英空母打撃群はインド太平洋地域で必要とされていないと伝えた。この報道に対する反論は出ていない。

 英国はこの発言に衝撃を受けたようだ。英海軍の旗艦による8カ月間に及ぶ現行の任務は、英国にとって威信をかけた世界的任務だからだ。

 英空母打撃群は、インドから日本に至る地域の各国軍や米海軍と効果的に連携してきた。9月12日には英フリゲート艦と米駆逐艦が台湾海峡を航行し、中国の反発を招いた。

 この地域への展開は限界を露呈した。

 ニール氏はF35戦闘機や護衛艦の不足に触れ「英海軍は完全な空母打撃群すら編成できず、同盟国の支援が必要だ。途中で装備が故障する事例も報じられている」と指摘した。

 英国は米国の圧力に屈した可能性がある。

 7月、英国の戦略防衛見直し(SDR)の主要起草者の一人は議会で「米インド太平洋軍は…英国軍が同地域に駐留することにあまり価値を見いだしていない」と述べ、英国が「大西洋の要塞」に再び焦点を当てることにつながった。

 フランスは太平洋地域でのプレゼンス維持を強く主張しているが、米国からの抵抗は強まる可能性がある。

 ニール氏は「英国とEUは常に、インド太平洋における国際秩序と航行の自由の維持を主張している」と指摘。「フランスは自国がインド太平洋の常駐勢力であり、インド洋と太平洋に200万人の国民が居住していると主張している」と述べた。

 コルビー氏は6月、2021年に発足したAUKUSについて再検討に入った。米国の造船所が建造できる潜水艦はすべて米海軍自身に必要だという理由からだ。

 米国がAUKUSから離脱すれば、英豪は屈辱を味わうことになるだろう。両国とも、この協定に政治的、経済的にも投入してきたからだ。

 しかし、地域の安全保障に詳しい情報筋は、ワシントン・タイムズに対し、「ブリッジ(コルビー氏)は勢いを失いつつある」と語った。

 米国とオーストラリアのメディアは、マルコ・ルビオ米国務長官がオーストラリア当局者にAUKUSは継続すると約束したと報じた。

 それでも、米国第一主義は同盟国の神経を逆なでしており、かつての米国の協力関係に変化が生じている。

 ケンブリッジ大学のアジア専門家、ジョン・ニルソンライト氏は、「トランプ氏は、おそらく無意識のうちに、外交・安全保障政策において、欧州やアジアの民主主義国家による革新を促進する触媒としての役割を果たしてきた」と述べた。

新たなパートナーシップ

 2023年、日本と英国は、両国間で兵員と武器を迅速かつシームレスに配備できる法的・軍事的協定に署名した。

 日本は、米国の防衛関連企業ではなく、英国およびイタリアのパートナーと協力して、第6世代ステルス戦闘機の開発に取り組んでいる。

 日韓両国は米国との同盟関係から恩恵を受けており、NATO規格の装備使用が義務付けられている。これにより両国の武器メーカーは米軍産複合体との競争力を高めている。

 韓国も日本もウクライナに武器を供与していないが、韓国系武器メーカーはエストニア、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、トルコなどNATO加盟国に数百億ドル相当の武器を販売し、ロシア・ウクライナ戦争から莫大な利益を得ている。

 ニルソンライト氏は、多国間の防衛連携を維持・強化すべきだと述べた。

 「米国の影響力の長期的な衰退を補うため、中堅国による国際的な取り組みが必要だ」

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