レアアース支配を武器化する中国 輸出規制で貿易戦争激化へ

(2025年10月17日)

2025年9月30日(火)、北京で開催された中華人民共和国建国76周年記念日の前夜、人民大会堂で行われた国慶節レセプションで演説後、乾杯の挨拶をする中国の習近平国家主席。(AP通信/Ng Han Guan撮影)

By Bill Gertz – The Washington Times – Wednesday, October 15, 2025

 中国はレアアース(希土類)とその製品の輸出規制を新たに導入したが、1990年代から、この戦略的資源の世界市場支配を目指し、今ではレアアース輸出規制が激化する米国との貿易戦争を戦うための主要な手段となっている。

 共産党指導者の故鄧小平は1992年、「中東には石油がある。中国にはレアアースがある」と述べた。

 鄧は当時、レアアースは「極めて重要な戦略的意義を持つ」と述べ、「レアアースの優位性を最大限に活用する」政策と手法を開発すると誓った。

 中国は世界の17種のレアアース埋蔵量の80%を占め、技術の進歩により、それらは、中国にとってさらに価値ある戦略的ツールとなっている。

 アナリストらは、中国が米国に代わる世界最強国となるために、世界的覇権獲得に意欲的に取り組み、共産主義体制を強化しているとみており、習近平国家主席は先週、この目的を果たすためにレアアース支配を利用したとの見方を示している。

 9日に発表された新たな規制は、各種レアアースとハイテク部品を対象とするもので、4月に先行して発表された規制を拡大する。

 商務省は、レアアース製品の輸出規制拡大により、中国企業と外国企業は「微量であっても」中国産レアアースを含む製品を輸出する際は、事前に政府の承認を得る必要があると発表した。

 新規制は来月初めに発効する。

 商務省の通知には特に、中国国外で製造された半導体や人工知能(AI)関連機器・部品について、中国産レアアースを使用して製造された磁石や材料を含む場合の新規制が明記されている。

 また、エンドユーザーが軍である場合、輸出許可は全て拒否されるという。

 主要レアアースには、ネオジム、ジスプロシウム、サマリウム、ホルミウム、エルビウムなどがあり、兵器にも、民生用電子機器・設備にも不可欠だ。

 多くはミサイル誘導システム、ドローン制御、電気自動車(EV)に使われている磁石などの部品の製造に使用されている。

 陸軍戦略官ロバート・マギニス氏は「レアアースを支配する者は、デジタル・軍事時代を支配する可能性がある」と述べた。

緊張の高まり

 トランプ大統領は、中国の新たな輸出規制を受けて、すでに中国製品に課している55%に加えて、さらに100%の関税を課すと発表した。

 この発表により、株式市場は急落したが、トランプ氏が12日、ソーシャルメディアに「中国については心配ない。すべてうまくいく!」と投稿したことで下げは止まった。

 トランプ氏は、中国の指導者は「一瞬、困惑しただけ」で、「自国に不況をもたらしたくはないし、私もそんなことは望まない」と述べた。

 スコット・ベセント財務長官は13日、中国に対する批判を強めた。

 ベセント氏はFOXビジネス・チャンネルで、「米国は世界平和を推進している。中国は戦争に資金を提供している」と述べた。

 レアアースのサプライチェーン(供給網)の脆弱性は新しい問題ではない。

 中国は2010年、尖閣諸島をめぐって日本政府と対立したことから、日本への輸出を遮断し、初めてレアアースを武器として活用した。

 一時的な輸出停止によって、自動車製造にレアアースを使用している日本の自動車産業は影響を受けた。

 にもかかわらず、米国や欧州の軍事産業やメーカーは、中国のレアアースへの依存度を下げるための対策をほとんど講じてこなかった。

 その結果、米国は現在、中国が支配するレアアースのサプライチェーンに依存している。その主な原因は、米政府が40年間にわたって中国の潜在的脅威を軽視する政策を取り、共産主義国家である中国との貿易を促進してきたことだ。

 ベセント氏は、新規制は、今月下旬にアジアで予定されているトランプ氏と習氏の会談に先立ち、影響力を強めるためだとの見方を示した。

 同氏は、米国と中国は合意を目指して貿易交渉を続けていると述べた。

 ベセント氏は、「緊張は大幅に緩和された」と指摘、問題はあるが、会談は行われるだろうと述べた。

 「100%の関税を実施する必要はない。先週の発表にもかかわらず、両国の関係は良好だ。コミュニケーションルートは再開された。今後の動向を見守ろう」

 また、ベセント氏は、この対立によって中国と世界の緊張が高まるが、その原因が何であるかは定かではないと彼は述べた。

 「中国は、自由世界全体のサプライチェーンと産業基盤にバズーカを向けた。当然、われわれはそれを許すつもりはない。中国は統制経済だ。われわれを指揮することも、支配することもできない。われわれはさまざまな方法で主権を主張していく」

北京の反応

 中国国営メディアによると、商務省の報道官は14日の声明で、新規制は輸出禁止ではなく、許可制とすることで世界的サプライチェーンの安定を維持するためだと主張した。

 中国は米国に対し「誤りを正す」よう求め、新たな規制で「脅迫したり威嚇したり」することなく交渉に臨むよう呼び掛けた。

 報道官は、新規制は国家安全保障と世界の安全保障を守ることを目的としたものだと述べた。

 さらに報道官は、新規制が米国の国家安全保障輸出管理に対する報復措置であることを明らかにした。米国の輸出管理は米製品が中国軍を強化するのを阻止するために定められたものだ。

 今回の規制は中国が初めて導入する外国直接製品規則であり、米国が中国企業に対して科しているような二次的制裁を中国が今後、実施する意思があることを示している。

 米国が中国船に対して米国内の港湾で新たな手数料を課したことに対し、中国も米国が所有または運航する船舶に対して港湾手数料を課している。

 声明は、貿易・関税戦争に対する中国の立場は変わらないと表明。「戦う必要があれば戦う」と報道官は述べた。

 元太平洋艦隊情報部長で退役海軍大佐のジム・ファネル氏は、新たなレアアース規制は習氏が中国の「復興」、つまり世界支配達成を目指す取り組みのスケジュールに沿って行動している証拠だと指摘した。

 「習近平氏が提示したこの輸出規制は、米国の国防のための調達・開発能力に直ちに悪影響が及ぶ。習氏と中国共産党がこの措置で米軍を無力化しようと決めたことに疑いの余地はない」

 ファネル氏は「米国は中国の脅威に対抗するため国家緊急事態態勢に移行し、極東における中国の攻撃を警戒すべきだ」と述べた。

レアアースの自立

 議会では、米国の中国へのレアアース依存を減らし、国内生産・製造への投資を促進する超党派の立法措置が複数審議されている。

 下院の「2025年レアアース磁石安全保障法案」は、国内産のレアアース磁石生産への税控除を規定。中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの敵対国産材料を含む磁石の使用を禁止する。

 「2025年重要鉱物安全保障法案」は、重要鉱物・レアアースのサプライチェーン確保によって脆弱性を低減することを目指す。

 レアアース加工企業フェニックス・タイリングスのニック・マイヤーズ最高経営責任者(共同創業者)は、中国がレアアースの採掘ではなく加工に戦略的投資を行った結果、この戦略的金属の世界生産をほぼ独占するようになったと指摘した。

 「戦車、艦艇、原子力、風力、ガスなどのエネルギー、これら全てがレアアースに依存している。レアアースがなければ、軍事だけでなく、実際の日常業務でも、われわれの社会は機能不全に陥る」

 マイヤーズ氏は、中国の活動はこれまでとは違い、「経済戦争を展開している」と指摘。「彼らは戦争が物理的なものばかりでないことを理解し、経済力を活用している」と述べた。

 国防専門家によれば、2010年の日本の事例にもかかわらず、米国がレアアースの中国依存を解消するにはまだ数年が必要という。

 日本は世界貿易機関(WTO)に支援を求めた。WTOは2014年に中国のレアアース輸出制限が違反と裁定。翌年、中国に対しレアアース割当制を廃止させた。

 トランプ氏は第1次政権の2020年10月、重要鉱物供給遮断への脆弱性低減を目指す大統領令を発令した。

 その後バイデン大統領は2021年2月、敵対国サプライチェーンへの依存低減を目指す大統領令を発令した。

 その後、代替供給ラインが構築されてきた。これにはカリフォルニア州のマウンテンパス・マテリアルズ社(レアアース・磁石メーカー)や、オーストラリアのライナス社カルグーリー工場が含まれる。ベトナムも西側諸国(主に米国)向けレアアース輸出に向け、加工・分離生産を拡大している。

環境への影響

 西側諸国は別のレアアース開発を模索する中で、生態系への影響という大きな問題に直面している。

 中国内モンゴル自治区でのレアアース採掘は、レアアース生産時に発生する大量の放射性物質により、大規模な生態系破壊を引き起こしている。

 あるアナリストはその背景について「中国はこれらの規制とライセンスを、米国や欧州連合(EU)との交渉の切り札として利用するだろう。中国メディアはレアアースが米国をコントロールする中国の切り札だと報じている」と述べた。

 戦略専門家マギニス氏によれば、国防総省はレアアースを含めるよう国防生産法の適用対象を拡大し、コロラド州とテキサス州の新興企業が環境への影響を最小化する新たな抽出システムの開発に取り組んでいる。

 レアアース依存度低減に向けた対策として他には、同盟国と鉱業分野で連携したり、部品を再設計してレアアースの使用を減らしたりすることがある。

 マギニス氏は「危機は創造性を生む。この危機は、30年間も怠慢が続いたことで達成できなかったことを、わずか10年で成し遂げる可能性がある」と述べた。

 近著「人類の未来のためのAI」でマギニス氏は、中国のレアアース規制が中国にとってリスクをもたらすが、短期的には防衛関連企業や半導体メーカーに混乱を招く恐れがあると指摘した。

 マギニス氏は「しかし長期的には、西側が目覚め、結束して自給体制をつくるようになる可能性がある。中国はこれを最も恐れている」と語った。

 「このAI冷戦において、鉱物は新たな兵器だ。だが自由世界は究極の兵器を持っている。イノベーション、同盟関係、技術は党派ではなく人々に奉仕すべきだという道徳的信念だ」

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