イラクでイラン系民兵と米軍の衝突のリスク高まる
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Saturday, January 15, 2022
イラクでの約20年にわたる米軍の任務が、新たな危険な段階に入った。バイデン政権は、条件や出口戦略を明確にすることなく、危険なイランの代理組織による攻撃が増加する中で、駐留を続けさせてきたと非難されている。
昨年のアフガニスタンからの悲惨な軍事撤退を実行したバイデン大統領は、数カ月前に、イラクでの米国の戦闘的役割は2021年末までに終わると宣言した。
米軍の任務は昨年12月に、過激派組織「イスラム国」(IS)残党との戦闘から、イラク軍への助言に正式に移行した。しかし、アナリストによれば、イラクに残るおよそ2500人の米軍は、特にイランの支援を受けた民兵からの脅威に直面しているという。
イスラム教シーア派が主体の民兵は、その多くがイランから直接、支援を受けており、ここ数カ月はますます予測不能で危険になってきている。その一方で、イラク政府内の民兵支援者らは、政府内での権力と影響力を維持しようと苦闘している。
今年に入ってからの2週間で、民兵は少なくとも4回の米軍施設や外交施設への攻撃を行った。その中には、15日のバグダッドの米大使館を標的としたロケット弾攻撃も含まれている。
イラクのシーア派民兵の中で最もよく知られているのはカタイブ・ヒズボラだ。米政府関係者によると、このグループは2021年を通じて、米軍関係者に対して定期的にドローンやロケット弾による攻撃を仕掛けてきた。
カタイブ・ヒズボラの昨夏の攻撃を受けて、バイデン氏はイラクとシリアの国境沿いにある民兵の施設に対して、少なくとも2回、米軍の報復空爆を命じた。
専門家らは、この報復攻撃は戦略的にはほとんど効果はなく、軍を危険な状況に追い込むと指摘。米国は依然、イラクとシリアで戦っており、バイデン政権は米軍をイランとの代理紛争に深く引きずり込もうとしていると非難している。
10代の反抗期
一部のアナリストらは、米軍に対するリスクは今年、さらに高まる可能性が高いと指摘する。イラクのシーア派民兵が、後ろ盾であるイランの考えとは無関係に、ますます自らの意思で行動するようになっているからだ。
カタイブ・ヒズボラなどの組織は、イランから資金的、軍事的に支援を受けているが、聖職者支配体制のイラン政府の意向とは無関係に、米国人に対する攻撃を強化する可能性がある。
ワシントン近東政策研究所のマイケル・ナイツ研究員は、「イラン人ですら、今の彼らにはいらだっている。命令に応じないからだ。子供の反抗期のようなものだ。イランが『米国人を無計画に殺すな』と言ったとしても、聞きはしない。したいと思うことは何でもやる」と述べた。ナイツ氏は、イラクの政治と国内で活動する民兵を詳細に追跡している。
イランの核開発を制限するための新たな合意を目指す米・イラン交渉が決裂した場合、さらに悪いシナリオが現実のものとなる可能性もある。その場合、イラン政府は、民兵組織に無制限の攻撃許可を与える可能性があり、ドローン攻撃や自爆テロなど、米国人を正面から狙った攻撃の波が押し寄せる可能性がある。
ナイツ氏は、「2022年に米イラン関係が非常に悪化すれば、わが軍の安全保障も悪化する。彼らは新しい兵器を使うかもしれない。これまでに見たことのないもの、われわれが準備できないようなものを使用するかもしれない。…それをしないのは、われわれを殺せば、反撃されることを知っているからだ」と述べた。
イラクの治安はますます不安定化している。11月、イラクのムスタファ・アルカディミ首相を標的とした武装ドローンによる暗殺未遂事件が起きた。カタイブ・ヒズボラや他のイラクのシーア派民兵は、このような攻撃を頻繁に行っている。
このような情勢の中で、危険にさらされながらイラクと隣国シリアへの駐留を続けることで米国は何が得られるのかという議論が国内で高まっている。バイデン政権が国防総省に課した使命は、かつて強大だったISの残党と戦う現地の治安部隊に助言し、訓練することだ。
それでも政権は、イラクにいる2500人の米軍とシリアにいる約1000人の米兵が攻撃された場合、誰であれ、反撃をちゅうちょしないことを明確にしている。
国防総省のジョン・カービー報道官は先週、記者団に「この地域で米軍が危険にさらされているのは明らかだ。われわれには常に自衛の権利がある」と述べた。
ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日の声明で、イランの代理組織が米軍兵士を殺害した場合、米国は迅速に立ち上がるとイランに警告した。
「国民の間で、政治に関して意見の相違はある。しかし、脅威や挑発行為に対する決意では一致している。私たちは、国民を守るために団結している。同盟国やパートナー国と協力し、イランによるいかなる攻撃も抑止し、対応する」
2018年にトランプ大統領がイラン核合意から離脱して以来、米国とイランの間の緊張は高まっている。2020年1月、米国の空爆により、イランのクッズ部隊トップのカセム・ソレイマニ司令官がカタイブ・ヒズボラのトップとともにバグダッドを訪問中に死亡し、緊張はさらに高まった。
力学の変化
国防総省とホワイトハウスは、米国がイラクとシリアのいずれからも軍を完全に撤退させることを目指していることを示唆しておらず、アフガニスタンからの完全撤退とは明確に区別している。
多くのアナリストらは、米軍は今後数年間、イラクとシリアに留まり、イラクの治安部隊や「シリア民主軍(SDF)」などのクルド人の同盟組織と緊密に協力し、ISの復活を防ぐだろうと述べている。
だが、米軍駐留の真の目的は、地域、特にイラクでのイランの影響力を制限することであり、イラク軍を守ることではないという批判がある。つまり、イラク政府と軍隊は米国の支援がなければ、崩壊し、あっという間にイランの完全な支配下に置かれることになる可能性があるものの、そのイラクを支えるために、米国人を危険にさらすのは愚かなことだということだ。
イラク戦争に従軍した海兵隊員ダン・コールドウェル氏は「イランの影響力は、2003年の米軍のイラク侵攻以来、着実に拡大している。2000年代半ばに15万人の兵力を増強したときも、イランの影響力を抑えたり後退させたりすることはできなかったし、数千人の兵力でそれができるはずもない」と言う。コールドウェル氏は現在、スタンド・トゥゲザーの外交政策担当副会長を務めている。
この非営利団体は、「繁栄のための米国人」「チャールズ・コック研究所」など、数多くの保守系団体と提携している。
コールドウェル氏は、米軍がイラクとシリアから撤退する時期はとっくに過ぎており、イランの影響力に対する戦いではすでに敗北していると述べた。
「本質的には、サダム・フセインを倒したときに、イランがこの戦いに勝利した。イランはイラクの隣国だ。彼らはイラクの治安部隊の中に深く入り込んでいる。イラク政府にスンニ派のバース党強硬派を再び据える気がない限り、イラクにおけるイランの影響力を大幅に後退させる機会はないだろう」
コールドウェル氏のように、米国はイラクから完全撤退すべきだと主張する人々は、イラクの治安部隊に訓練と装備を与えることは、ある意味で米国人を標的とするまさにそのグループを援助することになると言う。
実際、カタイブ・ヒズボラをはじめとするイランに支援されたイラクの組織は、イラク軍の正式な一部である人民動員軍(PMF)の一部でもある。
PMFは、イラクとシリアでISを倒し、「カリフ制国家」を制圧するための、米軍主導の戦いで大きな役割を果たした。
しかし、イラン政府とPMFのつながりは明らかだ。
ソレイマニを殺害した2020年1月の米軍の空爆は、アブ・マフディ・ムハンディスも殺害した。ムハンディスはカタイブ・ヒズボラを指揮するほか、PMFの副代表を務めていた。ソレイマニとアル・ムハンディスは、米国が攻撃したとき、バグダッドの主要空港付近を同じ車両で移動していた。
イランとPMFのつながりはまだ残っているが、イラン政府が代理民兵組織を直接支配する力は弱まったという分析もある。
ナイツ氏は、イラン政府は民兵に「表面的な」攻撃以上のことをさせたくないとみている。その理由は、イランが米国との全面衝突を望んでいないことと、イランの指導者が米国と進行中の核協議で制裁緩和やその他の譲歩を引き出すことをまだ望んでいることだ。
ナイツ氏は、国防総省はイラク治安部隊の訓練と支援任務について極めて慎重であり、米軍を標的にする可能性のある民兵には米国の援助は一切流れていないと述べた。
一方、カタイブ・ヒズボラやイラク内の関連グループの政治基盤は崩れ始めている。
昨年秋のイラク議会選挙では、イランの支援を受けた民兵組織とつながりのある政治団体「ファタハ同盟」が48議席中28議席を失った。この敗北は、民兵の政治的支持が過去数年に比べてはるかに弱まっていることを意味するが、新しい政治力学が米軍とその安全保障に何を意味するかは不明だ。
ナイツ氏は、「イラクがこれほどまでに民兵と対抗するリスクをあえて負おうとするのをこれまで見たことがない。今ほど民兵が孤立しているのを見たことがない。…イラクで敵は台頭していない。勢力は弱まっている」と述べた。