正恩氏、「戦勝記念日」前にロシア派兵の見返り要求か

(2025年4月12日)

2024年6月19日、平壌郊外の平壌順安国際空港で会談するロシアのプーチン大統領(右)と北朝鮮の金正恩委員長。(Gavriil Grigorov, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP)。

By Andrew Salmon – The Washington Times – Tuesday, April 8, 2025

 【ソウル(韓国)】北朝鮮の金正恩総書記は、ウクライナ戦争で犠牲になった兵士への見返りをロシアのプーチン大統領に求めている。

 韓国の防衛専門家ド・ジンホ氏はソウルで外国記者団に、朝鮮半島沖で最近実施された韓米軍事演習にロシア軍機が接近し、ロシア政府の幹部2人が北朝鮮を訪問したのは、北朝鮮の軍需品や兵力の供給に対する見返りの一部である可能性が高いと語った。

 国営の韓国国防分析研究所の世界戦略部門を率いるド氏は、5月9日ごろに金氏がロシアを訪問すると予想している。

 ロシアと北朝鮮間の正式な二国間同盟は、CRINK(中国、ロシア、イラン、北朝鮮の権威主義国家による同盟)の中で特に目立っているが、4カ国がどの程度の協力関係にあるかははっきりしていない。

 北朝鮮はロシアに、ウクライナとの戦いのために数百万発の砲弾と戦術ロケット弾を供給したと推定されている。イランもロシアに武器、特に無人攻撃機を供給している。

 昨年、金氏とプーチン氏は、相互防衛条項を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名した。その後、北朝鮮は、8月にウクライナがロシアのクルスク州に突入したことを受けて、軍隊を派遣し、ウクライナとの戦闘に参加した唯一の国となった。

 昨年10月には1万1000~1万3000人の精鋭部隊が派遣され、1月には約3000人が追加派遣された。死傷者は5000人に上ると推定されている。

 両国は陸続きの国境を共有し、閉鎖的な国家であるため、情報収集は難航している。ロシアがどのように、何をもって平壌に見返りを与えるつもりなのか、さまざまな分析がなされている。

米韓への挑発

 3月14日、ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が北朝鮮を訪問し、会談を行った。一部アナリストは白熱した議論が交わされたとみている。

 ド氏は「(ルデンコ氏の訪朝は)過去の会談ほど、友好的な雰囲気ではなかったと思う。北朝鮮はこの会談でロシアへの不満を表明し、ロシア大使館が今後の対応を提言したのだと思う」と述べた。

 ロシアは行動を起こした可能性がある。

 3月15日、ロシアの軍用機が韓国の防空識別圏(ADIZ)に8回侵入した。これは過去最多という。これを受けて、韓国軍機は緊急発進を余儀なくされた。

 世界的に認められた主権空域とは異なり、ADIZに国際法上の根拠はない。しかし、複数の国が、国の安全を守るためにADIZを監視することを宣言している。

 一連の空での駆け引きは、3月10日から20日にかけて行われた韓米合同軍事演習「フリーダムシールド(自由の盾)」で発生した。

 ロシア国家安全保障会議のセルゲイ・ショイグ書記は21日、北朝鮮に到着した。

 西側メディアは、ショイグ氏が2024年5月に国防相を解任されたのは、ウクライナでのロシアの軍事的失態による降格だと解釈しているが、ロンドンを拠点とするあるロシア専門家は、それは事実ではないとワシントン・タイムズに語った。

 この専門家は、ショイグ氏はプーチン氏の長年の腹心として、敵対行為と制裁の中で、軍産複合体の持続可能性を確保するという重要な役割を担っていると指摘した。

 ド氏は「ショイグ氏はフリーダムシールドの直後に特使として派遣され、紛争が生じた場合の北朝鮮支援の約束を再確認した。もちろん、米国を刺激することを避け、韓国との関係を維持するために、訪問のタイミングは慎重に調整された」

 また、ショイグ氏は北訪問で3つの任務を負っていたとの見方を示した。北朝鮮に感謝の意を表すこと、2024年合意の重要性を再確認すること、そして金氏をロシアに招待することだ。

 ド氏は、金氏は3つの不満を持っていると考えている。派遣部隊に対するロシアからの補償の遅れ、ウクライナに拘束された2人の北朝鮮兵に対するロシアの消極的な姿勢、トランプ政権との交渉に関するロシアの戦略的コミュニケーションの欠如だ。

 ウクライナに捕らえられた2人の北朝鮮兵は、ウクライナとロシアの間で定期的に交渉されている捕虜交換に組み込まれておらず、韓国に亡命する可能性がある。

戦勝記念日に訪問か

 ド氏は、ウクライナとの紛争終結後、「政治的利害関係」を得るために、金氏が部隊派遣を継続するとみている。

 北朝鮮軍総参謀部副参謀長、陸軍作戦部長、北朝鮮の諜報・破壊工作部門である偵察総局司令官はロシアに残っている。

 北朝鮮は多くの死傷者を出している。言語の壁、指針の違いのため、ロシアの装甲車、火砲、航空戦力、無人機を効果的に使用し、作戦を行うことができない。また、歩兵は支援を受けずに突撃しており、戦場でリスクの高い役割を担っている。

 一方で北朝鮮兵は、部隊の強い結束と高い士気を維持しながら、強靭な体力と高度な射撃技術を戦場で発揮している。

 ド氏は「金氏は交渉の切り札として兵士のレベルを利用しているのだと思う。ロシアの反応を見ているのだろう。…派兵と兵士の損失に対して十分な補償を提供するかどうかを見ているのだと思う」

 ド氏は、5月9日までに予備的な話し合いが行われると考えている。

 ロシアの戦勝記念日に当たるこの日は、欧州では第2次世界大戦の終結を記念する日であり、今年は特別な意味を持つ。終戦80周年にあたるからだ。

 それでもド氏は、金氏がクレムリンでプーチン氏と一緒に演台に立つとは考えていない。中国の習近平国家主席ら他の国の首脳の参加が予定されているからだ。

 ド氏は「金正恩氏は多国間の首脳会議に出席したことがない。そのための備えができていないからだ」と述べた。

 北朝鮮軍は5月9日に「赤の広場」でロシア軍と行進する可能性があるが、ド氏は、プーチン、金両氏が戦勝記念日の前後に関係を強化し、合意に調印するだろうとみている。

 ロシア経済の主要な強みであり、北朝鮮にとっては大きな弱点である石油と穀物の供給に加えて、ロシアは北朝鮮の衛星と防空技術の強化を支援する可能性もあるとド氏は指摘した。

 ロシアが供与するかもしれない装備として、軍用機と水上艦があるとド氏は述べた。 北朝鮮の空軍と海軍は旧式だからだ。

 ド氏は、ロシアが北朝鮮の大量破壊兵器の強化を支援するとは思っていない。

 ロシアが北朝鮮の大量破壊兵器を改良することは、これらの兵器の標的である米国を激怒させ、北朝鮮に戦略的独立性を与え、ロシアの影響力を低下させる可能性がある。

 ロシアが何を提供するかにかかわらず、1953年から昨年まで、大きな紛争を戦ったことのない北朝鮮の軍隊は、千年に一度といわれる戦闘に参加することで利益を得る可能性が高い。

 ド氏は「4月4日、金総書記は特殊部隊を現地指導し、変化する状況に合わせて戦術と能力を強化しなければならないと述べた。北朝鮮の兵士たちは現場で近代戦を学んでいる」と述べた。

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