シリアでISIS指導者を殺害した作戦、アフガニスタンではほぼ不可能

(2022年2月13日)

国防総省が提供し、2022年2月3日に公開された映像からの画像で、シリア北西部のイドリブ県で「イスラム国グループ」の指導者であるアブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クレイシが死亡した襲撃前の屋敷の様子。米政府関係者によると、世界で最も指名手配されているテロリストの1人である過激派指導者は、米軍の精鋭部隊による夜間の襲撃の際に爆弾を爆発させ、自身と家族のメンバーを殺害したとのこと。(AP通信による国防総省)

By Ben Wolfgang – The Washington Times – Thursday, February 10, 2022

 それはイスラム過激勢力と闘ってきた米国にとって重要な戦果だった。先週、米国特殊部隊はシリア国境の町で大胆な襲撃作戦を実施し、イスラム国の指導者アブイブラヒム・アルハシミ・アルクレイシを殺害した。その作戦は今のアフガニスタンでやり遂げるのは事実上無理なものだった。

 専門家によれば、今回シリアのイドリブ県で実行したアルクレイシ関連の任務成功は、皮肉なことだが、今も不安定なアフガニスタンで拡大するテロの脅威に米国が対処するのに、何が必要なのかを浮き彫りにした。

 西側の軍隊は、20年におよぶ対テロ戦争の末、昨年夏、アフガニスタンから撤収した。国防総省幹部の無言の抵抗と、テロ対策専門家らの公然の反対にもかかわらず、バイデン大統領は撤退計画を推し進めた。アフガニスタンと周辺諸国で過激派に対峙するには、アフガニスタン国内に米軍を留める必要がある、との警告を押し切った形だった。

 その以来、危険度の高い地上任務は、基本的にアフガニスタン関連の作戦から除外されてきた。例えば2019年にISISの指導者・アブバクル・アルバグダディを死亡させ、2011年にアルカイダの指導者・オサマ・ビンラーディンを殺害し、今回のアルクレイシ作戦をふくめて、いずれも米軍は当事国または近隣国から発進して、迅速な作戦行動が可能だったから成功したものだ。

 この点について米高官はアフガン撤退に当たり、国境の外からテロの脅威を監視・排除する、と説明していた。しかし現実には、首都カブールの郊外やカンダハールに潜むアルカイダやISIS指導部に対応できる能力には限界がある。

 「米国はシリアでアルクレイシを殺害したような攻撃作戦を、アフガニスタンで実行するのはできない相談だ。艦上から発進は可能だが、アフガニスタンに最も近い米軍の拠点は、アラブ首長国連邦のアルダフラ空軍基地で、カブールから600マイル以上も離れていて、往復1,400マイル以上となれば米軍ヘリコプターの限界を超えているからだ」、保守派のシンクタンク・ヘリテージ財団の国防センター所長を務める退役陸軍中尉トム・スポア氏は指摘した。

 米国は無人ドローンを使って、アフガニスタン内のテロリスト標的を攻撃可能だ。しかし米軍機の移動距離と、リアルタイムで情報提供する地上任務の人員不足を考えると、国境の外からの任務は困難だ。そうした任務は、民間人の死傷者を増やす恐れが大だ。このためバイデン政府は、今回のアルクレイシ作戦を拠点への空からの攻撃ではなく、地上からの襲撃を選択した。

 内政上いくつかの困難に直面しているバイデン大統領にとって、アルクレイシ作戦の成功は外交政策上の勝利、とも言えよう。しかし合衆国議会の政敵には、大統領在任中の致命的な政策ミスと言うしかないアフガニスタン撤退の傷に塩を擦り込む材料を与えたようだ。

 上院軍事委員会の幹部の一人、ジェームズ・M・インホーフ上院議員(オクラホマ州、共和党)は今週、ワシントンタイムズに次のように語った。「(今の米国に)対テロ計画はないし、現場に信頼できるパートナーや情報収集能力もない。シリアと違って、近くの基地や備蓄もない」「結果としてアフガニスタンでは、アルクレイシを葬り去ったような作戦遂行は極めて難しく、これが、最後の米軍部隊がアフガニスタンを去って以来、同国内で空からの攻撃が見られなかった一つの理由だ。」

 テロ対策にドローンを偏重することには欠点もある。スポア将軍によれば、米国がカブール市外にテロリストの標的を特定できた場合、ヘルファイア・ミサイルを搭載したMQ-9リーパー・ドローンを発射するのが最善の選択肢だという。しかし、こうした最先端の航空機でも、アフガニスタンに到達するのに最低数時間は必要であり、当該の地上に諜報関連の資産がないため、標的が依然として現場にいるのか否かを確認するのが難しいという。

 それでも有人ミッションより利点が多い。戦闘機や爆撃機を利用した有人作戦では、「航空機から脱出する羽目になったパイロットの身柄回復が難しい」からだ、スポア将軍は指摘した。

資材重視の作戦行動

 国防総省のある当局者は、アフガニスタンで対テロ作戦を展開することが如何に難しいかを率直に認めた。アフガニスタンはタリバンによる第二弾の支配下で、再び過激主義の世界的な震源地になろうとしている。

 中東を担当する米中央軍の次の司令官に指名されているマイケル・エリック・クリラ陸軍中将は今週、テロリスト標的を国境の外から攻撃することは「困難だが、不可能ではない」と議員たちに語った。同将軍は、アフガニスタンのような内陸国の特殊事情を明らかにした。つまり米国は近隣諸国の領空を飛行する権利を確保しなければならず、それを常に得られるとは限らないことだ。仮にそうした協力を得られても、長距離飛行はやはり大きな頭痛の種なのだ。

 「目的地を往復するだけで約3分の2の時間を費やさなければならない」、クリラ将軍は上院軍事委員会の指名聴聞会で語った。「標的を捕捉し調整して実行するまでに、多大な資源や機材を費やすことになる。」

 イラクとシリアに米軍部隊を継続的に駐屯させることには、合衆国議会の左右両派から反対がある。しかし、この両国に軍隊・装備・施設があったことで、米国がアルクレイシ襲撃を迅速に着手できたのは間違いない。シリアに米軍が駐屯したおかげで、シリア領内でのISIS標的に関する情報収集に不可欠だったクルド人主導のシリア民主軍と緊密な協力関係を作り出すことができた。だが米国はアフガニスタンに、そうした能力を保持しておらず、タリバン中枢に辛うじて連絡をとれる程度だ。

 「ある国でドローン攻撃をするには、諜報機能が不可欠だ」、トランプ政権で国務省テロ対策調整官を務めたネイサン・セイルズ氏は水曜日、上院司法委員会の公聴会で語った。「自らの生命を危険にさらすかも知れない情報を、米国に伝えてくれる人的情報源を現地に持つ必要があったが、米国が背後にいると了解して、積極的に協力してくれた。」「(アフガニスタンには)もう、そうした人的資産はない。」

 地上部隊が支援してくれたとしても、ドローン攻撃はしばしば巻き添え被害をもたらす。昨年8月撤退の混乱のさ中、ISIS工作員を標的にした米軍のよるドローン攻撃について、米軍当局による長期調査の結果、標的ではなく、7人の子供をふくむ民間人10人を殺害した、と結論付けている。

 この事件をきっかけに、ロイド・オースティン国防長官は先月末、民間人の死傷者を防ぐための包括的計画に着手したばかりだ。

 バイデン大統領が今回のアルクレイシの隠れ家に対する航空作戦に反対した主な理由は、そうした死傷者を防ぐためだった。国防総省によると、無関係の女性・子供たちも付近にいたが、米軍によって殺傷・拘束されたのではなく、アルクレイシ本人が爆発物を起爆させた際に死亡したものだという。

トランプ次期政権の中東戦略の鍵サウジ イランが障害に

(2024年12月08日)

ノートルダム再開式典にトランプ氏招待 バイデン時代の終わり

(2024年12月06日)

トランプ大統領、北朝鮮の核保有容認も 韓国には大きな衝撃

(2024年12月02日)

トランプ関税は自動車部門に深刻な打撃 メキシコが警告

(2024年11月30日)

日韓歴史問題が再燃 佐渡追悼式典巡リ誤報

(2024年11月28日)

トランプ氏再選で日韓に緊張感

(2024年11月23日)

トランプ氏再登板は東南アジア各国に利益

(2024年11月15日)

中国国営メディア、米民主主義を批判 マルクス主義推進の一環か

(2024年11月11日)

賭けに出る北朝鮮 米国の影響力は低下-ギングリッチ元下院議長

(2024年11月06日)

イラン・ロシア、大統領選後の米社会分断を画策か

(2024年10月24日)
→その他のニュース