核恐怖時代へ舞い戻る

(2022年5月11日)

ウクライナと核兵器に関するイラスト(Alexander Hunter/The Washington Times)

By Editorial Board – The Washington Times – Wednesday, May 4, 2022

 バイデン大統領は、米国を「可能性」のひと言で定義できると言っている(訳注:彼は2020年11月4日、大統領選の勝利演説を同様の趣旨の言葉で結んだ)。新型コロナウイルス感染拡大が沈静化するにつれて、過去2年間、致死的な病気にかかる可能性について思い悩んでいた米国人は、今度は、核攻撃で吹き飛ばされるかもしれないという別の恐怖に直面している。悲しいかな、これまで考えることもできなかったことが、深い恐怖の中から現れている。

 ウクライナへのロシアの戦争は、歴史上のドキュメンタリーや、ハリウッドの世界大戦の描写でしか見られないような規模で、荒廃の映像を見せつけている。紛争が長引く中、せっかちなロシアのプーチン大統領は、核カードを切ることを選んだ。彼は先週の水曜日に、サンクトペテルブルクで「もしも、誰かが外部から、現在進行中の出来事に介入し、私たちに受け入れ難い、ロシアにとっての戦略的脅威を生じさせるつもりなら、そういう連中は、私たちの報復攻撃が直ちに実施されるであろうことを知っておくべきだ」と言った。この発言に先立ち、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)のテスト発射が行われた。

 ウォレス英国防相は木曜日に、「私たちは、強力な軍隊と核抑止力を有しており、彼より多くの兵器を持ち、数の上で勝り、すべての能力を私たちが自由に使える30カ国から成る北大西洋条約機構(NATO)構成国の一員である」と、きつく言い返した。

 その後、セス・クロプシー元海軍次官は金曜日に、ウォール・ストリート・ジャーナルで、プーチン氏が彼の脅しを実行したなら、米国が「ロシアの第2撃能力のバックボーンである核動力弾道ミサイル潜水艦を追い詰めて破壊するために、その海軍力を使う可能性がある」と論陣を張った。

 「ストレンジラブ博士(1964年のスタンリー・キューブリック監督による英米合作のブラックコメディー映画の主人公で、通常、比喩的に、核戦争を提唱する軍人または政治家の呼称に使われる)」は、ブラックコメディーで笑わせたが、ロシアはウクライナに対してボタンを押すと現実に脅しており、今は笑ってはいられない。20世紀の核の悪夢がこんなに突然、いかにして再来したのであろうか。

 プーチン氏の理解し難い侵攻という行動の前には、同じように理解し難い服従があり、昨年8月末には、バイデン氏がアフガニスタンからの行き当たりばったりの撤退があった。

 2月に、引き続いてウクライナ侵攻が始まるや、バイデン氏は遅ればせながら百八十度の方針転換をした。以来、彼は、劣勢のウクライナ人に向け、2度の8億㌦相当の武器弾薬の供与を行った。米軍の評判を取り繕う試みだが、いじめっ子にとっては最大の悪夢だ。木曜日に、大統領は議会にさらに330億㌦の支援予算を要求した。

 難事は時に技で、時に運で切り抜けられる。従って、装備が良く整い、頑強なウクライナはロシアと互角で戦えるかもしれない。しかし、ロシアの核兵器使用の引き金が引かれることがなくても、悲劇はすでに起きている。アフガニスタンで見せた米国の決意の揺らぎは、軍事的冒険主義再来の機が熟しつつある兆しを見せ、プーチン氏は、戦端を開いても良いと思ったのだ。

 いまさら後悔してもどうしようもないが、2020年の選挙を振り返ることはためになる。米国が衰退してもいいと思っている政党に支えられて、80歳代の入り口に近い大統領を選んだ弱みが、今や結晶化し、その結果が露呈している。

 米国人に考えにくいことを無理に考えるよう強いるリーダーをひと言で定義するなら「無能」だ。

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