移民バス輸送キャンペーンで国境をめぐる深い溝が露呈
By Stephen Dinan – The Washington Times – Sunday, September 18, 2022
今、移民問題ほど共和と民主の溝が深い問題はないかもしれないが、テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和)とシカゴのローリ・ライトフット市長(民主)との争いを見れば、それは一目瞭然だ。
アボット氏は11月の再選に向けて、移民問題への厳しい対応を掲げ、州警察、独自の国境の壁、民主党主導のワシントン、ニューヨーク、シカゴの各都市に移民を送り込むバス輸送キャンペーンで、バイデン大統領による国境の移民急増と闘っている。
2月に選挙に臨むライトフット氏は、アボット氏を非キリスト教的で「人種差別主義者」だと非難することで対抗したが、アボット氏が送ってくる新しい移民らを喜んで受け入れると述べた。
ライトフット氏はこの争いを選挙資金集めのためにも利用している。
選挙資金を求める支持者への電子メールで「この街にとって、今が正念場だ。アボット知事の差別的なやり方は許せないが、移民を両手を広げて迎え入れるだけの資源がある以上、追い返すつもりはない」と訴えた。
奇妙なことに、知事も市長もおそらく選挙に勝利する。
テキサス州の共和党戦略家、ブレンダン・スタインハウザー氏は、共和党主導のテキサス州では、国境警備は有権者の最重要課題であり、何年も前からそうだったと主張した。アボット氏の姿勢は、共和党員だけでなく、無党派層や、民主党に傾いていた可能性のある国境地域のヒスパニック系有権者にも効果的だ。
スタインハウザー氏は、「有権者の60%から支持されている。テキサスで過ごせば、この点について、少し安全保障の問題が重視されていることが分かるはずだ」と述べた。
イリノイ大学シカゴ校の政治学教授、ディック・シンプソン氏は、元テキサス州民として、この州が移民に関してすでにそこまで傾斜しているかどうかはよく分からないと語った。
その上でシンプソン氏は、ライトフット氏は、移民を引きつけてきた長い歴史を持つシカゴの有権者の鼓動を感じており、アボット氏のバス移民を受け入れることによって、シカゴのヒスパニック系有権者がライトフット氏を支援する可能性が高いとの見方を示した。
「全体的に、ライトフット市長のスタンスが支持されていると思う」
しかし、他の地域で移民問題がどのように位置づけられるかは、依然として不明確だ。
共和党の戦略家によれば、バス輸送キャンペーンの対象となる町の民主党議員からの抗議の声は逆効果であり、バイデン大統領の下で事態がいかに悪化したかを浮き彫りにしている。
民主党は、バス輸送キャンペーンは残酷であり、有権者は移民を利用した共和党を罰するだろうと反論している。
バイデン氏は15日、ヒスパニック系民主党員の集まりで、「彼らがやっていることは単純に間違っており、非アメリカ的で、無謀だ」と語った。
バイデン氏は、移民に関する議論は、どの程度寛容な態度を示すべきかを問うものだとし、不法滞在している数百万人の移民に市民権を与える法案を議会で取り上げるよう促した。
「今こそ、成し遂げるときだ。だからこそ、この中間選挙で勝たなければならない」
共和党は今年に入って、移民政策は中間選挙で民主党から議会を奪還するための重要な武器になると考えていた。戦略家らは、この問題を強く訴えるよう働き掛け、バイデン氏が不法な越境に寛大な姿勢を取ったことで混乱が生じたと訴えていた。
しかし、11月の選挙を前に選挙戦が大詰めを迎えている今、この問題がどれほどの力を秘めているかは定かでない。
共和党の指導者らは依然、国境の混乱を強調し続けているものの、もはや最重要課題の中には入れておらず、代わりにインフレ、政府支出、税制を挙げている。
国境問題が共和党の有権者を動かしていることは間違いない。しかし、それが共和党の枠を超えて重要な意味を持つかどうかは未知数だ。
移民の権利擁護団体「アメリカズ・ボイス」は、世論調査の結果、中絶など他の問題が移民問題より重視されていることが分かったと指摘している。
アメリカズ・ボイスはその上で、共和党はやり過ぎだと主張。
「移民問題は、一般投票の有権者にとって重要性を失ってはいるが、両党を分ける強力なポイントであることに変わりはない。移民問題に最も熱心なのはMAGA(米国を再び偉大に)の支持者だが、一般有権者の大多数はそのような過激派を拒絶している」と結論づけている。
アメリカズ・ボイスは、リベラル寄りのハート・リサーチ社とBSPリサーチ社が8月下旬に行ったある世論調査で、国境問題や移民問題全般について共和党が優位に立っていることを指摘した。議会の主導権をめぐる「激戦区」とされる州や議会の選挙区の有権者は、移民問題で48対40で共和党が優勢だった。
しかし、すでに米国に不法滞在している移民に対して寛容な態度をとる民主党と、移民の市民権取得に反対する共和党のどちらかを具体的に選択させると、この数字は逆転すると世論調査担当者は述べている。
スタインハウザー氏によれば、有権者は移民問題に関して二つの考えを持っているようだ。国境は管理されるべきだが、法律を破って入ってきた人々には寛大であろうとしている。
「私が見たあらゆるデータは、移民と国境警備に関して、実際には中間的な立場があることを示している。大量移民を防ぎ、誰がなぜ来るのかを理解させ、カルテルにわが国を荒らさせず、人道的で良識ある扱いをする、人道的な国境警備を望む人は全米に大勢いると思う」
再選を争う民主党の候補者らは、国境問題で右傾化している。
アリゾナ州はテキサス州と同様に国境の州であり、民主党のマーク・ケリー上院議員はバイデン政権にユマ付近のトランプ前大統領の国境の壁の一部を完成させるよう働きかけたことをアピールしている。バイデン氏は「もう1フィートも建設しない」という約束を撤回せざるを得なくなった。
また、ニューハンプシャー州は南部国境から遠く離れているが、民主党のマギー・ハッサン上院議員は春にアリゾナ州を訪れ、壁の前に立ってさらなる建設を促すビデオを録画した。
この行動は、同州のヒスパニック系民主党活動家から激しい非難を浴びた。
しかし、他の地域では、内陸部の強制執行に関して通常民主党の立場と考えられてきたものを、共和党が受け入れている。
ノースカロライナ州ウェーク郡では、共和党の保安官候補、ドニー・ハリソン氏が、同郡と移民税関捜査局(ICE)との間の協力協定を復活させないことを表明した。ハリソン氏はまた、ICEからの強制送還「拘束」要請には一切応じず、実質的な聖域を設置すると述べている。
ハリソン氏の立場は、彼が保安官で、ICEと協力協定を結んでいた4年前とは逆転しているだけに、なおさら驚きだ。彼は2018年の再選選挙で、協力協定の廃止を公約に掲げた民主党候補に敗れた。
ハリソン氏が立場を変える一方、ウェーク郡で先月、保安官代理が殺害されるという衝撃的な事件が起きた。この事件では、複数の移民が起訴されている。