不法移民急増で密入国費用が急騰
By Stephen Dinan – The Washington Times – Tuesday, September 27, 2022
ワシントン・タイムズの分析によると、米国とメキシコの国境での移民密入国ビジネスは今や200億ドルを超え、カルテルは不法移民が利用するルートを管理するだけで過去12カ月間に少なくとも26億ドルの利益を上げている。
この二つの数字はどちらも、トランプ政権時やオバマ政権時より大幅に増えているが、これは、国境にやってくる人々が増えているためと、これまでより高い料金を支払っているからだ。
ワシントン・タイムズの密入国事例のデータベースによると、メキシコの移民は今年、密入国に合計で平均8600ドルを支払っている。トランプ政権下の新型コロナウイルス大流行前の最後の年の2019年からおよそ2000ドルも上昇している。このデータによると、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラからの移民は約1万1500ドルを支払っており、2020年の9000ドル、2019年の7900ドルから上昇した。
これらの料金は、南部国境全域の平均値だ。テキサス州の一部ではもう少し安く、カリフォルニア州では少し高くなっている。
元国境警備隊長のロナルド・ビティエロ氏は、「この数字はインフレ圧力が反映されている。他の条件がすべて同じであっても、コストは上がる。人を雇い、ガソリン、物流など、いろいろなものが高くなっている」
バイデン政権発足から始まった移民の急増は、20カ月たった今でも続いている。これが、密入国を牛耳るカルテルの財布を太らせた。
その一つの目安になるのは、移民が米国へのルートを利用するためにカルテルに支払う費用、すなわち「ピソ」(文字通り税金)だ。トランプ時代の約850ドルから、50%以上アップしている。
国境警備隊は過去12カ月間、メキシコから密かに入国しようとした約220万人を摘発した。一度だけ料金を支払い、何度も密入国を試みた可能性のある人々を差し引き、拘束を逃れた「逃亡者」とみられる人々を加え、控えめに見積もって移民の90%がピソを支払うとすると、カルテルは越境料だけで過去1年間に26億ドルを儲けたことになる。
これは、密入国ルートの利用料だけで得られる利益であり、残りの部分、たとえば隠れ家の運営や徒歩でのガイド、運転手の手配などで得た資金が別にある。
ビティエロ氏は「彼らは金を刷っている」と言う。
元国土安全保障長官のチャド・ウルフ氏は、追加の資金が手に入るということは、あらゆる面で米国にとって悪いニュースだと指摘した。
ウルフ氏はワシントン・タイムズのポッドキャスト「ポリティカリー・アンステーブル」で、この資金は、人の命を奪うカルテルの別の活動の促進に利用されると述べた。例えば米国で過剰摂取による記録的な死者数を出している合成オピオイドのフェンタニルの生産と密輸などだ。
「すべて同じ取り組みだ。密入国で儲けた金、1人当たり1万ドルから1万2000ドルは、フェンタニルを中国から輸入するか、作るかして、米国内に持ち込むために使われている」
ビティエロ氏は、カルテルはバイデン大統領のもとで資金を獲得していると述べた。
「理性的に考えれば、いつまでも続くわけがないことは分かる。長くは続かないと分かっているため、移民が増加したこの機会を逃すまいとしている」
密入国経済全体の200億ドルには、移民が自国の募集担当者、米国境まで案内する者、徒歩やボートで国境を越えさせるガイド、米国側で彼らを保護する隠れ家の運営者、米国内部に連れていく運転手らに支払う資金が含まれている。
ホンジュラスやエルサルバドルの国内総生産は300億ドルにも満たない。
国境の独占
単純な需給曲線を描けば、料金は下落するはずである。移民が増えれば、密入国業者にとって供給量が増えることを意味する。
しかし、カルテルが独占していることを考慮する必要がある。カルテルは現場を支配し、麻薬や移民の密入国を含め、そこを通過するすべての活動を支配し、望む価格を設定している。
国境警備隊に長年勤務し、現在はテキサス大学エルパソ校で教鞭をとるビクター・マンジャレス氏によると、密入国業者らは基準を明らかにしているわけではないが、料金の決め方にはルールがあるという。
一般に、メキシコ出身者が最も安く、中米の北部三角地帯出身者は1人当たり数千ドル高くなる。
テキサス州ラレドでメキシコ人が越境する場合の相場は7400ドルで、2020年の約6400ドル、一昨年の5900ドルから上昇した。ホンジュラスやグアテマラから来て、ラレドで越境する場合は約1万ドルで、2019年の7700ドルから上昇した。
南米からでは2万ドル近くなり、北半球以外からではもっと高くなることもある。
料金には、他の要素も関わっている。
長く歩く気がある人は、低額になることが多いより。アリゾナ州の砂漠や南カリフォルニアのオタイマウンテンウィルダネスの荒野を5日間かけて歩けば、バスで国境まで行き、そこからすぐに車で北上するのに比べれば、何千ドルも安くなる。
トランクや改造したガスタンクに詰め込まれて、国境を越えたり、水上バイクの後ろに乗せられてカリフォルニア沿岸を走ったりすることもあるが、その場合はさらに高額となる。メキシコからの移民は、こうした旅に1万5000ドル以上を支払うこともある。中国からの移民は、旅費として5万ドル以上を支払ったと警官に話している。
マンジャレス氏は「どれだけ楽か、どのような移動手段を使うか、どれだけ早く行きたいかによって決まる」と言う。
マンジャレス氏によると、都市部からの裕福な移住者は、何日もかけて命がけで砂漠を駆け抜けるよりも、カネを払って、車のトランクの中で数時間、大変な不快感を味わう方を選ぶ。
密入国業者もまた、国境の新しい状況に適応している。バイデン政権が寛容であるため、メキシコよりさらに遠方からの不法移民の多くは捕まることを望んでいる。彼らは、すぐに釈放されると思っているが、たいていはその通りになる。
マンジャレス氏によると、密入国業者はバイデン政権の政策を利用する方法、例えば政治亡命の申請などをパッケージとして移民に指導しているという。
特にマンジャレス氏を悩ませているのは、平均年収が5000ドルの国から来た移民が、1万ドルの旅費を払おうとすることがどういう意味を持つかということだ。
「渡航者のほとんどは、その国で最も貧しい層の出身だ。そのため、料金は支払われるものの、搾取されることになる」
運のいい移民は米国にいる親戚に借りを作ることになり、運の悪い移民は密入国カルテルへの借りをどんな方法でも返済しなければならなくなる。
バイデン政権は、密入国ネットワークの危険性を認識し、リーダーを発見し逮捕するための大規模な取り組みを発表した。
今月行われた大規模な捜査で当局は、ラレド地域で活動し、移民を国境を越えてテキサス州、そしてサンアントニオまで運び、そこから国内各地の目的地へ運ぶ組織を発見したと発表した。
この組織は、1人当たり約8000ドルの料金を請求していた。裁判資料によると、移民はピックアップトラックに積んだスーツケースに詰め込まれて運ばれたり、空の水槽車の中に詰め込まれたり、平台のトレーラーに縛り付けられた木枠の中に閉じ込められたりしていた。
検察側は、この組織は「少なくとも数百万ドルの収益」を上げており、具体的には、230万ドルが密入国事業からの収益であることを突き止めたとしている。
国境警備の専門家は、こうした努力を評価しつつも、人の流れを阻止する政策の代わりにはならないとしている。
「国境は開かれている」
ワシントン・タイムズのデータベースは、目撃者、すなわち密入国した移民がいる国境密入国事件での、国境警備隊の捜査官、税関・国境取締局(CBP)職員、国土安全保障省の捜査官が提出した宣誓供述書を使用している。当局は、移民が支払う密入国費用を聞き出し、その情報を宣誓供述書に記載することが多い。
ワシントン・タイムズの計算は、その数字に基づいている。
9月13日にアリゾナ州の州間道10号線で国境警備隊に逮捕されたフアン・ホセ・レイエスマザリエゴスは捜査官に、移動のためにおよそ1万3000ドルを支払ったと話している。その内訳は、グアテマラから米国境までの移動費が5万グアテマラ・ケツァル(約6400ドル)、越境と密入国の料金が6000ドル、フェニックスからニューヨークへの移動費が700ドルとなっている。
メキシコ人のヘスス・イバン・ガルシアトレスは、小型ボートで国境を越えたが、ボートから投げ出され、カリフォルニア沖の海で引き揚げられた。12万ペソ、およそ6000ドルを密入国に支払ったと話しており、今週2回拘束されている。
先週、捜査官はグアテマラ人女性のデイリン・デニセル・サラザールエンリケスを、ラレド郊外の検問所を通過する際に捕らえた。彼女は捜査官に、ノースカロライナ州に密入国させるために家族が2万3千ドルを支払うと話している。
これは非常に高額だが、裁判資料では、その理由は明らかにされていない。
ワシントン・タイムズは、過去12カ月間に国境警備隊に逮捕された人の総数をもとに、再犯者や捕まっていない逃亡犯の数を調整して、カルテルの収入を算出した。
ワシントン・タイムズの計算では、移民の90%が犯罪組織に料金を支払っている。100%に近いという専門家もいれば、デルリオ地区のカルテルがピソを請求しないこともあり、もっと低いと言う専門家もいる。
これらを合わせると、12カ月間で200万件強の支払いとなる。1回あたり1300ドルとすると、26億ドルになる。
密入国の正確な規模を把握するのは難しいが、ワシントン・タイムズはデータから大まかな概算を出した。今年、国境警備隊が捕らえた不法移民のうち、約34%がメキシコ人、24%がホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル出身で、残りはその他の出身者である。
メキシコ人の平均支払い率をもとに計算すると、ざっとみて60億ドルになる。中米は56億ドルだ。
データベースには、他の国籍の人々のデータが十分になく、国土安全保障省はこれらの国籍の人々の不法滞在の全容に関する詳細なデータを公表していない。
仮に彼らが中米からの人々と同じ料金を支払っていると仮定すると(低く見積もられているようだ)、さらに95億ドルかかることになる。
つまり、密入国者の手数料は合計で約200億ドルにもなる。
テキサス州ブルックス郡の保安官、ウルビノ・ベニー・マルティネス氏は、これらの数字はカマラ・ハリス副大統領の「国境は安全」という主張とは一致しない。
「国境は開かれており、越境は増えている。カルテルはそれを利用しているだけだ」
カルテルが潤うのは、資金だけではない。
専門家によれば、カルテルは国境環境のあらゆる面をコントロールしており、米国はこれに対応しているのが現状だ。
カルテルは誰がどこを通過するかを決定し、そちらに注意を向けさせる。国境警備隊の注意を移民に集中させ、より価値のある貨物、つまり麻薬やより価値の高い人々は別の場所から越境させる。
ビティエロ氏は、そのため、カルテルの資金力が増大し、より厄介なことになっていると指摘した。
「カルテルにメキシコをさらに不安定化できる力を持たせることになる。彼らのビジネスモデルについても論じられている。米国内での需要や合法化、非犯罪化が盛んに話し合われている。国境を越えることについて国の方針を変えたとしよう。こんな儲け話があるのにほかのことをするわけはないだろう」