地震被害のシリア、IS復活懸念で引くに引けない米軍
By Ben Wolfgang – The Washington Times – Thursday, March 2, 2023
シリアでは2011年に発生した反政府デモと激しい弾圧の開始後、虐殺が横行、政治は機能せず、「イスラム国」(IS)など過激派組織の復活が懸念されるなど、不安定な状態が続いている。2月に発生した大地震で国内の情勢はさらに不安定化、米国も手を引くに引けない状態が続いている。
米政府はこの10年間、情勢悪化を抑えるために尽力してきた。地域の軍事、政治、人権、さらには米国の安全保障にも影響が及ぶからだ。
現在、駐留している米兵は900人程度、ロシアとイランの支援を受けたアサド政権が、反政府組織、クルド人、過激派組織「イスラム国」(IS)、国際テロ組織アルカイダと対峙している。
内戦の勃発後、米国は反政府組織を支援したが、政府は存続。アナリストらは、暴力や貧困に対処する包括的な取り組みが必要だと指摘する。アサド政権が権力を維持しているものの国内は分断され、クルド人勢力の支配地が拡大している。
さらに、国内の荒廃とともに麻薬の取引が横行しており、国家の荒廃、国民生活の悪化につながっている。
アナリストらは、シリアと完全に関係を絶つことはあり得ないと主張する。限定的な軍事プレゼンスと外交的な関与を維持することが、シリアがアフリカのソマリアのような過激派の温床となることを防止する唯一の方法だからだ。
米シンクタンク「中東研究所」のチャールズ・リスター氏は、米国が手を引けば「国内は取り返しのつかない困難に陥る」と指摘する。
「全土で各勢力が衝突するあらゆる要素がそろっている。最悪のシリオはISだ。米国の撤退を何より望んでいる」
「シリアはすでに、中東のソマリア、北朝鮮になろうとしている。国内は完全に破壊され、さまざまな武装勢力、腐敗した政府、テロ組織によって支配、分断され、麻薬、兵器の取引が横行、国民は抑圧され、言論の自由はない」
米軍は、クルド人組織「クルド民主軍(SDF)」を支援し、IS掃討に取り組んできた。現在は900人ほどが駐留している。
米国でも駐留の是非は議論され、トランプ前政権は2度、完全撤退を試みたが、実現しなかった。
米軍幹部らは、小規模の米軍とSDFによるテロ対策で、ISの台頭を抑えていることを強調するものの、長期的なシナリオは描かれていない。
バイデン米政権は、人道支援を実施し、アサド政権と反政府組織の間の休戦につなげたい意向だ。
国家安全保障会議(NSC)報道官はワシントン・タイムズに対し、「シリアでの戦略は現実的で、実務的で、野心的だ。シリア情勢は完全とは程遠く、だからこそ米国は関与を続けている。軍はシリアにとどまり、中東、欧州、米州を再び脅かすことのないようIS掃討作戦に協力している。外交では、全土での人道支援の強化、暴力の抑制に取り組み、アサド政権の暴虐を追求している」
ところが、中東地域の米国の同盟国は、アサド政権に対する強硬姿勢を緩和させ始めている。
シリアの反政府運動を支援し、アサド大統領を孤立化させようとしていたサウジアラビアのファイサル外相は2月のミュンヘン安全保障会議で、アラブ世界は「(シリア情勢が)現状ではうまくいかないことで一致している」と述べた。
喫緊の課題としては、地震被害がある。シリアで約6000人、トルコでは4万4000人が死亡、国連は、3億9700万ドルのシリアへの緊急支援を要請しているものの、被災地の大部分が北西部の反政府勢力の支配地にあり、支援が届きにくい。
しかも、支援金が被災地に届く前に政権によって抜かれてしまう可能性もある。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の上級研究員マイケル・ルービン氏は、「アサドが復興支援から利益を受けないようにすることが重要だ。殺人に補助金を出すのと同じことになる」と主張した。
リスター氏は、バイデン政権のシリア政策は、展望がなく、小規模で「持続性がない」と指摘。「外から見れば、何もしていないようにみえる。そうして空いた空間に、他国の政府が入り込み、チャンスを狙っている」と主張した。
アサド政権が10年を超える内戦を乗り越えてきた一因は、イランとロシアと支援だ。
その上に既にシリアが孤立から脱する兆候が出ている。
エジプトのシュクリ外相が2月末にシリアを訪問した。シリアで内戦が始まり、11年にアラブ連盟から除名されて以来初めてのことだ。シュクリ氏はアサド大統領と会談し、訪問の目的は地震被害に対する「人道支援」としたものの、アナリストらは、アサド政権の孤立化、転覆を狙う米国の戦略が難しくなっている兆候と指摘した。
デンバー大学中東研究センターのルイダー・ハシェミ所長は、支援を巡り関係を築くことは「関係改善、アサド政権の勢力の回復を巡る政治的対話」につながると主張する。
さらに、国内の武装勢力の存在が事態を複雑にしている。イランの支援を受けるカタイブ・ヒズボラ、カタイブ・サイード・シュハダはシリア内に拠点を築き、駐留米軍、隣国イラクへの攻撃を行っている。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」もシリア内で活動し、戦闘の経験を積んでいる。
さらに長期的な問題としてとらえられているのはISの存在だ。
シリア北東部の難民キャンプ、アルホルには多くの子供を含む何万人もの難民が住んでいる。米中央軍のクリラ司令官は昨年のIS掃討作戦に関する報告で、「イラクとシリアの収容施設には文字通りの『IS軍』がいる」と指摘している。
「シリア全域の施設には1万人以上のIS戦闘員、幹部らが収容されている。イラクでは2万人を超える」
「次世代のISが誕生する可能性もある。危険にさらされているアルホルキャンプの2万5000人を超える子供だ。ISの勢力回復のための主要ターゲットとなっている。国際社会は、キャンプの環境を改善するとともに、子供を出身国や地元に返すために協力すべきだ」
難民キャンプ、収容施設は米国と同盟国にとって難しい課題となっている。22年にはハサカの収容施設で暴動が起き、戦闘で400人超のIS戦闘員と100人超のSDFのメンバーが死亡した。
リスター氏は「現在戦争が起きている地域の施設に、世界約60カ国の5万6000人の女性と子供、1万人の男性が拘束されている。キューバの(グアンタナモのような)孤立した島ではない」と指摘、「その問題の規模と影響については政府の誰も認識していないと思う」と警鐘を鳴らした。