台湾駐米代表、中国の脅威に非対称兵器で対抗
By Bill Gertz and Guy Taylor – The Washington Times – Tuesday, May 9, 2023
台湾の民主主義は、中国からの軍事的脅威と「グレーゾーン」情報戦の両方に直面しており、自衛のために非対称兵器を採用する―台湾の駐米代表はインタビューでこう語った。
台湾の蕭美琴駐米代表(大使に相当)は、米国の投資家ウォーレン・バフェット氏が、中国の脅威によって、台湾はビジネスを行う上でますます危険な場所となりつつあると主張したことに異議を唱えた。
蕭氏は9日、ワシントン北西部にある約7万3000平方メートルの公邸、ツインオークスで、ワシントン・タイムズとのインタビューに応え、「台湾は、世界で最も安全で信頼できるビジネスの場の一つであり続ける」と訴えた。
「私たちは、世界の繁栄に欠かせない、かけがえのない存在であり続けるために技術を発展させ、繁栄を築いてきた。私たちは現状維持に努め、この地域の平和と安定の崩壊を防ぐことに努める」
投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOであるバフェット氏は最近、同社の株主を前に、台湾をめぐる地政学的緊張が高まっており、そのため、テクノロジー経済の最も重要な分野の一つである半導体の製造で世界のリーダーとして認められている台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の40億ドルを超える保有株式の86%を売却したことを明らかにした。
バフェット氏はバークシャーの年次総会で、TSMCは「素晴らしい会社だ」と指摘したうえで、「台湾よりも日本に投資した方が、安心感がある。…それが現実だ」と述べた。
インテルのCEO、パトリック・ゲルシンガー氏も、数カ月前に同様の懸念を表明していた。同氏は、TSMCが製造している部品は非常に重要であり、供給元をもっと多様化すべきだと述べた。TSMCは、世界中で無数のハイテク機器に使用されている高度なマイクロチップの60%以上を製造している。
ゲルシンガー氏「台湾はテクノロジーのサプライチェーン(供給網)にとって非常に重要な役割を担っているが、不安定な状態にある」と述べている。
地元メディアによると、台湾の林全能・経済部次長が8日、立法院で、「政府は、台湾が安定していて安全であることを世界に知らせるために最大限の努力をする」と述べた。
台湾と中国の緊張は、中国の習近平国家主席が、今後数年間で、必要であれば軍事力を行使して、台湾を支配すると宣言したため急激に高まった。バイデン政権は、紛争への懸念を払拭しようとしている。高官らも、戦争が差し迫っているわけでも、避けられないわけでもないと主張している。
米軍インド太平洋軍の2人の司令官(現在のジョン・アキリーノ大将とその前任者フィリップ・デビッドソン大将)は議会証言で、中国軍は2027年までに台湾への攻撃を準備していると警告している。
アブリル・ヘインズ国家情報長官は、先週行われた上院の公聴会で戦争への懸念を口にした。国家情報長官室は、中国と米国の「不必要な戦争」について「強く懸念している」と述べた。
中国の意図
米国で教育を受けた外交官で、独立派の与党・民主進歩党の蕭氏は、中国の軍事行動の時期に関してさまざまな見方があることについてコメントを避けた。
「なぜなら、私たちが行っていることは、時期に関係なく、力を付け、紛争を未然に防ぎ、抑止することができるようにすることだからだ」
蕭氏はさらに、中国は長期的な計画を明確にしていると述べた。
「中国共産党は、そのことをかなり明確にしていると思っている。どの程度の能力を持つかについてはさまざまな見方がある」
統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将は、フォーリン・アフェアーズ誌とのインタビューで、中国軍が幅100マイル(約160キロ)の台湾海峡を越えて部隊や兵力を送り込み、上陸作戦を遂行する能力を持っているかどうかについて疑問視している。また、台湾の山岳地帯は、台湾に入った中国軍にとって難題となるだろうと述べている。
戦争を回避するために
蕭氏は、台湾は米国や地域のパートナーと協力して、戦争を回避するために努力していると述べた。
「ウクライナでの残虐行為は、私たちの住む地域で同じことを繰り返してはいけないということを思い起こさせるものだと思っている」
また、台湾は常に中国との対話を望んでいるが、中国はそれに応えようとしないと強調した。そのため、台湾は防衛力を強化するための投資を続けている。
蕭氏は、米国が台湾への供与を約束した約190億ドル相当の兵器の受領が遅れていることについての質問に、米国での兵器生産とサプライチェーンの問題により、必要な兵器の納入が制限されていると述べた。台湾を支持する共和、民主両党の議員らは、バイデン政権に供与の促進を迫っている。ホワイトハウスは、兵器納入を早めるために大統領令を出す予定だと伝えられている。
蕭氏は、「この問題に関して、いくつかの進歩が見え始めている」と述べた。
台湾では、徴兵制が拡大され、すべての青年がこれまでの4カ月から1年間、軍事訓練を受けることを義務付けられるようになった。
蕭氏は、「社会のすべての若者に、青春の1年間を軍隊で過ごすことを要求するとなると、それは大変なことだ」と徴兵制拡大が難しい政治的決断だったことを明らかにした。
1年間の軍事訓練は、台湾がいかに真剣に国土防衛に力を入れているかの表れだと蕭氏は言う。最近の世論調査では、85%の国民がこの徴兵制拡大を支持している。
蕭氏によると、中国は米国の政治指導者と台湾の蔡英文総統との2回の会談を口実に、台湾周辺での挑発的な軍事活動を活発化させた。2022年8月にナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問した際に猛反発、先月、蔡氏がカリフォルニア州でケビン・マッカーシー現下院議長と会談した際にも抗議した。
国防当局者らは、これらの中国の大規模軍事演習は、台湾に対する軍事作戦のリハーサルとみている。
蕭氏によると、台湾はまた、圧倒的に軍事力で勝る敵対国に対する非対称戦争戦略の一環として、高価な軍事装備品の購入を見直し、特殊な武器や能力を優先することを米当局者らと協議しているという。台湾は防衛力を強化するため、F16戦闘機を追加購入し、潜水艦を建造している。
非対称兵器には、無人攻撃機、機雷、対艦ミサイル、サイバー戦能力、宇宙兵器などが含まれる可能性がある。これらの兵器によって、軍事的に弱い国家が強い敵から自国を防衛することが可能になるとみられている。
蕭氏は、「私たちは、将来の非対称兵器の調達を優先するということで一致している。その中には、ウクライナで非常に有効であることが証明されているものもあり、私たちもそれを目指している」と述べた。
蕭氏は、台湾は中国との対立について創造的である必要があると言う。
「中国と軍拡競争をするつもりはないし、海軍の規模で対等になろうなどと考えてはいない」。中国海軍は現在、艦艇の数で世界一だ。
蕭氏は、米国の技術管理が緩和されたことで、台湾軍が老朽化したF16の整備を行い、部品を台湾で製造できるようになったと語った。
また蕭氏は、台湾周辺での中国の軍事活動の強化には、国際的な支援と台湾海峡が国際水域であることを保証する「航行の自由作戦」の強化で対応していると言う。中国は最近、米国や同盟国の軍艦が頻繁に海峡を通過しているにもかかわらず、海峡は自国の領海だと宣言した。
「グレーゾーン」での脅威
台湾は「グレーゾーン」の脅威にも直面している。蕭氏によると、中国は共産党の戦略的目的を達成するために、偽情報やその他の影響工作を利用している。中国は来年1月の台湾総統選に干渉しようとするとの見方が強い。
国民党の馬英九前総統は3月に訪中し、国民党が現在の民進党政権よりも中国に対して融和的な政策をとることを示した。
馬氏の訪中について聞かれた蕭氏は、次のように答えた。「前総統の代弁者を気取るつもりはないが、台湾の人々のより広い願望について話すことはできる。それは、脅しや強制のない環境で選挙を行い、台湾の人々が自由に最高のリーダーを選べるようにしたいということだ。それが私たちの究極の目標だと思っている」
蕭氏は、中国の干渉に対する懸念は、「横行する」偽情報や中国の立場を支持する「フェイクニュース」の宣伝を通じて、国内政治に浸透していると述べた。
中国からのサイバー攻撃の脅威もある。ペロシ氏が台湾を訪問した後、中国のハッカーが台湾のデジタル掲示板を攻撃し、偽情報を流した疑いが持たれている。
「彼らの目的は、民主主義を弱め、社会に分裂と不満を植え付けることだ」。蕭氏はこう指摘した。
経済戦争
蕭氏によると中国はまた、経済制裁など経済的な手段で、台湾の企業を締め付け、圧力を強めている。
「しかし、皮肉なことに、もし彼らが台湾の人々の心をつかもうとするならば、そのための最善の方法は、私たちを脅すのをやめることだと思っている」
「(中国の支配政党は)私たちの選択、私たちの生き方、人々が選び、受け入れている政治体制に敬意を示すべきだ。それが一番いい方法だと思う。しかし、中国がしていることはどれも、台湾人の意思を尊重したり、受け入れたりすることに反している」
蕭氏は、台湾内外で中国の共産主義イデオロギーに対抗する最善の方法は、台湾国内の民主主義を強化することだと述べた。
「私たちにとって、毎日が挑戦だ。いかにして私たちの民主主義をこうした攻撃に対して強くし、国民が脅迫されることなく自らの意思で決定できるような空間を作るか。しかし、長い目で見れば、台湾の自由を守り抜くことで、中国の人々にも自由を味わわせる機会がめぐってくる可能性が出てくる」
マイク・ポンペオ前米国務長官は、台湾と中国の戦争が他の国々を巻き込まない事態は考えられず、中国を抑止する必要性がより切実になっていると述べた。
「台湾の主権を守るために動くべき時は今であり、(中国の)ロケットが飛んできてからではない」