北朝鮮、中国国境に壁、コロナ・脱北を懸念か

(2023年6月2日)

2022年3月11日、北朝鮮政府提供の未公開写真で、北朝鮮の金正恩委員長が北朝鮮の通昌里にあるソヘ衛星発射場を訪問した。この画像の内容は提供されたものであり、独自に検証することはできない。情報源から提供された画像には、韓国語の透かしがある: 朝鮮中央通信の略称である「KCNA」。2023年5月30日(火)、北朝鮮は6月に初の軍事スパイ衛星を打ち上げる計画を確認し、こうした能力は米国がライバルである韓国との「無謀な」軍事演習を監視するために不可欠であると説明した。(朝鮮中央通信/韓国通信社 via AP)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Monday, May 29, 2023

 【ソウル発】北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、2018年と2019年に行われたトランプ米大統領との会談に感化され、その目玉政策の一つを採用したのだろうか。

 北朝鮮の国家意思決定をめぐる不透明さを考えると、それを知ることは不可能だ。ただ、確実に言えるのは、金氏の最も重要な同盟国であるはずの中国との840マイル(約1350キロ)の国境の大部分に壁が作られているということだ。

 ロイター通信は先週末、商業衛星画像を用いた詳細なリポートで、北朝鮮北部の国境沿いの最新動向を伝えた。孤立した国家、北朝鮮はこの国境によって中国と隔てられ、北東部の10マイル(16キロ)国境の向こうにはロシアの極東部がある。

 トランプ氏は候補者だった時も、大統領だった時も、移民を排除するために米南部の国境沿いの壁建設を推進したが、金氏が北の国境沿いに建設している壁は、明らかに移民になろうとする人たちを閉じ込めるためのものだ。

 この壁は北朝鮮ウオッチャーの間で5年前から話題に上るようになり、アナリストらによると、強固な支配体制を敷く独裁者、金氏が出した方針のもとで建設が進められている。

脱出を阻止するための壁

 北朝鮮では、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や海外からの感染に対処するために試行錯誤を重ねた結果、ある手法が確立された。国境の封鎖だ。重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が発生したときもそうだったが、新型コロナが出現すると、この手法は過剰に利用され、2020年に政権の完全な支配力を生かして、ロシアと中国の国境沿いの密輸と脱北者のルートまでも遮断された。

 ロイター通信は商業衛星のデータを引用し、2020年前後の国境地帯の画像を比較対照し、新たに長大な障害物が出現していることを発見した。

 それによると、2020年以降、「北朝鮮は数百キロに及ぶ国境のフェンス、壁、監視所を新設または強化した」。

 衛星画像には、一重、二重のコンクリート壁、新しいフェンス、監視所が写っている。

 ソウル国民大学の北朝鮮ウオッチャー、アンドレイ・ランコフ氏は、感染者、死者の数は依然、国家機密として隠されたままだが、新型コロナの流行は、北朝鮮にとってある意味、好都合だったと指摘した。

 ランコフ氏はワシントン・タイムズに「北朝鮮は独裁国家だが、それでも金氏は世論に配慮せざるを得ない。望んだことを何でもできるわけではない。国民の生活を困難にする場合、その決定を正当化するものが必要となる。パンデミックはそのための格好の理由を与えた」と述べた。

 ランコフ氏は、パンデミック対策として、国内移動の規制強化や国境管理のための「前例のない」軍隊の配備により、国内の一部を遮断したと述べた。

 しかし、国境管理は、国境を越えた密輸を取り締まるというよりも、脱北者の出国や外部からの情報の侵入を防ぐことを目的としており、パンデミックよりずっと以前から行われていた。

 北朝鮮の南部国境は、地雷原、有刺鉄線、探知センサー、サーチライトを備え、パトロールが行われ、数十万人の韓国軍兵士が警備する非武装地帯(DMZ)がある。非常に危険であり、ここを越えるのは容易ではない。

 まったく越えられないというわけではないものの、この「竹のカーテン」があるために、飢餓、抑圧に直面し、希望を失って、母国を出た何千人もの脱北者が、危険の少ない北の国境を越えて、中国に渡った。

 そこには、キリスト教活動家やNGO(非政府組織)、「ブローカー」と呼ばれる職業的な密入国業者(その多くは脱北者自身)によって運営される「地下鉄道」が走っている。

 主要なルートはモンゴルや東南アジアに通じている。そこから脱北者は、韓国の領事館からの援助を受け、ソウルへと渡ることができる。

 だが、これは運のいい人々だ。運の悪い人(その数に関する信頼できるデータは存在しない)は、中国国内の人身売買の網に引っかかり、場合によっては、農村での奴隷労働、性的奴隷、強制結婚といった悪夢のような生活を送ることになるかもしれない。

フェンス、わな、狙撃手

 金氏は2011年に父が死亡し、権力を掌握、それ以来、北方の警備は着々と強化されてきた。韓国政府の統一省が把握している脱北者の数からは、この警備強化が効果を上げていることが分かる。

 2011年には、2706人の脱北者が韓国に到着した。2012年には1502人にまで減少。2015年は1275人だった。新型コロナの年である2020年には229人に激減した。2021年には63人、2022年には67人となった。

 「フリーダム・スピーカーズ・インターナショナル」の共同創設者で、ソウル在住の米国人、ケイシー・ラーティグ氏は、「何を思って、人々の自由を封じようとしているのか、知るよしはない。しかし、より多くの人々が情報を入手し、脱出しようとしていることは知っているはず。これが(金氏を)怖がらせている」と述べた。

 フリーダム・スピーカーズは、韓国に到着した脱北者を支援し、英語のレッスンを提供し、脱北者らが自身の経験について議論し、世界に向かって経験したことを発信するのを支援している。ラーティグ氏は、国境沿いに設置されたわなについて、脱北者の話を聞いたことがあるという。落とし穴や、脱北者の足に刺さるようにくぎを打ち付けた板が埋められている。

 それでも、脱北者や密輸業者が国境警備隊を買収することができていた時期もあった。しかし、新型コロナが登場すると、射殺命令を受けた特殊部隊のスナイパーが投入され、国境を封鎖したという。

 金氏の死に物狂いの新国境政策の中で、2020年9月、韓国にとって衝撃的な出来事が起きた。

 国境付近の黄海で、船から転落した漁業当局者が、北朝鮮の哨戒艇からの銃撃で死亡。遺体はガソリンをかけられ焼かれた。詳細は不明な点が多く、北への亡命を望んでいた可能性も指摘されている。

中国を警戒

 中国と北朝鮮の間に立ちはだかる壁の建設は大部分が、2人の前任者ではなく、金正恩氏によって進められた。

 ランコフ氏は「外界の情報にあまり関心を示さなかった父親とは違い、金氏は人々をできるだけ隔離しておく必要があると考え、意欲的に取り組んでいる」と言う。

 1948年の建国から1994年まで北朝鮮を統治した金日成の時代、北の暮らしは中国の水準と比較しても悪くなかったという。

 1994年から2011年まで統治した金正日総書記の時代には、経済が崩壊し、飢餓に襲われた。そんな中、北朝鮮の人々は中国への出稼ぎや貿易を許可され、食料や医薬品を持ち帰ることができた。その後、経済と社会は安定した。

 ランコフ氏によれば、北朝鮮ウオッチャーは5年以上前から国境の壁の設置を耳にしていた。それ以前は、旅行者が両国の間に障壁がないことに驚くということがよくあったという。記者も2016年に中朝国境を車で走り、同じような印象を受けた。

 フェンスや警備が見える地域もあれば、存在しない地域もあった。例えば、中国の図們という町では、国境を隔てるのは細い川だけで、脱出を決意した人なら、数秒で通り抜けられるようになっていた。

 新しい衛星データでは、こうした隙間は埋められつつあり、金正恩氏は、外国からの影響や誘惑をほぼすべて遮断しようとしている。

 ラーティグ氏は「北朝鮮ウオッチャーは10年前、金正恩は西側で教育を受けたから変化を受け入れるだろうと考えていたが間違っていたことがはっきりした」と述べた。

 「金氏は海外に住んでいたため、外の世界の情報が拡散されれば、不安定化し、どうしようもなくなることを知っていた。長期的には、自国民にできるだけ知らせないことが必要であることを理解していた」

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