ニジェールでクーデター、米国は周辺地域への影響懸念

(2023年8月1日)

ニジェールのニアメで、クーデター指導者アブドゥラフマン・チアニ将軍の支持者が呼びかけたデモ行進に参加するロシア国旗を持ったニジェール人(2023年7月30日、日曜日)。反乱を起こした兵士たちが民主的に選出されたニジェール大統領を追放してから数日が経過し、ニジェールの将来は不透明さを増している。(AP Photo/Sam Mednick)

By Ben Wolfgang – The Washington Times – Monday, July 31, 2023

 ニジェールの混乱と政変は、米国の敵対勢力に大きなチャンスを与え、アフリカ全域での米国のテロ対策任務を危うくする可能性がある。首都ニアメーで展開中の軍事クーデターに西側はなす術がなく、バイデン政権には選択肢がほとんどない。

 テキサス州ほどの大きさのアフリカ中央部のこの国は、米国ではあまり知られておらず、政策議論が行われることもない。だが、アフリカ大陸での影響力と同盟国をめぐる大国の戦略では非常に大きな役割を果たしている。選挙で選出されたモハメド・バズム大統領が解任されたとみられ、これが、この地域での米国など西側諸国の利益にならないことは間違いない。

 ニアメーで行われた軍を支持するデモでは、「ロシア万歳」などのスローガンが叫ばれていたと報じられ、アフリカ大陸で米国の敵対勢力が影響力を増していることが裏付けられた。ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は、バズム氏を追放した軍事クーデターを賞賛し、国の秩序を回復するために戦闘員を派遣し、支援することを申し出ていると伝えられている。

 このクーデターを通じて、プリゴジン氏とロシアのプーチン大統領との間に深い溝があることが改めて明らかになった。ロシア政府は自宅軟禁中のバズム氏の釈放を求めた。ワグネルがクーデターに何らかの役割を果たしたかどうかは分かっていない。

 ロシアの関与はさておき、ニジェールは民主主義から後退し、軍事独裁政権に向かっているように見えるが、アナリストらはこれは当然の成り行きだと言う。また、米国はニジェールに無人機基地を持ち、1000人以上の兵員を駐留させているものの、それほど深い関与はしておらず、それが状況の悪化を招いていると指摘。この地域では米国の敵対勢力が勢いを増し、優勢で勢いがあるように見え、ニジェールはこの地域で最初に倒れるドミノになるかもしれないと警告している。

 元国防省高官で、現在はアメリカン・エンタープライズ研究所の上級研究員のマイケル・ルービン氏は、最近の分析で「ほこりっぽいアフリカの街角でロシアの国旗が現れたのは組織的な活動によるものとは考えにくい。それよりも、米国がまた、不意打ちをくらったということのようだ」と書いている。

 「米国は外交、防衛、情報収集に何千億ドルも費やしているにもかかわらず、政権を問わず、国、地域、大陸全体にわたる積極的な戦略を実行することなく、事後対応に終始している。言い訳はできない。ロシアがサヘル(サハラ砂漠南部一帯)に侵入しても、第2次世界大戦後にソ連が東欧を席巻したように、今後数十年間にわたって影響を及ぼすようなことはないだろう」

 これまで、ニジェールはこの地域で機能している数少ない民主主義国家の一つだ。数十年にわたる軍事政権と数々のクーデターを経て、2021年4月、ニジェール人はマハマドゥ・イスフー氏からバズム氏への初の平和的政権移譲を果たした。

 バイデン政権はまだ希望を持ち続けている。国務省のミラー報道官は31日、ニジェール軍が民主的に選出された大統領を拘束したように見えるが、この状況を「クーデター」と呼ぶことを改めて拒否した。クーデターと判断すれば、政権として相応の対応を取らなければならなくなり、事態に影響を与えることができなくなる可能性がある。

 ミラー氏は記者団に「状況が依然、流動的であるため、まだ決定は下していない。私たちは状況を注視し、監視し、バズム大統領の追放を阻止しようとしている」と述べた。

 ミラー氏は、ニジェールへの「数億ドル」に上る米国からの資金援助は「非常に微妙な状況」であり、選挙で選ばれた政府が政権を回復しなければ、打ち切られる可能性もあると強調した。

 クーデターの陣頭指揮を執り、バズム氏を大統領官邸に拘束しているアブドゥラハマネ・チアニ将軍は、権力を手放す気配はない。このクーデターは、サハラ以南のアフリカ諸国で過去3年間で7回目となる。

 チアニ将軍(59)はバズム氏の大統領警護隊を率いていたが、クーデター正当化の理由は、近隣のマリやブルキナファソの軍事指導者らと似ている。特に、軍指導者らは、この地域で広く活動しているイスラム過激組織を撃退することは、文民政府では難しいと主張している。

 チアニ氏は先週、権力を掌握した際に「これまで提案されてきたようなアプローチを続けることはできない。このままではわが国が徐々に消滅していくことは避けられない」と訴えた。

大きな影響

 今後数日間は、ニジェールの政治的将来と、この地域の安全保障にとって極めて重要となる。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は週末、政府を直ちに復活させるよう要求した。

 「(ECOWASの)要求が1週間以内に満たされない場合、ニジェール共和国の憲法秩序を回復するために必要なあらゆる措置をとる。そのような措置には武力行使も含まれる」

 米国のアントニー・ブリンケン国務長官は30日、ECOWASの声明を賞賛し、米国はアフリカの同盟国と協力して次のステップに進むと述べた。米国がECOWASの直接的な軍事力を支持するかどうかは明らかになっていない。

 いずれにせよ、米国への影響は大きい。

 ニジェールは内陸に位置し、世界で最も貧しい国の一つだが、アフリカ大陸、特にアフリカ北部のサヘル地域は、過激組織の世界的な温床となっている。

 米国の対テロ活動におけるニジェールの役割は、2017年10月に4人の米軍特殊部隊と4人のニジェール兵が過激派の待ち伏せで死亡したことで、注目を浴びるようになった。米軍はニジェール兵とともに、過激組織「イスラム国」(IS)系の過激派を追跡していた。

 標的の位置を特定できず、部隊は基地に戻り始めたが、トンゴトンゴ村付近で計画的と思われる待ち伏せを受けた。

 この事件は米議会に大変な混乱をもたらした。著名な議員の中には、米国がニジェールに軍隊を駐留させていることすら知らなかったという者もいた。

 それ以来、米軍の作戦でのニジェールの重要性は増している。ニジェールには二つの重要な米軍無人機基地があり、少なくとも1000人の米兵、フランス、イタリアなど欧州諸国の分遣隊が駐留している。

 ニジェール南部の一部を含むアフリカのサヘル地域は、ISやアルカイダ、「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)などの過激派グループの温床となっている。

 アナリストらは、近年の他のサヘル諸国と同様、ニジェールでも本格的な軍事クーデターが起きれば、過激主義がさらに助長される可能性があると警告している。

 ハドソン研究所のジェームズ・バーネット研究員は最新の分析で、「首都で繰り広げられる政治的・軍事的な混乱や、重要な問題で政権がどのような立場をとるかについては、まだ不明な点が多いが、政権が近隣諸国と同じ過ちを繰り返す危険性がある。サヘルの一国で軍隊が、聖戦主義者の暴力を封じ込められなかった政府に対する民衆の不満に乗じて政権を倒し、そうなれば聖戦主義者の暴力がエスカレートするだけだ」と書いている。

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