バイデン氏訪越、地域の安定模索も中国は警戒
By Andrew Salmon – The Washington Times – Monday, September 11, 2023
明らかに疲れているように見えるバイデン大統領の記者会見は、2日間のベトナム訪問の中で多くの注目を集めたが、見た目の頼りなさにもかかわらず、政府当局者は、この歴訪は急速に変化するインド太平洋の戦略的地図上の空白を埋めるのに役立ったという。
だが、バイデン氏の側近らがハノイでの記者会見をマイクを切って終わらせ、バイデン氏は疲れた様子であり、休む必要があると宣言したことで、80歳のバイデン大統領の体力を批判してきた人々は、新たな攻撃材料を手にした。
しかし、米代表団にはアントニー・ブリンケン国務長官が同行しており、具体的な成果を挙げた。その一方で中国の侵略に対し、地域の反発が強まっていることがいっそう明確になっている。
バイデン氏は、この点について改めて指摘することはせず、ベトナムの北の隣国、中国に助けの手を差し出し、中国が米国とベトナムの関係改善について心配する必要はないと強調した。
「これは、中国を封じ込めるためではない。安定した基盤を築くためのものだ」
バイデン氏とベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長との会談のハイライトは、予想されていた通り、2国間関係の「包括的戦略パートナーシップ」への格上げの発表だった。
バイデン氏は、「われわれは、世界中で同盟関係を強化し、安定を維持していく。それが、今回の訪問の目的だ」と述べた。
両国は10日、ベトナムの半導体産業を強化する覚書に署名した。これは半導体の供給を受ける米国企業を支援するためだ。米航空宇宙大手のボーイングは、ベトナムにボーイング737を50機売却する78億㌦の契約に調印し、マイクロソフトやエヌビディア(NVIDIA)などは、人工知能(AI)の分野でベトナム企業と提携することで合意した。AIは、中国が支配したがっている分野だ。
同盟関係の構築はバイデン氏のインド太平洋をめぐる焦点であり、今回のハノイ訪問でも、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)のためにインドを訪れた際にもこの点は強調されていた。2021年、バイデン氏はオーストラリア、英国との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」協定に調印、米国は今年に入って、フィリピンと新たな駐留協定で合意し、日本、韓国との3国間協力を強化した。
ベトナムは中国の南西部と接し、小さな隣国、カンボジアやラオスに強い影響力を持ってきた。
ソウルの韓国外国語大学の国際関係専門家、メイソン・リッチー氏は、「ベトナムは戦略的に重要な位置にあり、中国と国境を接し、南シナ海に長い沿岸部を持つ。そこに基地がなくても、何らかの影響力を持つことはできる」と述べた。
中国とベトナムは強固な経済関係を築いているが、1979年には国境紛争が起き、現在では南シナ海の領有で対立、海上で衝突が起きている。これが米国が介入するきっかけとなった。
ベトナムは伝統的にロシアから潜水艦など武器を購入してきた。米国はこの関係を断ち切ることを望んでいる。ある軍需産業関係者は、ベトナムは近い将来、西側から武器の供給を受けるようになると予想していると語った。
しかし今のところ、米国とベトナムの軍事関係は強くない。
シンガポールを拠点とするシンクタンク、パシフィック・フォーラムの安全保障専門家アレックス・ニール氏は、「この関係の多くは沿岸警備・パトロール能力と海洋状況把握に焦点が当てられており、これは数年前から議論されている」と述べた。
中越両国共産党の関係は良好だ。しかし、中国での人件費の高騰や政治的リスクにより、さまざまな企業が中国からの撤退を余儀なくされるなか、ベトナムはその代わりとなる地として投資家の関心を集めている。
2022年、ベトナムは人口9470万人を擁する東南アジア第4位の経済大国となった。また、若く規律正しい労働力を有し、ハイテク産業が成長している。
バイデン氏は議会の対中強硬派から、中国のライバル企業への米経済の依存を減らすよう圧力を受けているが、バイデン氏はさらに、人権や自由が侵害されているのではないかという疑惑を持たれてきたベトナムの共産主義政権とのこのような緊密な関係を築くことで政治的リスクを冒した可能性がある。
ニール氏は、バイデン氏を歓迎するためにハノイでパレードが行われたことを指摘しながら、「米国内の反対勢力が黙っていることはない。米議会が、ベトナムとの貿易の機会と中国への侮蔑と引き換えに、見て見ぬふりをするとすれば、それは興味深いことだ」と述べた。
中国共産党政権は少なくとも公式には、バイデン氏の訪問を冷静に受け止め、外務省の報道官、毛寧氏は11日、北京で記者団に対し、ベトナムは北の巨大な隣国との「安定し、健全な」関係を「最優先事項」としてきたと繰り返し語った。
「われわれは、米国がアジア諸国に対処する際、安定、協力、発展という地域諸国の共通の願望を尊重し、国際関係の基本的規範を順守し、覇権主義と冷戦思考を放棄することを求める」