北朝鮮、金一族ゆかりの白頭山「巡礼」を奨励

(2023年12月12日)

2023年12月3日、北朝鮮の平壌で開催された「全国母親大会」で演説する金正恩朝鮮労働党委員長。北朝鮮政府が提供したこの画像に写っている行事を取材するため、独立ジャーナリストは立ち入りを許可されていない。この画像の内容は提供されたものであり、独自に検証することはできない。情報源から提供された画像には韓国語の透かしがある: 「KCNA」とは朝鮮中央通信の略称である。(朝鮮中央通信/韓国通信社 via AP)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Sunday, December 10, 2023

 北朝鮮国営メディアは、古今東西の朝鮮人が崇拝する白頭山の冬季登山を国民に奨励している。

 朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は8日、何千ものグループが金正恩総書記に倣って白頭山に登ったことを称賛。「革命精神」の高揚のため国民に白頭山登山を促している。

 北朝鮮専門家らによると、神話に彩られてきたこの山は金一族の新しい神話と結びつけられ、3世代にわたって北朝鮮を支配してきた一族を支える強力な個人崇拝の中核的要素とされてきた。

 1970年代から1980年代にかけて流布したプロパガンダと東アジアの聖なる山の伝統が融合し、金正恩氏とその先祖、次の有望な世代を貫くとされる「白頭山の血統」の伝説が生まれた。

 父と祖父の後を継いだ現在の独裁者、正恩氏は、たびたびこの地で写真を撮っている。最も有名なのは2019年、特注の乗馬服に身を包み、白馬に乗って白頭山の雪道を走る姿を写した写真だ。

 国民が栄養失調に悩まされる国で、肥満した人物が英雄のようにポーズをとる画像は、英語のソーシャルメディア上で失笑を買ったが、北朝鮮の人々にとってそれは重要なことだ。

 移動の自由、情報の自由、結社の自由、表現の自由がない閉鎖された国家で、正恩氏は、宗教的な熱狂ともいうべきものに包まれており、白頭山は重要な巡礼地となっている。

強大な山、英雄・金正恩氏

 白頭山は、中国との国境をまたぐ死火山であり、中国では長白山と呼ばれている。火口には水竜が棲むという伝説のある美しい湖があり、標高は2744㍍で朝鮮半島の最高峰だ。

 東アジアの人々は長い間、この山を崇拝してきた。日本には富士山がある。学者でツアーガイドのデービッド・メイソン氏によると、中国の賢人や皇帝は特定の山と結び付けられ、祠や巡礼地を備えた山系が公式に定められていた。

 古代の朝鮮半島の人々も、この概念を受け入れていた。

 韓国の霊峰を専門とするメイソン氏は、「山は、韓国のさまざまな王国や王朝の建国神話に大いに利用されてきた」と言う。神話に登場する最初の朝鮮人、檀君はこの山で生まれたとされている。

 「北朝鮮が非共産主義的で反マルクス主義的であることはよく言われるが、それは伝統的に山岳地帯に住んできた王朝を大切にしてきたからだ」

 中国共産党の創始者である毛沢東は、強力な個人崇拝を受けていたが、王朝を作ることはできなかった。

 金日成は、ソ連の支援を受けて北朝鮮を支配下に置いたが、毛以上の成功を収めた。金日成の息子、正日と孫の正恩は、北朝鮮で強力な権力を握り続け、その支配力は今日まで続いている。

 1912年生まれの金日成は共産主義者であり、ゲリラの指導者だった。30年間亡命生活を送った後、第2次世界大戦末期の1945年にソ連軍が満州と朝鮮北部に侵攻した際に朝鮮に戻った。

 金日成が起こした朝鮮戦争の惨劇の後、個人崇拝はさらに強まった。

 1970年代から1980年代にかけて、北朝鮮は金日成と白頭山を結びつけるプロパガンダを行った。森の斜面に秘密のゲリラ本部を設立し、日本軍と戦っていた時にそこで息子を産んだと主張した。

 韓国在住のロシア人朝鮮専門家で、平壌の金日成総合大学に留学した経験があるアンドレイ・ランコフ氏は、「これは完全なプロパガンダであり、幻想だ。このようなキャンプは存在しなかった。しかし、白頭山の神話は、北朝鮮の国家建設と、金一族に欠かせない『朝鮮人らしさ』にとって極めて重要だ」と述べた。

 1970年代から80年代にかけて北朝鮮メディアの裏方として働いていた金日成のロシア生まれの息子は、出生時にユーリと名付けられたが、金正日という朝鮮名を名乗るようになった。

 金正日の伝記作家であるマイケル・ブリーン氏は、「彼は父親の個人崇拝に大きな影響を与えたが、賢明であり、自らを前面に出すことはなかった。そこに彼自身の正統性があった」と指摘した。

 金正日は1994年に父親が死去し、共産主義国家としては史上初の王朝の後継者となった。2011年に金正日が死去した後は、実の息子である金正恩氏が引き継いだ。

 正恩氏の妹の与正氏も、金王朝の権威付けに貢献している。与正氏は党の高官であり、国営メディアのコラムニストでもある。尊敬する祖父のイメージに近づけることで、兄、正恩氏の公的な評価を高めたと評価する声もある。

 北朝鮮の公式な像、絵画では、正恩氏は馬に乗っている。金正日の有名なポスターには、白頭山に立つ姿が描かれている。

神聖な風景

 平壌駐在経験のある外交官によれば、平均的な北朝鮮人は「白頭山の血統」を信じているという。非武装地帯(DMZ)の南側の韓国では、金正恩氏を称賛する韓国人はほとんどいないが、白頭山はそこでも有名だ。

 白頭山は韓国の国歌の冒頭で歌われ、その火口湖は絵画やポスター、カレンダーに頻繁に登場する。国境に位置しているにもかかわらず、韓国の若者は、この山は中国ではなく韓国のものだと学校で教わるという。

 南北関係が一時的だが改善した2018年、韓国の文在寅大統領(当時)が訪朝した際、正恩氏とのケーブルカーでの白頭山登山が強調されたのは偶然ではない。

 現在、正恩氏は家族のメディアへの露出を拡大しているようだ。娘のジュエさんと一緒に何度も登場し、妻の李雪主氏も冬の白頭山で一緒に写真を撮っている。

 専門家らは、公式には内情の分からない北朝鮮だが、象徴的な山、英雄化された支配者一族、北朝鮮そのものの間に築かれたつながりは非常に重要だと言う。

 かつて北朝鮮当局者との交渉に携わった元米陸軍中佐のスティーブ・サープ氏は、イスラム教であれ、キリスト教であれ、『キム教』であれ、さまざまな宗教の人々が、それぞれの聖地を巡礼している」と言う。

 「私たちは他者の宗教や文化を尊重するよう奨励される時代に生きているが、北朝鮮のような国家を尊重すべきではないと思う。尊敬できる国ではない。しかし、神聖なものの象徴であり、奥深くにあるものであり、(北朝鮮の神話は)否定すべきではないと思う」

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