「パラサイト」出演俳優が死亡 高い韓国の自殺率

(2023年12月29日)

2023年12月23日(土)、韓国・仁川の仁川警察署に到着し、車から降りる俳優のイ・ソンギュン。アカデミー賞受賞映画『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンが意識不明の状態で発見されたと、韓国警察が12月27日水曜日に発表した。警察官は水曜日にソウルの未確認の場所で意識不明のイ氏を発見したが、それ以上の詳細は明らかにしなかったという。(Son Hyun-kyu/Yonhap via AP)

By Andrew Salmon – The Washington Times – Wednesday, December 27, 2023

 【ソウル】韓国の大ヒット映画「パラサイト 半地下の家族」出演で知られ、最近、薬物疑惑が取り沙汰されていた俳優イ・ソンギュンさん(48)が27日に亡くなった。自殺とみられている。

 韓国では近年、著名人の自殺が相次ぎ、世界的に話題となっている。イさんの死はすぐに報じられ、全国的な注目を集めた。

 聯合ニュースによると、警察がソウルの山腹の公園で車の中で死亡しているイさんを発見。車内からは練炭が見つかっている。練炭は一酸化炭素中毒を引き起こし、韓国で自殺によく使用される。

 報道によると、警察はクリスマスの週末に薬物使用の疑いで李氏を取り調べていた。イさんは取り調べの際にうそ発見器にかけることを要求し、薬物検査は陰性であったと伝えられている。

 また、イさんはソウルの江南地区でバーのホステスにだまされて薬物を服用し、その後脅迫されたと報じられている。

 イさんは、2007年の韓国ドラマ「白い巨塔」で一躍有名になった。2019年にはブラックコメディー映画「パラサイト」で裕福な一家の家長を演じ、世界的に知られるようになった。

 中流階級の苦悩を描いたこの映画は、新型コロナ前の世界の時代精神を捉えた。2020年には、ハリウッドで外国語映画として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した。

 イさんの事件の特殊な要因がいくつかあり、家族、友人、当局は疑問を投げかけている。韓国では自殺が非常に多く、世界的に成功した国とみられているこの国で、大きな懸念材料になっている。

韓国の自殺

 韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国中、一人当たりの自殺率が最も高い。OECDは市場主義経済の37の民主主義国で構成されている。

 韓国の自殺率は、人口10万人当たり24.1人と、OECD平均の9.7人の2倍以上に上る。最もリスクが高いのは高齢者だが、著名人の自殺は大きく報じられる。専門家らは、これにはさまざまな要因が絡んでいるとみている。

 韓国は過去半世紀の間に、中流階級の繁栄と完全な民主主義を達成した。国民の行動、願望、価値観は欧米に似ている。

 韓国の社会文化は伝統的に、個人主義よりも共同体を重んじ、それは社会の強い同調圧力からみてとれる。自殺は恥からの逃避であったり、疑惑への抗議の一つの手段であると分析する専門家もいる。

 特に危険なのは、清廉潔白を求められる芸能人だ。2008年に人気女優のチェ・ジンシルさん、2017年には韓国の男性アイドルグループ「SHINee」のボーカル、キム・ジョンヒョンさんが自殺した。

自殺の背景

 専門家らはよく、韓国社会では協調性が求められると言う。

 ソウル女子大学で韓国学を教えているデービッド・ティザード氏は、「韓国語では世間の目について、『他の人が見ている』と言う。ごみのリサイクルは、見られているからきちんとする。外出するときは、見られているからおしゃれをする」と指摘した。

 ティザード氏は、留学生から周りの人々からじろじろと見られるという相談を受けると、君だけではない、「ここではそれが普通だ」とアドバイスするという。

 著名人は特別に高い基準で見られている。

 例えばBTS。この男性グループが世界的な成功を収めた理由の一つは、ありきたりな品行方正な若者というイメージにある。欧米の同年代の若者が引かれる「セックス、薬、ロック」にひたるライフスタイルとは異なる。

 ソウルを拠点に活動し、「ザ・ニュー・コリアンズ」の著者があるマイケル・ブリーン氏は「セレブに対する期待は欧米とはかなり異なる」と言う。

 「私たちは、一時は素行が悪く、めちゃくちゃな人生を歩んだが、その後、更生した人を称賛する傾向が強い。しかし韓国では、悪事を働いた人を称賛することはない」

 薬物については容赦がない。西洋の医療制度では一般に、薬物中毒は健康や精神衛生上の問題として捉えられ、治療が施される。韓国では、薬物中毒は犯罪として扱われる。

 自白を引き出す上でかなりの自由裁量を持つ司法も、その傾向から強い影響を受けざるを得ない。楽しみとしての薬物乱用が犯罪とみなされ、司法は有罪判決を下しやすくなる。

 検察改革は、韓国では長年の政治的課題である。現行の制度では被告よりも捜査する側が有利と考えている人は多い。

 イさんは警察の取り調べを19時間も受けたという。

 有罪率は高く、ブリーン氏は「司法に目をつけられ、自殺する人は多い」と言う。

 世間体と検察の権力が絡み合い、一部の著名人の自殺につながった。

 家族が汚職で捜査を受けた盧武鉉元大統領の自殺(2009年)や、セクハラ疑惑をかけられた朴元淳ソウル市長の自殺(2020年)などがそれだ。

 ティザード氏は、「韓国では抗議したり、潔白を訴えたりするために自殺が行われることがある。自殺で汚名は晴らされる」と述べた。

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