マスク氏のアメリカ党は民主党優位のレシピ

イーロン・マスクと世界 イラスト:Alexander Hunter/The Washington Times
By Editorial Board – The Washington Times – Tuesday, July 8, 2025
世界一の富豪がトランプ大統領に腹を立てている。イーロン・マスク氏は、最近成立した「一つの美しく壮大な法案」の過剰な歳出に憤り、「アメリカ党」を設立すると宣言した。財政健全性を重視する「中道」の声を掲げ、政治的撹乱要因として動きだすという。
確かに、民主党議員らはもちろん、多くの共和党員も政府の肥大化に真剣に取り組んでいない。歳出削減の話はいつも煙のように消え、国家債務は上昇の一途をたどっている。
マスク氏は、自身が運営するSNS「X」に、「共和党は行政・立法・司法の三権をすべて制したにもかかわらず、政府の規模を大幅に拡大し、過去最大となる5兆ドルの債務を増やす暴挙に出た」と投稿した。
一見すると彼の言い分は正しそうに見えるが、財務省のデータを確認すれば、そうでもない。トランプ氏が5カ月前に大統領に就任した時点で、国家債務は36.2兆ドル。現在もその数字は変わっていない。同じ期間、前年のバイデン大統領はすでに7750億ドルの債務を積み増していた。
マスク氏は、米国の債務は37.1兆ドルに達しているとする債務時計の画像も拡散したが、実際の数字とは1兆ドルの誤差がある。虚偽の情報を根拠にするのは、政党の立ち上げとしてはよろしくない。
ただし、ベセント財務長官が債務時計を一時停止させざるを得なかったという事実もある。政府の財務担当者らは、連邦退職年金の資金を一時的に流用するなどの裏技で、法定債務上限の突破を回避してきた。ハリス副大統領が大統領になっていれば、ずっと前に債務上限を引き上げるか、無視していただろう。
とはいえ、現実として、議会もホワイトハウスもこの厳しい状況を根本から変える力は限られている。予算の4分の3は自動支出、たとえばメディケア(高齢者向け医療保険)やメディケイド(低所得者向け医療保険)、国債の利払いで占められ、財政は持続不可能な道を突き進んでいる。
連邦裁判所の多くは民主党寄りで、マスク氏が期待する政府効率化省(DOGE)による歳出削減は一時的に阻まれていたが、その障害もようやく取り払われつつある。マスク氏が自らの方がこの制約をうまく扱えると主張するのであれば、その方法を具体的に示すべきだ。
テスラCEOのマスク氏は、上院選2~3選挙区、下院選8~ 10選挙区で「正確な場所に極めて集中した力を投入する」と語っている。「議会の票差が紙一重である現状において、その戦術だけで重要法案の行方を左右し、真に国民の意思を反映することが可能になる」という。
だが、第3党が保守票を分断すれば、民主党にとって有利になるのは明らかだ。1992年のロス・ペロー氏による風変わりな大統領選出馬はビル・クリントン氏当選の要因となった。セオドア・ルーズベルトのブル・ムース党も、ウッドロー・ウィルソンをホワイトハウスに導いた。
模範とすべきは、元下院議長のニュート・ギングリッチ氏だ。彼は国政選挙を通じて保守の全国的基盤を築き、下院で54議席を上積みし、ついには国家予算の均衡を実現した。
マスク氏のような才能ある人物が二大政党制の枠内で行動すれば、財政の流れを右に転じさせることができる。さもなくば、それは単なる誇大宣伝にすぎない。